中編5
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4・5F

古い廃病院。ありがちなシチュエーションでの肝試し。

俺とか友達のTとかNはアホみたいに大騒ぎしてたんだけど、Tの彼女は妙に不満げ。

『今時流行らないよ、肝試しなんてさ。普通こんなのではしゃぐ?』

冷めた口調のTカノに俺達のテンションも盛り下げられる。最初は少しノリ気だったくせに、いざ乗り込んでみたらこれだ。

T『怖いんだろ多分。』

そう言った後、Tは俺に耳打ちをする。

『T子(Tカノ)を驚かしたいから手貸せよ。』

いたずらっ子みたいな笑顔でもちかけてくるT。こいつとは小学校以来の悪友みたいなもんで、俺も思わず賛成。

『馬鹿、やめとけよ。可哀想だろ?』

Nが顔をしかめて言う。こいつは少し真面目なとこがあって、いつも子どもとか女の味方をするジェントルマンだ。

でも俺とTがやる気満々だから、Nは溜め息をつき、

『じゃあ俺はT子ちゃんと一緒にいてやるよ。お前らが馬鹿やってもT子ちゃんがパニックにならないように。』

T子に聞こえないように言った。

『Nのやつ、何だよ。気取っちゃってさ~。たかが肝試しじゃんかよ。』

T子がNと一緒なのが妙に不服そうなTだったがすぐに俺の方を向きなおして、

『いいか?俺の言うとおりにしろよ。』

この病院は二棟に別れている五階建ての造りになっている。

俺達が肝試しに決めたルートは、まず門から近いA棟に入り込み、一階の廊下を進む。

突き当たったら五階まで上がって、渡り廊下を使ってB棟に移る。

で、B棟の五階の廊下を歩いて、突き当たったら一階に降りる。

その他の階も行きたかったが、時間がかかることと、T子が嫌そうだったので、こんな最短ルートになった。

Tの作戦。

俺達の現在地はA棟五階の渡り廊下前。つまりB棟に移る手前。

渡り廊下は各階にあるから、俺とTは、T子に気づかれないようにA棟四階まで戻って、四階渡り廊下を使いB棟へ移動。

で、B棟五階まで上がりT子とNを待ち伏せして驚かすという、単純なものだ。

早速、作戦決行。

俺とTは、T子がNと話しているのを確認して、こっそりと四階まで下りる。

Nには内容を教えてない。T子にネタをばらすのがオチだ。

男友達の中じゃ普通にふざけるくせに、ホント女には甘いんだ。

そんなわけで、懐中電灯を握りしめながら、意地悪な笑顔で顔を見合わせる俺とT。

四階渡り廊下にあっさりと到着し、B棟めがけて駆け抜ける。

駆け抜ける最中、渡り廊下から外の風景が見えた。ほぼ暗闇でほとんど見えないけど、どうも院内墓地っぽい気がした。

『いいねぇ、雰囲気出るじゃん。肝試しはこうでないと。』

Tは軽やかな足取りで走っていく。

俺も、墓に対して怖いとかは全然なかったんだけど。

何ていうか。

嫌な感じ…というか、霊感とかない人間だから全然具体的に表現できないんだけど。

嫌な感じとしか言えない何かを、多分B棟の方向から感じた。

ただそんなこと言ってもTにコケにされて終わるのが目に見えてたから、何も言わなかった。

俺も人の子。怖いものは怖いんだ。

だからその時、正直怖いって言っとけばよかった…。

俺とTはB棟四階に到着。入った瞬間、生暖かい気もしたし、ひんやりした気もした。

『よし、五階に登って、T子とNを待ち伏せだ。』

俺達はB棟五階の渡り廊下を目指す。急がないとT子達が渡りきってしまう。渡りきる寸前に驚かす作戦なんだから。

俺とTは階段を探す。

A棟とは少し造りが違うのか、少しだけ離れた所に階段があった。

『急ぐぞ!』

俺もTも階段を慌ててかけ上る。

でもA棟より階段、短くないか?

俺達は階段を上りきり、急いで渡り廊下に向かおうとした。

しかし、渡り廊下があるはずの場所が、何故か壁になっている。

『…何で?』

この病院に、渡り廊下のない階なんて、存在しない。

俺達は数秒間呆然としていたが、

『なんか…気味悪いな。T子達と合流するか…。』

弱気なTに俺も怖くなってきて、黙って頷いた。

俺達は上がってきた階段を振り返る。

俺の、多分Tも、思考が停止した。

階段。今上がってきた階段、つまり俺達から見て下りの階段に。

何か立ってる。

人…?

こんなところに、俺達以外誰がいる?

廃病院だぞ。

T子かNかとも思ったがあいつらが俺達を驚かそうと企むわけがないのはわかっていた。

『誰なんだ…。』

恐る恐る、懐中電灯で照らそうとする。

『ダメ。』

その人影らしき何かは呟く。男の声か女の声かもわからない、何重にも重なったような変な声。

『だ…だめ?』

『ダメ…ダメ…』

主語のない言葉を発しながら、それは近づいてくる。

『くっ…来んなぁ!』

俺もTも悲鳴に近い声を上げて、そいつの横をすりぬけるようにして、上りの階段へ走る。そのまま必死に駆け上がる。

今度は異常に階段が長い気がした。

もう半分泣きそうになりながら、無我夢中で逃げる。

わかるのは、その何かが追ってきてること。

『ダメ…ダメ…』

相変わらず何かを拒絶しながら俺達を追ってくる。

『ふざけんなぁ!ついてくんな!!』

Tが絶叫する。と、同時につまずいてこける。

『何してんだよT!』

Tに遮られて俺の足も止まる。

そいつは。

いつの間にか目の前にきていた。

『イカナイデヨ…一緒ニイテヨ…』

表情なんて多分見えなかったんだけど。

異常に寂しそうな気がした。

『うわあああ!』

Tは飛び起きると、またダッシュで走り出した。

『置いていくな!』

俺も慌てて後を追う。

そして階段を上りきり、踊り場へ飛び出した。

『キャアアアァッ!』

俺達は誰かと激突。

T子だ。

『何すんのよ馬鹿!』

T子は本気で怒って、Tの肩を叩いた。

『何をしでかすのかと思ったら、階段から飛び出して体当たり?馬鹿かお前ら。』

Nが冷ややかに言ってくる。

色んなやつに馬鹿呼ばわりされているが、今はそれどころじゃない。

俺達は二人に今の一瞬で起こった出来事を話す。

渡り廊下のない階。

変な声の化け物。

必死に逃げたら、二人と合流したこと。

『まだおどかそうとしてるのか?』

Nが溜め息混じりに呟くが、俺達の様子を見て、冗談ではないことを察してくれたようだ。

『とにかく出よう…。』

俺達はA棟に引き返してから病院を出ることにした。

A棟への渡り廊下。

やはり院内墓地が見える。

四階で見た時より遠いため、さらに見えなくなったが。

何かがこっちを見ている気がした。

ただ、じっと。

この病院は、かつては名医のそろう立派な病院だったそうだ。

でも、それだけの病院なら、そこで亡くなる人間も大勢いたということだ。

名声に隠れ、ひっそりと死んでいった人々がいることは、いまいち知られていない。

あいつ、…いや、あいつらは、あの廃病院で亡くなったんだろうか?

名医が大勢いる病院。

治ると信じきっていたのに助からなかった者達。

まだやりたいことはたくさんあったんだ。

一緒にいて、色んなこと話そうよ。

あるはずのない場所を造り出して、楽しそうにしてる俺達を招待したかったのかもしれない。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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