短編2
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さようならバス

最終のバスに間に合った俺は、安堵の息をついた。

(良かった…これを逃したら、帰れなかったよ…)

都心から、埼玉県に向かう最終バスには、乗客も疎らで、数えるほどしか乗ってない。

俺は、酔いにふらつく足取りで一番後ろの席に腰掛けた。

一息つくと、乗っている乗客の後ろ姿が目についた。イチャイチャするカップル、帽子をかぶった老人、それに、走り回る五才くらいの男の子に、そのお母さんらしき女、バスにはそれだけしか乗ってなかった。

(こんな時間に子連れとは、訳ありか?)

俺は、眠気に微睡みながら、そんなことを考えていた。

走り回る男の子に、誰も注意をしない…

まあ、当たり前か、俺もしないし…

と、その時、足の指に痛みが走った。

男の子が、俺の足を勢い良く踏んだのだ。

「痛いなあ!」

俺は、酔いのせいか、大袈裟に言ってしまった。

「おい、バスの中で走り回ったらいかんぞ。」

俺は、お母さんらしき女にも聞こえるくらい大きな声で言った。

しかし、女は振り向くこともしない…

子供も怒られているのに、ニコニコしたまま、謝る気もないようだ…

俺はイライラしてしまい、余計なことを聞いてしまった。

「全く、子供は寝る時間だろ。こんな時間に何処へ行くんだ。」

男の子は、ニコニコしたまま答えた。

「あのね、僕ね、母さんと一緒に、苦しみのない世界に行くんだ!母さんがそう言ってたよ。」

俺はそれを聞いて、愕然とした…

まさかこの親子、無理心中を考えているのか…

男の子の声は周りにも聞こえたはずだ。

だが、他の乗客は、我関せずと、ただ座っている…

俺は、声を高めて男の子に言った。

「苦しみのない世界なんてないんだ。そんな所があるなら、俺だって行きたいさ…

いいか、母さんに言っておけ、今をしっかり見つめ直せと…」

だが男の子は、ニコニコしたまま言った…

「大丈夫!おじさんも一緒に行くんだよ。」

その時、他の乗客のカップルと老人が立ち上がり、こっちに来た。

そして声を揃えて言った…

「苦しみのない世界へ行こう…」

俺は大声で叫んだ、

「降りまあああす!!!」

気がつくと、病院のベッドの上だった…

飲んでる途中、脳梗塞で倒れたらしい…

俺は、今も残る右半身の後遺症と戦いながら、まだバスには乗らないぞと、自分に言い聞かせている。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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