短編2
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五月人形

家に飾ってある五月人形は、長男が生まれた時に、俺の母が買ってくれた物だ。

とても小さなガラスケースの中に、キリッとした顔つきの武将と、その横に小さな兜が飾ってあるありふれたものである。

五月五日の子供の日がせまり、妻がイソイソと和室にこの人形ケースを飾り付けた。

なかなか立派なものだ。

だが俺はこの人形が気に入らなかった。

何が気に入らないのかは自分でも分からないのだが、とにかく気に入らなかった…

せっかく母が買ってくれた物を気に入らないと言うのは申し訳ないのだが、

この人形が放つ、なんというか…邪気みたいなものを俺は感じていた。

そして人形は、そんな俺を睨み付けているような気がした…

もしかしたら、俺は前世で武将だったのかもしれない。

昔、前世占いとかいうやつでそんな事を言われた事がある。

だからこの五月人形が気に入らないのだろうか…

人形を飾り終え、妻は和室を出て行った。

相変わらず、人形は俺を睨みつける。

俺は、人形の前に座って睨み返して言ってやった。

「何見てんだよ!」

前世で、お前と何があったか知らないが、今は、お前は人形、俺は人間様だ。

と…その時だった…

人形から、小さな声が聞こえてきた。

人形は俺を睨み付けながらこう言った。

「殿…」

殿?

殿だと…

まさか俺の前世は殿様だったのか…

驚いている俺に、人形の声がまた聞こえてきた…

「殿… 殿…

肩に…

肩に…蝿が止まっております!」

人形がそう言った瞬間、俺の体に激痛が走った。

まるで何かに真っ二つに切られたような、そんな痛みだった…

俺は痛みのあまりに悲鳴をあげた。

「ギヤアアアア!」

すると妻が台所から怒鳴った。

「五月蝿いわね!」

我にかえった俺は、もう一度しっかりと人形を見つめた。

人形はもう俺を睨み付けてはいない。

俺は人形に向かって、静かにつぶやいた。

「今や、お前は五月人形…俺は五月蝿いか…前世と一緒だな…」

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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