中編2
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『忘れてること』

「どうしたの?」

河原に一人体育座りをしている少年に、少女は話しかける。

『何か、大切なことを忘れてるような気がするんだ。』

少年は、石を川に投げ入れ、答えた。

「思い出せないの?」

『………うん。』

寂しそうにうなずく少年。

『君は?』

「おばあちゃんとこに、行くところ。ずっと入院してて、会えなかったから。」

『そう。おばあちゃんも喜ぶね。』

「…そうかなぁ?」

『きっとそうだよ。僕のおばあちゃん、2年前に死んじゃったから…。』

「……あ、ごめんね……。」

うつむいて謝る少女。

『ううん。いいんだ。』

「忘れてること、一緒に考えよっか?」

『ほんと?ありがと!』

それから、少年はいろんな話をした。

学校のこと

親のこと

友達のこと

大好きな野球のこと

最近覚えた歌のこと

少女は優しく頷きながら、黙って聞いていた。

どれぐらい時間がたっただろう。

それでも少年は、忘れていることが何なのかを、思い出せずにいた───。

「ごめん。そろそろ、行かなきゃ。おばぁちゃんが心配するから。」

申し訳なさそうに、立ち上がる少女。

『そうだね。話を聞いてくれてありがと。またね!』

「まだ帰らないの?」

『帰るって?』

「決まってるじゃない!」

突然少女は立ち上がり、少年の頬を平手打ちした。

『なにすんだよ!僕が……………。』

少女を睨んだ少年の言葉が止まる。

少女の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。

『そっか!僕は……。』

全てを思い出した少年は、その場から駆け出した。

その少年の後ろ姿をじっと見守る少女。

しばらく走った少年は振り返り

『ありがとう!!』

大きく手を振っている。

少女は、少年が帰っていくのを嬉しそうに見送っていた。

そして、

「さぁ、そろそろ行きましょうかねぇ。」

老婆に手を引かれ、少女は川の中へ歩いていった──────。

「先生!患者の脈拍がもどりました!」

「よし。ボスミン心注の用意!メイロンを側管から10ml打て!」

      僕は

      まだ

    生きたいんだ!

時を同じくして

その病院では

一人の少女が

家族に見守られながら

静かに息をひきとった

三途の川で会った少女

十年にも及ぶ

病気の苦しみや

薬の副作用からくる

吐き気や激痛に

その小さな体で

耐え抜いてきた少女は

その壮絶な闘いとは裏腹に

安らかな笑顔を浮かべていたという

誰もが皆

朝、目覚めたときに

忘れていることがある

こうして

今日も

生きている

ってこと───。

故川村カオリさんの言葉

   『明日が来るって

    奇跡なんだ!』

怖い話投稿:ホラーテラー ソウさん  

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