中編5
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死肉地獄

私の会社の先輩Eさんが体験した話。

小さい頃から虚弱体質で低血圧な子だったというEさん。

あまりに衝撃的なものを目にすると、貧血を起こしてパタリと気を失ってしまうのだそうだ。

血がドバドバ出るホラー映画などは、目も当てられないほど…

そんなEさんが、今でも大きなトラウマとなっているのが数年前の出来事。

当時住んでいたマンションの近くを、なんとなくブラブラ歩いていた時だった。

それは、あまりに突然の事だった。

ドシャッ…!

ものすごい大きな衝撃とともに、目の前に大きな何かが落下してきた。

それが人間だと気づいたときには、頭から血の気がサーっと引いていくのが分かったという。

……………

ハッと気づいたときには、顔が何かに埋まっていた。

慌てて身を起こすと、目の前にはコンクリートに広がる肉と血の塊…

少しずつ周りに群がってきた人々が、Eさんを呆然と見ていた。

もう無我夢中で、その場から逃げるように去っていった。

家に帰り、オエッと流しに嘔吐した。

口の中にまで血が入り込んでいるようで、しばらく物も食べられなかったという。

後に聞いた話では、その高層マンションにすむ男が、飛び降り自殺を図った事が分かった。

これだけでも十分に恐ろしいのだが、話はまだこれからなのだとEさんは話を続けた…

それから一週間ほど経ち、当時の彼氏と2人で街を歩いていた。

「ねえ、たまにはこっちの道にも行ってみようよ」

珍しく、Eさんはいつも通らない道へ行きたいと思ったのだという。

思えば、そこで既に何かおかしかったのかもしれない…

あまり人通りのない静かな道を2人で歩いていた。

2人で楽しく話しながら、のんびりと歩いていると…

グシャ…

足で何か踏んだような感覚があった。

下を見ると、猫の腐乱死体がそこに転がっていた。

プツリ…

またしても、そこでEさんは意識を失った。

そして気がつくと、頬の下には猫の腐った残骸が潰れている。

猫の身体から出てきたウジが顔を這っている…

口の中には激しい腐臭を放つ肉の欠片。

思わずオエッとその場に大量の嘔吐をした。

吐き出したものをみると、その中にもウジが何匹も蠢いている…

ふと気づくと、傍らで彼氏が恐怖の表情でEさんを見ていた。

「な、何…?」

状況が分からず、Eさんは彼氏に話を聞いた。

彼氏の話では、足下の猫の死体を見た瞬間、Eさんが豹変したのだという。

まるで狂ったように、猫の死体に手を伸ばし、貪り食いはじめる…

あまりの恐ろしい様子に、彼氏は止めることも出来ずに呆然と見ていた。

やがて突然パタリと、猫の残骸に顔をうずめるように倒れこんだのだと…

(ただショックで気を失っただけだと思っていたのに…)

Eさんは、記憶にない得体の知れない恐怖に身震いした。

そして、それを境に恐ろしい出来事が幾度となくEさんを襲った。

フラフラと何かにおびき寄せられるかのように、事故現場や死骸の元へと次々に出くわす。

それを目にした瞬間に意識を失い、気づくと死骸の近くで倒れこんでいる…

口の中にはいつも死骸の欠片が残っている。

そんなことが続き、やがてEさんの体は雑菌に侵されみるみる痩せこけてしまった。

ある日、鏡を見ると…

まるで死人のような顔色をした自分の姿に唖然としたという。

さすがに耐えられず、その道に詳しいという友人に相談した。

「あなた、絶対何か憑いてるよ…それもかなりヤバいのが」

その友人に紹介してもらった、信頼のある神社でお祓いしてもらうことになった。

神社の神主さんは、Eさんを見るなり明らかに血相を変えていた。

「よくもまあ、こんなものが……」

Eさんの背後に憑くものを見透かすように、何かブツブツ呟いていた。

「分かりました。どうぞこちらへ」

Eさんが事情を話す前に、すべて察したかのように神主さんは部屋へと案内した。

「一体どこから現れたのか…あなたの後ろには、恐ろしい姿をした死肉喰らいが憑いています」

Eさんは何もいえずに、黙って座らされたまま。

「少しのあいだ、目を閉じていてください…」

言われるがまま、Eさんは目を閉じてじっと待った。

やがて神主さんがお経を読む声が聞こえてきた。

ジャラジャラ…ジャラジャラ…

目を閉じてはいるものの、懸命にお祓いをする様子が、音と雰囲気から想像できた。

………………

しばらくして、声と音が止み静かになった。

そして、長い間の沈黙…

そーっと目を開けると、神主さんの姿はそこには無かった。

ずいぶん待っても戻ってこないので、不審に思ったEさんは神社内を探して歩いた。

(あっ………)

神社の裏庭…

小さな池の近くで、神主さんが屈みこんで何かしている。

もごもご…もごもご……

恐る恐る近づいてみる。

…………っ!!

そこには、神主さんが鳥の死骸をグチャグチャと貪り食う姿があった。

こちらに気づくと、ギョロリと虚ろな目で睨みつけてくる。

「キャーーーーッ!」

あまりに恐ろしくなり、Eさんは神社から飛び出してきてしまったという。

それから数週間後だろうか、Eさんは友人に神主さんが亡くなったという話を聞いた。

道端で犬の死骸を貪り食い、それが喉に詰まり窒息死してしまったのだという。

「私のせいで……」

そう自分を責めるEさんを、友人は優しくなぐさめた。

「あの神主さん…あなたを助けた事を決して後悔はしてなかったよ。

これが私の仕事なんだって、最後まで前向きに闘いながら死んでいったのよ…」

Eさんは悲しさで涙が止まらなかったという。

その後、神主さんの墓へ線香をあげに行き、何度も何度も礼をしたそうだ。

そして、Eさんに例の怪現象が起こることは一切なくなった。

たまに道端の遠くのほうで動物の死骸なんかを見かけると、恐ろしいような悲しいような気持ちになるのだとEさんは寂しげに語っていた…

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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