中編5
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荒御魂 3

■シリーズ1 2 3 4

荒御魂 2の続きです。

僕たちは深夜の森で地を這う「白い手」に追われ、踏み入ってはならない「祠」まで逃げてきました。

「祠」の周りを囲んでいた注連縄の中に入ると、夥しい数の「白い手」は追うのをやめ、「白い顔」を暗闇の中に浮かばせて僕たちを笑っていたのです。

「注連縄を出たらあの化け物達に捕まる」僕たちは極限の選択肢として、恐怖の「祠」で夜が明けるのを待つことにしました。

これ以上、怖い目に遭いたくない。僕たちの願いはそれだけでした。早く・・・早く朝になってほしい。

不気味な樹木が頭上から僕たちに、覆い被さってくるような圧迫感を覚えています。

360度、中央の「祠」と大きな樹木を取り囲み、木々の葉で空は見えません。

まるで、僕たちを逃すまいとその手を伸ばし、周りの木々に捕まっているような錯覚に陥りました。

ただでさえ暗い夜の山で、この場所はひときわ暗くじめじめしていました。

木々に囲まれている湿気のせいでしょうか、中央の「祠」や大きな樹木には苔がびっしりと生えています。

ここはまるでテレビで見た富士の樹海のようでした。

この裏山の中で、生えている草や樹木がこの場所だけ異なっていたのです。

僕たち4人は、それぞれ背中をくっつけ円陣になるように座り込んでいました。

恐怖と必死に闘い、自分の命を守る為に「白い手」が再び襲ってこないか見張っていました。

ザアアアアアアアアアアアアア

時おり木々の葉が風でざわめく音だけの世界。

人間の世界の音は深い森に阻まれ、動物や虫の鳴き声までもが全く聞こえませんでした。

光と音が極端に制限された世界で、僕たちの時間の感覚は完全に麻痺していました。

そしてさっきの「白い顔」たちの声でしょうか。

注連縄の外の暗闇と静寂の中から

「ヒソヒソヒソ」

「ボソボソボソ」

人の言葉の様な幻聴が聞こえてきます。

僕以外のA・B・Cにも聞こえていたのでしょう。

その幻聴をかき消すように

「だいじょうぶ」

「がんばろう」

最初はそう声を掛け合っていました。

1時間・・・

2時間・・・

3時間・・・

どれくらい経った頃でしょうか。

時計などは持っていません。ましてや携帯電話は普及していなかった時代。

小学生の僕たちに時間を確認する術はありません。

疲労と睡魔で、僕たちの意識は朦朧としていきます。しかし、極限の恐怖が僕たちに眠ることを許しませんでした。

そんな中、Bが僕に話しかけてきました。

B「ねぇ・・・」

僕「・・ん?」

B「あの真ん中にある神様って、僕たちを守ってくれたのかな?」

僕「わかんない。・・・でも怖いよ?」

B「あの化け物たちは入ってこれなかったよ・・・?」

僕「そうだね・・・・」

その会話を側で聞いていたAとCは無言でした。

B「ここに黙って座ってたら、怒られるかもよ?」

僕「・・・・じゃあどうするの?」

B「・・・お参りしよう」

小学生だったBには、お墓参りの「お参り」という言葉しか出てこなかったのでしょう。

もちろん、Bも普段ならそんな発想は思い浮かびません。

ただ「怖いもの」に追い回され必死に逃げ回り、辿り着いたこの場所を「怖いもの」と思いたくなかったのです。

子供の悲しい発想でした。

「悪者」が現れた時、「正義の味方」が助けてくれる。

何一つ僕たちを助けてくれるものが無い絶望的な状況で、ここにある「祠」の神様だけは、味方だと信じたくなったのです。

Bなりの希望の光だったんでしょう。

A「・・・ふざけんなよ」

その話を聞いていたAがぽつりと呟きました。

A「こんな誰もこない場所で、手入れもしてないのに、いい神様なわけあるもんか!悪霊だよ!封印されてるんだよ!」

Aは少し声を荒げていました。

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアア

全員「・・・!!」

強めの突風が、木々を揺らしました。

C「・・・でもさ」

Cの声で一瞬、固まっていた全員が我に返ります。

C「ここに何時間もいるけど、何もされていないよ?」

A「・・・・・」

僕「ここで何もされないなら、朝までじっとしてようよ。」

僕の言葉に全員が頷きました。小学校では「裏山に入ってはいけない」と言われていたのです。

(朝まで待てば助かる)

この希望を胸に僕たちは再び、そこでじっと待ちました。

何時間たった頃でしょうか。

僕たちの疲労と睡魔の限界に近づいていました。

その頃にはここが安全であると思い始めました。少しだけ恐怖が和らいでいました。

そこで、じゃんけんで2人ずつ睡眠をとる事にしました。

残る2人はお互いが寝ないように声を掛け、我慢できなくなったら寝ている2人と交代する。

そういう約束でした。

結果、僕とBが最初に寝ることになりました。

僕とBが2人並んで寝て、その両脇にAとCが見張るように座ります。

僕は瞼をとじました。

夢を見ていました。

大勢の人に追われる夢。

森の中

僕の友人や家族

大切な人が次々と捕まり

殺されていきます。

僕は泣き叫んでいました。

・・・・!

・・・・!

・・・・!

「おまえが・・・」

「・・・ざけんな」

僕はBに起こされました。

C「大変だ!AとBがケンカしてる!」

視線を向けると、「祠」の前でAとBが揉み合っていました。そして激しく口論しています。

A「俺のせいじゃないだろ!」

C「お前のせいだ!」

ケンカをやめさせようと、僕とBが止めに入りました。

僕「なんでケンカしてんだよ!」

B「やめろって!」

ようやくケンカが治まり、話を聞くことが出来ました。

C「・・・朝にならないんだ」

僕「・・?」

B「え?」

A「・・・・・」

どうやら僕たちはぐっすり寝ていたそうです。

そして少したった頃、AとCも寝てしまったのです。

毎日朝の5時半に起きて、ラジオ体操に行っていたCは、自分は必ず5時半に起きていたと主張していました。

僕たちの身体も軽く、疲労がとれていました。

本当に長時間寝ていたようです。

僕はもう一度、周辺を見渡しました。

この場所は太陽の光が周囲の木々の葉に遮られ、昼間でも薄暗い場所でした。

(気のせいかも知れない)

しかし、どんなに遠くを見ても、先に見えるのは森林と暗闇です。

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怖い話投稿:ホラーテラー 見世永さん  

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