中編6
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的屋

初めに・・・幽霊や怪奇現象の話ではありません。日常に潜む恐怖の体験談です。

また本作は作者本人の体験、感想・見解であり、一部の内容は正確な情報ではありません。読者自身のご想像におまかせ致します。長文失礼します。

前作で触れたヤクザの事務所に訪れた経験に関連した話。

とある仕事をしていた時の事。従業員は店長も含め四人。社長、店長、ヒラ二名。小さな店ながらそこそこ儲かっていた、新しい従業員を募集するまでは・・・

新しい従業員が入ってからは、なぜか売り上げは低迷を始める。原因は色々あったが、本編には関係ないので省略。

当時社長から気に入られていて、度々飲みに誘われた。酒の席での話題は売り上げに関して。色々な提案を、さらに翌日からは実践。

売り上げに変化はナシ。

売り上げが下がる理由の一つは誰が見ても明白だった。従業員が増えたのに売り上げは以前のまま。経営が悪化したのは当然。

ある日社長から飲みに誘われた。いつも通りの展開・・・ではなかった。社長の口から予期せぬ一言が。

『次の仕事を紹介するから、一度やめてくれないか?』

なんで?と思った。普通にありえない。だって新人から切るのが社会の仕組み。しかし、社長との会話で納得した。

社長談『売り上げを元に戻したい。でも新人には雇ったばかりで言いにくい。他の従業員でもよかったが、紹介出来る次の仕事は変わっているので、お前以外には切り出しにくかった。』

社長にはすごく可愛がってもらった過去もある。仕事の内容も聞かずにそれならば。と引き受けた。

翌日社長と一緒に車で移動する。とある喫茶店で新たな上司となる人を待った。

現われた人の風貌はヤクザのイメージそのままだった。

ジャージのセットアップにサングラス。パンチパーマに片手には金のブレスレット、さらにセカンドバック。間違いなかった。

社長と新たな上司は古くからの友人らしい。社長に紹介された後、新たな上司と二人きりになる。そこで初めて次の仕事の説明を受ける。

夏祭りでの的屋(テキヤ)。いわゆるヤクザのシノギの一つとされる仕事。祭りの屋台にコワモテの人が店番している風景はこの為。的屋は祭りシーズン中に一気に稼ぐ。シーズン限定で手伝いを頼まれた。

本物を前にして断る。という選択肢は皆無だった。

翌日から新たな仕事の幕開け。祭りの的屋は、祭りの前日と当日以外に仕事はない。つまり週末以外は暇なのである。ところが、この日は平日。

なぜか上司に呼び出され自宅の前で上司を待つ。黒塗りのセルシオに乗せられ、行き先も知らされぬまま車は走りだした。

市街地から郊外へと変化する風景に不安を感じた。海沿いの道で停車。

車を止めて上司に案内されたのは床屋。安心したのも束の間、悲劇が襲い掛かる。

『スッキリさせてやってくれ。』

と上司は一言伝えると店外へ去った。それを聞いた床屋の提案は角刈り・坊主の二択だった。角刈りは論外。坊主を選ぶ。

上司が戻る頃にはすべて終わっていた。だが上司の一言がアレンジを加えた。

『迫力がないなぁ』

時代遅れのソリコミが頭を飾り、残酷な坊主のフィナーレを迎えた。

世間から外れる階段を一段下った後、上司と共に事務所に向かった。不定期の集会が行われると教えてもらった。

さほど大きな組ではなく、構成員も多くはない。不定期の為六人ほど集まり、組長を待った。一台のベンツが事務所へ止まる。

組長は白髪のパンチパーマ。サブちゃんに似ていた。組員一同が挨拶する。

『ご苦労さまです!』

挨拶を知らなかったが、口をモゴモゴしてごまかしつつ頭を下げた。組長は事務所の奥の部屋に入る。上司と位が上っぽい人が後に続き部屋に入る。

初対面のヤクザの中に一人残された!誰とも目を合わせない様に直立不動で部屋の隅に。上司が部屋から出てきたのは三十分後だった。

まずは組長へ挨拶。優しく、がんばれよ!と声を掛けてくれた。次に構成員へ挨拶。同年代らしき奴はコチラを睨んでいたが、他の構成員は普通だった。

長い一日がやっと終わる。ディープな世界は映画そのものだった。世間から外れた階段を三段ほど下った。

翌日。週末でもないのにまた呼び出された。今度は何?と思いつつセルシオへ。車は田舎へ走る。上司曰く、今日はドライブらしい。

民家の前へ着き、車内でまたされる。戻って来た上司は万札を数枚持っていた。集金だ。

的屋として働く以外の時間は上司に呼び出される。二日目にして悟った。

翌日。初の週末。明日の祭りへ備え材料の買い出しへ。いつものセルシオではなく、ボロボロのハコバン。業務用ポテトを大量に購入し、姉さん(アネサン)の喫茶店の冷蔵庫へポテトを詰める。その後なぜか喫茶店の皿洗いをさせられる。

翌日。やっと的屋としての出勤!早朝から前日に上司から預かったハコバンのキーを持ち港へ向かう。違法駐車のハコバンに乗り込み上司の家へ迎えに行く。

不機嫌な上司を乗せハコバンは進む。姉さんの店でポテトを積み、夏祭り会場へ着いたのは昼過ぎだった。

ハコバンから屋台の骨組みを出して組み立てる。途中昼ご飯を食べ、その後再開。すべての準備が終わると日が暮れはじめていた。

やがて夜になり、客がポツポツと集まり始める。中々売れないポテトだが、花火の時間が近づくにつれ、客の列が出来る。ポテトを揚げるフライヤーの油には常にポテトが泳いでいた。

夏祭りには付き物の虫たちが屋台の光に群がる。虫は不思議だ。

何を血迷ったのか、虫たちが油の海へ特攻する。

ドン引きした。上司に相談するも

『そのまま続けろ!手を止めるな!』

キレられて、作業再開。夏祭りのメイン、花火大会が終わるまでの二時間弱。ひたすらポテトを揚げ続けた。

花火大会の終了と共に、客は一気に減る。そこで、大量に揚げ続けた冷えたポテトの残りを大盛り半額で売りさばく。世間から外れた階段を更に下った。

すべてを片付け終わった時刻は午後十一時半。更にハコバンで自宅方面へ運転。長い一日が終わるのは午前二時。体は油まみれてクタクタだった。

夏祭りシーズン中は平日は付き人、週末は的屋というハードな生活を送った。おかげでこの夏は多くの夏祭りに参加し、花火を数年分見た気分だった。

長い前フリ、スミマセン。ここでようやく本題に入る。上司と仲良くなった頃に初めて質問をした。

『油に入る虫たちはそのままで大丈夫なんですか?』

上司は

『俺は食べないから大丈夫!!』(笑)

更に、

『ポテト屋では当たり前。焼きイカよりまだマシ。焼きイカは仕入れ時にコストダウンの為、数年分のイカを買う。モチロンすべては捌けないので、売れ残りは冷凍庫に入ったまま翌年、更に次の年へと繰り越され続ける。いざ売る仕込みをする時に解凍。やわらかくする為に足で踏む!』(笑)

上司の言う内容が事実か定かではないが、信じてしまった。屋台に並ぶイカは何年前のイカ?更に虫油のポテトを笑顔で頬張る客を思い出しゾッとした。

以来、夏祭りで的屋から揚げ物・焼きイカは買っていない。あくまでも個人的な結論なので真偽の保証は出来ません。

アナタは夏祭り、片手に何を装備しますか?

長文の閲覧、お疲れ様でした。最後まで読んでくれて有難う御座いました。

ちなみに・・・・

この夏、世間から外れた階段を下りつつ、最終的にディープな世界の扉まで見えた。しかし、夏祭りシーズン限定。と初めに上司と約束したのでお誘いは丁重にお断わりししまた。

END

怖い話投稿:ホラーテラー ピリリィさん  

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