中編4
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10%の奇跡

これはある女の子(以後、私)のちょっと不思議なお話です。

私は難病に侵されてお医者さんから手術しても生存確率は10%ぐらいだと聞かされていました。それでも生きる望みにかけ、手術に踏み切りました。

12時間に及ぶ手術の末、奇跡的に助かった私は投薬の後遺症により半身不随になり、車イスの生活を余儀なくされました。

手術後、私に特殊な能力が身についているのに気付きました。

それは、皆の喋る言葉で知ることができました。

先生「よく頑張ったね。退院おめでとう。《これでまた俺の名声もあがるぜ》」

看護師「おめでとう。元気でね。《これからの暮らしを思うとお気の毒に》」

私は二重音声のように、相手が喋ると同時にその人の心が耳に入ってくるようになっていたのです。

それは決して喜ばしいことではありませんでした。

お父さん「おかえり。楽に生活できるように家を改造したぞ。まだ不便な所があれば直すから言ってくれ。《貯金がもう無いんだよな。出来れば何も言わないでくれ》」

私「ありがとぅ…別にいいよ…」

友達「お見舞いにきたよ。今日は時間あいてるから、良かったらゆっくりして帰るよ。《身体が不自由な友達って、面倒くさいなー》」

私「…うん。少し調子が悪いみたい。1人にさせて。」

お母さん「ご飯よ。どうしたの?ダメよ、しっかり食べないと体力が減るわよ。《忙しいんだから早くしてよ》」

私「わかった…ごめんなさい。」

本当に助かって良かったんだろうか………

私は次第に人と話すのが怖くなり、家の中で小さいころから飼っていた犬のケン太(コリー犬)とばかり遊ぶようになっていました。

ケン太は私が本を読んでいる時もそばで丸くなり、片時も離れないほど仲良くなり、水を飲みたいと言うとペットボトルの水を持ってきてくれるようにまでなってました。

そんな生活が続いたある日のことです。

お母さん「犬とばかり遊んでないで、たまには外に出かけたりしない?《この子(障害者)といると(公共機関の)割り引きが利くのよねー》」

私「今日は出たくない。お母さん行っていいよ。」

お母さん「そんなこと言わずに行こうよ、ね。《面倒ね。なんでこんな子が生まれてきたのかしら》」

…………………。

ショックでした。

一番聞きたくない言葉でした。

私「…お母さん、私、私、。」

お母さん「なに?なんでモゴモゴくちを動かして喋らないの?」

私はその日以来言葉を出せなくなってしまいました。余計に引きこもりがちになり、家族とも距離が離れていきました。

私と唯一通じたのは、ケン太でした。ケン太といる時だけは今までの自分でいられるような気がしました。

別の日のことです。

お母さん「ちょっと出かけてくるわね。すぐ帰ると思うからベッドで寝ててね。《と言っても返事できないか。よーし、しばらく息抜きだわ》」

この頃の私は生きることよりも、どうやって死ぬかを考えることの方が多くなっていました。

留守番をしている中、そんな事を考えながらウトウトといつの間にか眠っていたようです。

少しの時間眠っていると、ケン太の鳴き声で目が覚めました。いつもはおとなしいケン太があまりにも鳴くので目を開けると部屋中黒い煙に覆われていました。どうやらストーブの上の洗濯物が乾いて風で舞い落ち、火がついたようです。

腕と首だけしか動かせない私は逃げることをあきらめると言うか、寧(むし)ろこれから死ぬことを望んでいました。

しかし、ケン太だけには一緒に死んで欲しくなかったので枕元にあった時計で横の窓を割り、ケン太を押し出しました。

外に出ても近くを離れないケン太に枕を投げつけると、ようやく逃げていきました。

その時の哀しそうなケン太の顔は一生忘れないでしょう。

5分くらいすると火の勢いは強くなってきて天井まで上り、いよいよ死を覚悟しはじめたとき、さっき割った窓からケン太が戻ってきました。

驚くのが先か、ケン太は私をくわえ、玄関まで引きずっていこうとしてました。

フサフサの毛がチリチリと燃えていました。

私「……め……だめ、逃げてー」

今まで声の出せなかった私が無我夢中で叫んでいました。それでもケン太は私を引っ張りました。

玄関まで着いたとき、ガチャガチャッとドアが開いてお母さんが帰ってきました。お母さんは状況を見るや否(いな)や私を抱えて家の外へ飛び出しました。

お母さん「ハァッハァ…大丈夫だった?買い物してたら店のなかにケン太が入ってきて吠えるからびっくりして、あなたに何かあったんじゃないかと心配になって急いで帰ってきたの。1人にしてごめんね、ごめんね。」

お母さんの言葉は本心でした。

私「お母さん、私も…ごめんなさい。」

お母さん「あなた、言葉が…」

私とお母さんは、しばらく抱き締め、お互いに謝り合い、泣いていました。傍(かたわ)らには、ケン太が寄り添っていました。

3日後、ケン太はやけどにより、死にました。

私の心が聞こえる能力も消えていました。

私は皆が本心で喋らなかったのは、私の事を想ってくれているからこそだと気が付きました。

これからは強く生きていけそうです。

天国でケン太が見守っていてくれるから

怖い話投稿:ホラーテラー みうまさん  

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