長編11
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疫病神様 5

ゴソゴソ・・・。

狩羽君はカバンをゴソゴソやりだした。

一体何をしてるんだろう・・・と思っていると、

「これ、鎌司さんのサインお願いしても良いですか!?」

・・・狩羽君はサイン色紙とマジックを取り出して、僕に渡した。

僕は断ろうと思ったのだが、

狩羽君の目はキラキラとしていて、

本当に僕のサインが欲しいんだろうと感じたので、僕は人生初サインをして、色紙を狩羽君に手渡した。

「ありがとうございます! これ、大事にします!」

狩羽君は色紙を紙に包み、また自分のカバンに直した。

 狩羽健治は僕に深々と礼をすると、どこかへ走って行った。

狩羽健治・・・。

帰りに今期の成績を調べたのだが、

彼は今日で2勝目という事だった。

ただ、僕以外に勝った相手が、今期1敗しかしていない、間違いなく今期プロになるであろう【貧島三段】という事だった。

狩羽君の将棋には、なにか不思議な感じを受ける。

僕はなんとなくそう感じた・・・。

ガタンゴトン・・・

 ガタンゴトン・・・。

電車に揺られながら、

僕はいつのまにか熟睡してしまったようだ・・・。

「・・・はっ!」

気が付くと、家の最寄駅から数駅乗り過ごしてしまった。

「・・・いけない・・・。降りなきゃ・・・。」

2〜30分寝たので、なんだか少し頭がスッキリした。

降りた駅は山の麓。

山はまったく荒れてなんかおらず、

静かな夕暮れの景色を僕に与えてくれた。

「・・・歩いて帰るか・・・。」

僕はなんとなく自然を眺めながら歩きたいと思ったので、

乗り過ごした駅で追加料金を払って降りた。

 「・・・なんか・・・懐かしいな・・・。」

占いの店が立ち並ぶ商店街。

そういえば、小さい頃、家族で何回かこの道を歩いた事があった。

 僕は重い体で商店街を歩く。

途中通り過ぎる商店街の店は高齢化が進んでいるらしい。

商売もそんなにヤル気が無いらしく、

声をかけてくる気配はまったく無い。

 僕は坂になっているその商店街をなおも下り続ける。

そして下り終えた時だった。

「ちょっと、アンタ、占っていかないかい?」

商店街を出たところに、水晶球を机のような所に置いて座るおばあさんが居た。

「・・・。」

僕は聞こえないフリをしようとした。

「オイ!アンタ、聞こえてんだろ?」

おばあさんが急に大きな声で言うものだから、僕はビクっとしておばあさんの方を向いてしまった。

「フフ。やっぱり気づいてたね。 さ、座りな。安くしとくよ。」

僕はなんだか逃げれそうもない雰囲気に負けて、おばあさんの向かいに座った。

「・・・何か占ってほしい事はあるかい?」

「・・別に・・・。」

「フフ。そうかい・・・。

なら、流れを見てやるよ。

流れに沿った生き方をすれば、

人は上手く行く。

・・まぁ、参考にしたら良い。」

「・・・そうですか・・・。」

おばあさんは目を閉じ、一つ深呼吸をすると、水晶に手をかざし始めた。

ボワッ・・・。

水晶が少し光を放ったように感じた。

「・・・む・・・・ん・・・うむ・・・。」

おばあさんは額に汗をにじませる。

そして十数秒すると、

「ふぅ・・・。」

と、リラックスした感じで水晶から手を遠ざけた。

「・・・で、何か出ましたか・・・?」

僕はメガネをクイっとやってから聞いた。

「・・・うむ・・・出た・・・が、不思議だよ・・・。こんな事は初めてだ・・・。」

「・・・。」

・・・何か、特別と言って機嫌とっといて、占いグッズを売りつけるつもりだろうか・・・。

「・・・はじめてって・・・なにか特別な未来があるのですか・・・僕は・・・。」

「・・・うむ・・・。

はじめてだよ・・・。

アンタの未来なんだけどね・・・。

二つ・・・見えるんだ・・・。」

「・・・二つ?・・・」

「そう・・・二つの未来・・・。

不思議だよ・・・。」

「・・・具体的に・・・どういった事なんでしょうか・・・。

なにか占いグッズ買えば救われるんですか・・・?」

「アンタ・・・わたしを誰だと思ってるんだい?

・・・まぁいい・・・。

あたしゃ、そんな胡散臭い事するようなペテン師じゃぁないよ。

安心しな。」

「・・・す、すいません・・・。」

「わかりゃ良いよ・・・わかりゃぁ。

普通はね、

人生ってのは一本の線なんだ。

人はその線を辿って生きる。

線は1本なんだから、

未来も過去も一つ。

・・・今のアンタから見て、

複数の過去なんてありえないだろう?

過去は一つ。

未来も、もっと未来から見れば過去となる。

複数の過去が無いように、複数の未来っていうのも存在しないのさ。」

「・・・なるほど・・・。」

「ん・・・アンタ、物分りが良いようだねぇ。

その頷き方は、ちゃんと理解した頷き方だ。

わたしは解るんだよ。

そういうのはね。

・・・で、

アンタの場合、その1本の線が、

途中で枝分かれしてるんだよ・・・。」

「・・・枝分かれ・・・。」

「・・・そう・・・。

私の今までの経験上、ありえない事なんだけどね・・・。」

「・・・で、僕はどっちを辿るんですか・・・。

そしてそもそも、

その二通りの未来って、何と何なんでしょうか・・・。」

「うん・・・。

それは・・・言えないねぇ・・・。」

「・・・え・・・言えない・・・?

おばあさん・・・占う気、ありますか・・・。」

「ごめんよ・・・。

ま、まぁ、この話は置いておこう。」

「・・・超気になるんですけど・・・。」

「つ、次は現状のアンタを占ってやるよ。

ほ、ほら、手を出して。」

僕は腑に落ちなかったが、両手をおばあさんに差し出した。

「う・・む・・・む!?こ・・・これは・・・。」

おばあさんの顔色が急に変わった。

「・・・また何かあったんですか・・・?」

「アンタ・・・ここ数年、ツイて無い事がたくさん無かったかい?」

・・・ありまくりだ・・・。

「・・・まぁ・・・そうですね・・・。」

「・・・やっぱり・・・。」

おばあさんは、そっと僕の手を離し、水晶に手をかざした。

そして水晶を見たまま、おばあさんは僕に

「・・・アンタ、特別だよ・・・。

こっち側に回って、水晶を覗いてみな。」

と僕を呼んだ。

僕も流れ的にしれっとおばあさんの後ろに回って水晶を覗いた。

・・・気のせいじゃない・・・やっぱり水晶は怪しく光を放っている・・・。

水晶には僕とおばあさんの顔が映っていた。

「・・・アンタ、水晶に映っているのが見えるかい?」

「・・はぁ・・・僕と、おばあさんの顔が映っていますね・・・。」

「ハン・・・そこじゃないよ。アンタの肩口のところだよ。」

「・・・え・・・。」

僕は、水晶に映る自分の肩の辺りに視線をやった。

「・・・うわっ・・・。」

思わず声が出てしまった。

僕の肩口に、頭が禿げ、体は痩せ細り、お腹だけがぽっこりと出た中年男性のような小人が乗っかっていた。

その小人はぱくぱくと、空中から何かを掴み取り、口に入れている。

「・・・お、おばあさん・・・この小人は一体・・・。」

「・・・見えたかい・・・コイツは、【厄病神】だよ。」

「・・・厄病神・・・?」

「あぁ。 昔話とかで読んだ事あるだろう?厄病神。

アンタ、これに憑かれた為に、かなり幸せを吸い取られてるんだよ・・・。」

「・・・僕の幸せを・・・?」

「あぁ・・・

この腹のでっぱり具合から言って・・・

おそらく取り憑かれてから10年・・・って所か・・・。

アンタ・・・この10年、

なんかツイてなかった事たくさんあったろ?

思い出してミソ。」

(・・・ミソ・・・。)

ここ十年間・・・。

中学の頃、おばあちゃんが亡くなった事もそうなのか・・・?

野球に熱中して、将棋の成績が落ちた事も・・・。

高校1年の時、

好きになった人を失った事も・・・。

高校三年の頃、

相次ぐ怪我・・・。

その怪我が原因で・・・肩を痛めてプロ野球を断念した事・・・。

その後、奨励会でもなかなか勝てなかったのも・・・

去年、散歩中、高血圧で倒れた時に、飼い犬が行方不明になった事も・・・

これだけ太ったのも・・・。

全部・・・

全部・・・。

「・・・全部・・・この厄病神の仕業・・・って事なのか・・・。」

「・・・思い出したのかい・・・あぁ・・・。

アンタ、自分の力の割には上手く行かなかった事が多かったろ?

このオッサンのせいさ・・・。」

「・・・全部・・・このオッサンの・・・。」

水晶に映るオッサンは、のんきにハナクソをほじくっていた。

「・・・アンタ、このオッサンに憑かれてる以上、何やっても上手くは行かないよ・・・。」

「・・・そうだったのか・・・。」

僕は肩を落とした。

水晶に映るオッサンは、僕の頭を撫で撫でしていた。

僕は無性に腹が立ってきた。

「あの・・・このオッサン・・・どうすればとり除く事が出来るんでしょうか・・・。」

「あぁ・・・そうだね。

相手は一応【神】だからね。

アンタ自身が、日頃の生活を改めれば、自然に離れて行くよ。」

「・・・僕の日頃の生活・・・?」

「・・・あぁ・・・。

厄病神に憑かれた人間ってのはね、

ズボラになったりするのさ。

アンタ、部屋散らかってないかい?

ぐーたらになってないかい?

太陽の光が怖くなってないかい?

夜型の生活になったりしてないかい?

運動するのが嫌になってないかい?

人と接するのが億劫になったりしてないかい?」

・・・全部当てはまる・・・。

「フフ・・・。

そういう生活態度を、まずは改める事だ。

そうすれば自然と離れていくよ。

そのうち、アンタにも幸せが訪れる。」

・・・なるほど・・・

そういう事だったのか・・・。

「・・・わかりました・・・。

すいません、どうもありがとうございました・・・。

これから・・・生活を改めて行こうと思います・・・。」

「フフ・・・

そうかい。がんばりなよ。

じゃぁ、2000円。」

おばあさんは掌を差し出した。

「・・・え・・・お金取るんですか・・・。」

「当たり前じゃないかい。

アタシを誰だと思ってるんだい。

アタシはね・・・」

「・・・わかりました。

はい、2000円・・・。」

僕は2000円を手渡し、一礼してその場を去った。

・・・僕には厄病神が憑いていた・・・。

あんなものをまじまじと見せられたら、信じざるを得ない。

CGでどうこうできる映像では無かった・・・。

あのおばあさんは、おそらく不思議な力を持ってる人なんだろう・・・。

「・・・ただいま・・・。」

家に着いた頃には、もう夜の九時を回っていた。

「あ、鎌司おかえり〜〜。」

姉ちゃんが玄関まで迎えに来た。

もう寝る準備万端のようで、ジャージ上下で、髪を頭の上のほうでひとつくくりしていた。

高校時代まではオナジミだった姉ちゃんの【髪ひとつくくり】も、成人式を境に、今は外ではやらなくなっている。

「鎌司、さっき、優真から電話あったで。 お前、いい加減に携帯持てよ。」

「・・・え?優真君から・・・?」

「おう。ほんまについさっきやったから、かけ直したれや。」

「・・・わかった・・・ありがとう・・・。」

僕は酔っ払って寝ている父さんの部屋を横切り、電話の置いてある部屋に向かった。

父さんは小声で寝言を言っている。

もう67歳。

おじいさんだ。

電話のダイヤルを回す。

若い子にはわからないかもしれないが、

うちの電話は【回すタイプ】のやつだ。

黒電話では無い。

薄黄緑色電話だ。

黒電話ほど古いタイプでは無い。

 チリリリリリリン・・・

 チリリリリリリン・・・

 チリリリリリりん☆・・

ガチャッ

『はい、優真っス。』

「・・・あ、優真君・・・八木 鎌司だけど・・・。」

『あ、八木さん!どうも・・・。』

「・・・うん・・・さっき電話くれたみたいだけど・・・。」

『あ・・・そうなんすよ・・・。』

「・・・どうしたの・・・?」

『ええ・・・あの、なんていうか・・・

昨日は、スイマセンでした・・・。

ついカッとして・・・あんな事言って急に帰っちゃったりして・・。』

・・・昨日のあの一件か・・・。

「・・・いや・・・僕のほうこそ・・・

心ない事言って悪かったよ・・・。」

『いえ・・・そんな・・・。』

 なんだか・・・

今日、あのおばあさんに占ってもらって、

少し気持ちが軽くなっていた。

「・・・そうだ・・・優真君・・・

ボール・・・返したいから・・・

明日にでもまた会えないかい・・・?」

『え・・・ええ。

もちろんっス!

またグローブ持っていきまスから、キャッチボールしましょうよ!』

「・・・うん・・・。」

 その晩、

僕は散らかった部屋を片付け、

ご飯も腹八分に留め、

早く寝た。

 次の日、

僕はまたあの公園で優真君とキャッチボールをした。

シュッ

パシッ

「八木さん!オレ、プロのテスト、諦めませんよ!」

シュッ

ピシッ

「・・・うん。 応援してるから、頑張って・・・。」

シュッ

パシッ

「はいっ!がんばりますっ!」

シュッ

ピシッ

「・・・そうだ・・・優真君・・・自主トレするんでしょ・・・?・・・僕も付き合おうか・・・これから・・・。」

シュッ

パシッ

「・・・えっ?八木さんが・・・?

ハハハ。オレ、これでも大学で四年間野球やってたんすよ?

ブランクありまくりで、そんなデブった八木さんでは無理でしょ〜〜〜。」

シュッ

ピシッ

「・・・優真君・・・少し強めに投げるよ・・・?」

「・・・えっ?」

ピシュッ

シュルルルルルルル・・・

バシィ!!!

「は・・・速えぇ・・・。」

「・・・どう?優真君・・・。

高校時代みたいに、全力投球で何球も投げるのは無理だと思うけど、

まだそこそこはいけると思うよ・・・。」

「は・・・はい・・・。

いけると思いました・・・十分に・・・。」

優真君はグローブから真っ赤になった手を出して、

ぶるぶると振るっていた。

「・・・優真君・・・

・・・お互い・・・

・・・可能性・・・ゼロじゃないから、頑張ろうな・・・。」

「えっ・・・は・・・はいっ!」

優真君は笑顔になり、僕にまたボールを投げ返した。

 その日から、僕は毎日優真君とトレーニングをするようになった。

日の光を浴びて、

部屋もきれいにして、

規則正しい生活。

 日に日に体重も減っていった。

二週間後には、5キロも減った。

・・・見た目はそんなに変わらないけどね・・・。

 将棋に裂く時間は格段に減った。

なのに、次の例会では二局とも快勝を収め、僕は無事三段リーグに残留する事が出来た。

なんだか不思議と手が見えて、

なぜ今まであんなに勝てなかったのかが不思議な感じだった。

丁度狩羽君は隣で対局していて、

「鎌司さん・・・僕と指した時は手抜いてくれてたんですか・・・。」

と、驚いた顔をしていた。

・・・手を抜いていた事なんてないんだけどな・・・。

 ある日、ふとした事で、厄病神のオッサンを見た。

なにげに窓ガラスに映る自分を見た時、肩に座るオッサンを。

心なしか、オッサンは弱っているように見えた。

 少しオッサンはかわいそうだけど、僕は規則正しい生活を続けようと思う。

日の光を浴びて、

腹八分にご飯を食べて、

運動もする。

そういった生活が、

疫病神のオッサンは大嫌いなようだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

以上です。

ありがとうございました。

ところであなたは大丈夫でしょうか?

何もヤル気が出なくなったり、

なんか物事が上手く行かなかったりしていませんか?

そんなあなたは、部屋が散らかっていたり、生活が不規則になっては居ませんか?

疫病神は、現代社会ではかなり数多くの人に憑いているそうです。

 ・・・なのでもしかしたら、

あなたの肩の上に座り、

不気味に笑っている疫病神が鏡に映っているかもしれませんよ・・・。

因みにコピペです。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん

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