短編2
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影飲み

母の実家がある地方での話。

母がまだ小学生の頃、それに気づいたのは友達数人と遊んでいたときだった。

外で駆け回って遊んでいると、不思議なものを目にした。

「あれ?Aちゃん、あなた影がないよ」

えっ?と驚いて、みんな集まりAちゃんの足下に注目した。

確かに、影がなかった。

なぜだか不吉な感じがして、途端にみんな恐ろしくなり遊びどころではなくなった。

当のAちゃんなどは、すっかり青ざめてしまい物も言えないような状態だった。

そして、その数日後にAちゃんは突然亡くなった。

トラックにはねられ、即死だったという。

そんなことがあったため、数日前に見たAちゃんの影の話は怖くて誰にも話せずにいた。

しかしそれは、その後もたびたび目にすることになった。

学校の帰り、畑のそばの道を歩いていた。

作業をしているお爺さんの近くを通りかかったときだった。

ハッとした。

ゆっくり動いているお爺さんの姿とは裏腹に、その影はせわしなく蠢いていた。

それはとても気味が悪く、思わず目が釘付けとなった。

ブルブルブル…

ブルブルブル…

おじいさんの影が、幾度となく大きく横に震えていた。

それをしばらく眺めていただろうか…

その影はフッというように、あっという間にお爺さんのそばを勝手に離れてどこかへ消えていった。

その数日後、やはりというかお爺さんが亡くなったらしいという話を聞いた。

これは何かあるに違いないと思い、祖母にそのことを話してみた。

はじめは半ば信じられないというように聞いていたが、やがて思い出したようにこんなことを言っていた。

それは、影飲みかもしれないねえ…と。

自分は見たことがないが、小さい子供にそれが見えるということ。

影がなくなった者は、近いうちに必ず死ぬと。

まさかとは思ったが、やけに神妙な面持ちで話す祖母を見て、恐怖心がじわじわと膨れ上がった。

そして再びそれを目にしたのは、小学生の終わり頃だっただろうか。

学校の近くの喫茶店前で屯している、ガラの悪そうな不良たちを見かけた。

しゃがんで喋っている数人の男たちの影が、一斉にそれぞれ別々の動きで大きく震えていた。

それを見た瞬間、ゾゾゾッと背筋に悪寒が走るのを覚え、さっさとその場を離れようとした。

しかし直後にそれは起こった。

キィーーン…

今までにないほど、強い耳鳴りが脳内に大きく響いた。

ザザザザザーッ…

ラジオのノイズのような音を立てて、いくつもの影が近くのコンクリート塀のほうへあっという間に飲み込まれていった。

その夜半、近くで大きな事故があり、車に乗っていた男数人が全員無残に死んだそうだ。

それ以来は同じような光景を二度と見なかったが、しばらくは嫌でも目にうつる人の影を見るのが怖くて仕方なかったという。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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