中編3
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優しい言葉

「とくに十代〜二十代の若い女性に多いのが、リストカットやOD…自傷行為だな」

私の遠い親戚、精神科医をしているFさんは語る。

その時の患者、地元の高校に通っているという少女もまた自傷行為で悩んでいた。

…死にたくはない、むしろ生きたいんだ。

とめどなく溜まる行き場のない哀しみが、誰にも吐き出せなくて…

独り、暗い部屋の中で涙を流しながら自分を傷つける。

「分かりました。まずここへ来てくれたことが、あなたが立ち直る第一歩です。

心の病は、時間は掛かれど必ず治ります。

ゆっくり、慌てずに…一緒に治していきましょう」

少女が心に抱える哀しみや不安、過去の傷…

真正面から向き合い、一つずつ一つずつゆっくりと解決していく。

「ごめんなさい…また、切ってしまいました」

それまで積み上げたものが台無しになってしまったこともあった。

しかし、それでも諦めずに一歩一歩…

一緒になって懸命に、心の問題を乗り越えていく。

その甲斐もあって、少しずつ少女に笑顔が戻りはじめていた。

「あの…私、寂しいです。どうしたら友達って出来るんでしょうか…?」

ある日、少女はそんな相談をしてきた。

「そうだね…まずは少しずつでいい。

自分の出来ることで、周りに優しさを配ってみなさい。」

重い荷物を持っていたり大変な仕事をしている人がいたら、そっと手を貸してあげよう。

疲れている人や落ち込んでいる人を見たら、優しく声をかけてあげよう。

その優しさは、やがて自分に帰ってくる。

そして人のために何かをするということが、自分自身の生きる力になるから。

…その日から、少女の新たな人生がスタートした。

「友達が出来たし、父や母も良くしてくれるようになりました」

そう話す少女の目は、とても綺麗で輝いているように見えた。

「あれ?その傷、どうしたんですか?」

ある日、Fさんは腕の傷について少女に聞かれた。

「ああ…ちょっと、転んでしまってね」

大したことはないと、Fさんは笑って答えた。

「ちょっと、見せてくれますか?」

そう言って、少女はFさんの腕をそっと手に取った。

「痛いの痛いの飛んでけー」

少女は突然、そんなことを優しく唱えだした。

何だか、一瞬フワッと暖かくなったような感覚があった。

(あれ……?)

実に不思議なことに、ジクジク痛んでいた傷の痛みが全く消えていた。

その日家に帰って包帯を外してみる。

我が目を疑ったという。

朝には痛々しくついていた傷が、わずかな跡を残して綺麗に治っていた。

信じられなかったが、少女の話では他にも同じようなことが今まで何度もあったらしい。

言葉に力が宿るという言霊…

また、思い込みにより実際に効果が生じるという現象…

それらはよく聞く話だが、こんなものを実際に目にしたのは初めてだった。

それから少女は無事に立ち直り、精神病院を去っていった。

「未だに信じられないんだが、確かにフワッていう暖かい感覚があったんだよ。」

自分の腕を懐かしそうに擦りながら、Fさんは優しく語っていた。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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