皆さんこんにちは。
一向に文章が上達しないふたばです。(´・ω・`)
己の練習に他人を巻き込んでやろうと、掲示板を建ててみました。
以下、ここでのルールを説明します。( ᴗ ̫ ᴗ )
↓
🌱ここは、短編の練習をする為の掲示板です。
🌱毎月単語を3つ、お題として出しますので、短編の「三題怪談」を募集します。
🌱「三題怪談」とは、1つのお話に決められた3つのお題のワードを入れなければならないという“縛り”で御座います。
🌱お話の長さの目安は、原稿用紙2枚分(800字)程度。
(あくまでも目安です、越えてしまってもヨシとします)
文字数カウント↓
https://phonypianist.sakura.ne.jp/convenienttool/strcount.html
🌱お題は毎月一日に更新されます。
🌱提出期限は毎月28日までとします。
🌱お話はいくつ投稿しても構いません。
🌱初心者大歓迎。実際私もほぼ読み専なので、文章が下手っぴです。軽い気持ちでご参加下さいませ。
🌱ここで投稿されたお話は、“ご自身で書かれたお話ならば”怖話の通常投稿にあげても構いません。
寧ろ、多くの方に見ていただけるよう、ここで試し書き、本投稿で完成品といったように使って下さいませ。
何なら他サイトでも投稿されている方は、そちらへあげるのも問題御座いません。
(※他の方の掲示板でも同じとは限らないので、その都度そこの掲示板主へご確認下さい)
🌱題名も付けて頂けると助かります(題名は文字数には含みません)。
🌱感想だけのご参加も大歓迎です。
🌱明らかな荒らしコメントは即刻削除致します。慈悲はありません。
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【11月お題】
「黄泉」「狐」「エレベーター」
投稿期間 11/1 0:00〜11/28 23:59
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ですがまぁ…建ててみたは良いものの、私が独りで短編を書き続ける寂しい場所になりそうな気がします……
そこで!ちょっとした特典代わりと言っては何ですが、ここで投稿されたお話は、私ふたばが朗読させて頂きます。ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
具体的に言うと、YouTubeにてその月に投稿されたお題の回答を、纏めとして朗読してアップします。
素人の朗読ですのでレベルは低いですが、創作意欲の糧になれれば幸いです。( ᴗ ̫ ᴗ )
※朗読されるのが嫌だという方は、お手数ですが文末に「※否朗読希望」とお書き下さいませ。
📚過去のお題アーカイブ
【9月お題】「彼岸」「ぶどう」「ネジ」
https://youtu.be/DlNJ68yKIfA
【10月お題】「十五夜(月のみでも可)」「図書館」「菊」
(※お題提供:あんみつ姫さん)
https://youtu.be/iA4spsQlSMA
【11月お題】「りんご」「子ども」「落ちる」
https://youtu.be/UMVBBrycZqU
【12月お題】「肖像画」「塩」「M」
(※お題提供:むぅさん)
https://youtu.be/MJmFrqUqvj0
【1月お題】 「ウシ」「晴れ」「厄」
https://youtu.be/N0tX10EOJoE
【2月お題】 「僧」「遊泳」「踊り」
Extraお題「怪僧」「宇宙遊泳」「阿波踊り」
(※お題提供:嗣人さん)
https://youtu.be/9j2vK_kKzhE
【3月お題】 「風」「証」「波」
https://youtu.be/zZoV2ce7poU
【4月お題】「サクラ」「窓辺」「人形」
https://youtu.be/kZzfmq8cNvM
【5月お題】「母」「鬱」「川」
https://youtu.be/RNqUE92-K2k
【6月お題】「クラゲ」「雨」「失踪」
https://youtu.be/BM0ataca42E
【7月お題】 「天の川」「亀裂」「写真」
https://youtu.be/RcXTXfzfKUk
【8月お題】「手を振る」「扉の向こう」「呼ばれる」
(※お題提供:ラグトさん)
https://youtu.be/omL3byV-eF0
【9月お題】「アリス」「スープ」「ハサミ」
https://youtu.be/w20FnRK-bQQ
【10月お題】「バラ」「時計」「たばこ」https://youtu.be/g_zxwy1H73I
【11月お題】「無人探査機 」「提灯鮟鱇 」「地引網 」
(※お題提供:ロビンⓂ︎さん)
【12月お題】
「プレゼント 」「空席」「信号 」
【1月お題】
「トラ」「階段」「玉」
【2月お題】
「ネコ 」「チョコレート」「箱」
【3月お題】
「ウメ 」「日記」「歌声」
【4月お題】
「駅 」「看板」「ポスト」
【5月お題】
「灯り」「公園」「針」
【6月お題】
「カッパ」「アジサイ」「自転車」
【7月お題】
「浜辺」「貝」「欄干」
【8月お題】
「ニセモノ」「蝋燭」「指」
【9月お題】
「帰り道」「ビン」「コスモス」
【10月お題】
「先生」「空腹」「筆」
【11月お題】
「橋」「ゾンビ」「忘れ物」
【12月お題】
「足音」「雪」「吐息」
【1月お題】
「ウサギ」「獣道」「目」
【2月お題】
「鬼」「酒」「身代わり」
【3月お題】
「都市伝説」「ピアノ」「ボタン」
【4月お題】
「絵本」「珈琲」「霞」
【5月お題】
「シミ」「地下」「蝿」
【6月お題】
「ダム」「悲鳴」「カエル」
【7月お題】
「夏草」「鏡」「プラネタリウム」
【8月お題】
「漂流」「雲」「ラムネ」
【9月お題】
「神隠し」「お米」「カバン」
【10月お題】
「皮」「警告」「お札」
【11月お題】
「1週間」「影」「オレンジ」
【12月お題】
「ケーキ」「透明」「チャイム」
【1月お題】
「 」「 」「 」
【2月お題】
「穴」「遅刻」「節」
【3月お題】
「足跡」「惑星」「メッセージ」
【4月お題】
「卵」「楽園」「嘘」
【5月お題】
「人混み」「電話」「花瓶」
【6月お題】
「墓場」「毒」「待つ」
【7月お題】
「海」「境界」「糸」
【8月お題】
「打ち上げ」「ライト」「未練」
【9月お題】
「借りもの」「バス停」「斜陽」
【10月お題】
「骨董」「ピエロ」「姉」
※追記:ここのお話を本投稿へもアップされる方へのお願い
🌱先に述べた通り、ここに書いたお話は一般の怖い話にも投稿して頂いて構いません(そもそも著作権は作者のものですから)
🌱一般投稿分は掲示板のレギュレーションから外れますので、文字数を気にせず加筆修正しても何も問題御座いません。
🌱ですが、投稿の際には題名に“三題怪談”の文字を付けないで下さい(同じ企画系列の題名が並ぶとうんざりしてしまうユーザーが現れ、揉める為。実際、過去にそういう事がありました)
🌱また、お題の単語をお話の解説欄に載せると、その単語に気を取られて純粋な短編として楽しめないので、読者的には解説欄には“掲示板より”とだけ書いて頂けると助かります。
(コメントにお題の単語をネタバレ防止で公開するのはアリです)
(ここのページのURLは貼っても貼らなくてもいいです)
🌱代わりに、投稿作のタグ欄に、お題の単語タグ3種と“毎月お題の短編練習枠”タグが知らぬ間に付いております。十中八九私ふたばが犯人なので怖がらないで下さい。
企画というより常設となるこの場所は、細く長く続けていきたいので、何卒、ご理解下さいませm(_ _)m
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ふたば様、今月もお題の提供ありがとうございます。
今回は実話チックに書いてみましたが、もちろん創作です。
それでは
《黄泉比良坂》
**************
それは高校二年生の時だったと記憶しています。
僕の実家は島根県にあり、それほど離れていない所に黄泉比良坂という場所があります。
古事記にある伊邪那岐が死んだ伊邪那美を迎えに行った場所とされ、つまり黄泉の国への入り口なんです。
国道から外れ、緩やかな坂を登って行くと、二本の石柱の上部に注連縄が張られた鳥居のような入り口があり、その奥に大きな岩が並んでいます。それが千引き岩という伊邪那岐が逃げる際に黄泉の国への入り口を閉じた岩とされ、お墓の起源とも言われています。
その日は友人三人と学校から帰宅する途中でその話になり、そこが心霊写真のメッカだということから肝試しがてら行ってみようということになりました。
周囲が薄暗くなる中、石柱の間を抜けるとひと気はなく、いかにもと言った雰囲気でした。
そして千引き岩の前まで来ると、スマホを取り出して写真を撮ってみました。
「え?何だこれ。」
岩の前で友人二人がポーズを決めている背後の岩の下部に何か白いものが写っています。
「これ、狐じゃね?」
細長い顔はそのようにも見えます。
僕達は恐る恐るその辺りに近づいてみました。
岩の向こうは林になっているのですが、周囲には何も見当たりません。
「何もいないな。」
そう呟いて岩に手を突いた瞬間でした。岩がぐらっと動いたような気がしたんです。
何が起こったのかと岩に視線を向けると、なんと大きな岩が傾き、その下部にはぽっかりと大きな穴が口を開いているではないですか。
そしてそれと同時に身体がふわっと、まるでエレベータのような落下感を覚えたのです。
「おい!どうした⁉」
そこでいきなり友人に腕を掴まれ我に返ると、岩は元のままで穴もありません。
単なる眩暈だったのでしょうか。
それとも本当に一瞬口を開けた黄泉の国への入り口に落ちそうになったのか。
でも穴の中から狐がこちらを見ていたのははっきり覚えているんです。
それ以来、黄泉比良坂へは近づいていません。
***********
12月もお題の提供はありますかね?
締め切りは早めで結構ですので、是非お願いします。
ふたば様
ひとまず、1作目完成しました。
本作は、本日中に、本編へアップします。
たまたま、シリーズ「あいうえお怪談」た行とだ行ですので。
800字には、まとめるのは至難の業です。
とうとう、満足に課題を達せられないまま、あと1ヶ月と少し。
無から有を生じさせることの困難さを改めて感じています。
ではでは。
この辺で。
おやすみなさい。?
おはようございますかな?(^_^;)
「地鎮祭にまつわる怖い話」
「だから、確かに、この目で見たんです。嘘じゃないです。男の人が、4階に着いた途端、急に、狐に、それも白い毛がふさふたした狐になったんですよ。」
口角から泡を飛ばし、オーナーの坂本さんが、恐怖に怯えながら真顔で訴えている。
着工以来トラブル続きだった新ビルが、やっと完成したのもつかの間、建築に携わった業者や新たに入居した客からのクレームが後を絶たない。
①昼夜を問わず、突然エレベーターが動かなくなる。もしくは、途中で止まる。
②地下2階、もしくは、屋上へ行ったきり戻ってこない。
③深夜誰もいないはずのフロアから、子どもが駆け回る足音がする。
④深夜0時過ぎに、地下2階からエレベーターに乗ると、1階のボタンを押したのに、1階には止まらず、一気に4階まで行ってしまう。
⑤更に、4階に着き、ドアが開いた先には、「黄泉」と大きく刻印された篆字が壁一面をい尽くしし、その傍らには、白い着物を着た女の人が、後ろ向きのまま立っている。
ちなみに、地下2階は、駐車場だ。
かなりの台数を収容できる。
4階は、普段あまり使われない研修室や集会室といった貸室フロアなのだが、地下2階から乗り、4階で降りようとすると、どうも良からぬことが起きるようだ。
また、これは、一部の人の証言だが、宴会や食事をした後で、1階からエレベーターに乗り込むと、なぜか、地下2階から乗ってきたであろう老婆や中年男性が、怒りを顕にした物凄い形相で睨みつけてくるのだという。
冒頭の坂本さんは、まさしく、④の現象に遭遇したことになる。
更に怖ろしいことに、地下2階から一緒に乗り込んだはずの中年男性が、エレベーターのドアが空いた瞬間、坂本さんに向かい、「おまえ、タバコ吸うのか。この馬鹿者めが。このビルは、全館禁煙だぞ。」と語ると、唸り声をあげながら、白狐に変貌したのだという。
この場所は、かつて、10階建ての団地が棟を連ねていた。
また、過去、エレベーター事故で、子どもがふたり亡くなってもいる。
だが、廃墟同然になる前から、不穏な噂が絶えなかった。
エレベーターが急に動き出したり、誰もイないはずのトイレや台所、お風呂場や洗面所から水が流れる音がした。白い着物を着た巫女や白髪の老婆の幽霊が度々目撃されてもいたらしい。
このビルの管理を任されている身としては、悪い噂が立ち、SNSに流されでもしたら大変なことになる。とても放置しておける問題ではない。
かといって、霊媒師やら霊能者に依頼するのも抵抗がある。
まずは、このビルの前身である公団住宅を兼ねた団地の由来と、元々、このあたりの土地について詳細に調べてみることにした。
当然、古い建築資料や、図面、立地にかかった費用諸々。財源に至るまで、会社総掛かりで調査にあたった。
その結果、驚くべきことが判明した。
それは、新入社員の工藤君が、この土地に詳しい地元自治会の会長に話したところ、次のような逸話を口にしたのだという。
この場所は、古来から「稲荷神社」を信仰している土地であったにもかかわらず、団地を建てる前の「地鎮祭」を行う際、場違いな神社、もしくは、神様に依頼したのではないかというのである。
また、過去に懲りず、このビルを施工する前にも、「地鎮祭」が行われること無く建築が進められていたのではないかとのことである。
おそらく、推測するに、過去「地鎮祭」は行われており、既に、儀式は終了しているから、同じ土地でもあるし、二度も必要はないと考えたのだろうと。
過去と現在、二度にわたり無礼かつ不謹慎なあり得ない行いを繰り返した「罰」なのだろう。
特に信仰心があるわけでもない、どちらかといえば、無宗教に近い人間だが、建築に関わる人間として、あまりに非常識な行いに開いた口が塞がらなかった。
ちなみに、場違いな神社。もしくは、神様とは?
との問いには、静かに首を横に振り、俯いてしまったそうだ。
推測するに、「稲荷神社」とは異なる神。もしくは、異なる宗教だったのではないかとのことだった。
また、クライアントの坂本さんは、自他ともに認めるヘビースモーカーだ。
おそらく、煙草を吸うために、常時ライターを身につけていたのではないだろうか。
稲荷神社に行く際は、肉や魚といった生ものに加え、火に関するものを持っていってはいけないという決まりがあるらしい。
時すでに遅しなのかもしれないが、今更等と言ってもいられないと判断し、上を説得、早速、「土地の神様であった「お稲荷様」と「稲荷神社」ゆかりの神主さんや神社に関わる神職の皆々様を呼んで、大規模な「地鎮祭」を行った。
普段、何気なく過ごしている背景には、古(いにしえ)より守られてきた大切な「まつりごと」
があるということを忘れてはならない。
同時に、黄泉に降(くだ)る前に、後悔しないように。
世の中には、過去。、現在、未来にわたり、大切なこと、大切にしなければならないこと、決してしてはならないタブーがあるということも忘れてはならないのだ。
「姉の日記」
双子の姉が、急死した。
リクライニングチェアに腰掛けたままで、こと切れていたらしい。
自殺なのか、病死なのかも不明だという。
謎の死
警察も首を傾げた。
司法解剖に出すというのを、何故か夫は固辞した。
サイドテーブルの上には、「日記」が置かれていた。
裏表紙には、たった一言、
「我が子さとるへ 母より」
とだけ、書かれていた。
◯月△日(水)
ごめんね。
さとる
あなたを生んであげられなくて
◯月□日(日)
さとる
あなたに
いとこが できたわ
もう さびしくないね
◯月☓日(火)
いとこのなは
まさる だって
ふたご みたいね
◯月◯日(金)
にしびが きついわ
せっかく かいて もらったのに
あぶらが とけちゃう
◯月▶日(木)
しゃよう ってたいとるで
おとうさんが
あなたと わたしを かいてくれたわ
◯月□日(月)
おとうさんったら いつのまにか
あなたを ぴえろ
にしちゃった
ひどい
◯月▽日()
いもうとが まさる を
つれてきた
あなたと わたしに あわせるために
まさる にあうの はじめて
さとる
うれしい よかった
さとる
ぴえろ のまま
しぬ
まさる
せっかく あえたのに
さよなら
◯月・・・
おまえら ふたり しね
まさる あいしてる
ーーーーーーーーーーーーーーーー
母は、日記を燃やした。
その翌日、死んだ。
その2日後、父も死んだ。
そういうことだ。
ロビン様。
作品にリスペクトされましたので、私も、「骨董」を「骨壺」に入れ替えた作品をアップしました。
実は、私も、老眼が進んだせいか、当初、「骨董」を「骨壺」と読み間違えていたことは、永遠に封印する予定でしたが、(^_^;)同士がいたことを喜びつつ、ふたば様の恩赦にすがり、ここに没作を投稿いたします。
今日中に、あとひとつ、今月の課題三題を頭休めにアップする予定です。
三題お題に投稿し、本編にアップしていなかった過去作を改題、追加編集し、今後投稿する予定です。楽しい企画も、あと2ヶ月で終了なのですね。どなたか、引き継いでいただけないでしょうか。
「音源の正体」
深夜2時。
コツコツコツ
小さく壁を叩く音がする。
電気をつけると ふっと音が消え
静寂がおとずれる。
夜明け前であることを確認し、
再び床につく。
コツコツコツ
また、あの音だ。
睡魔にさからうように 頭の中に響き渡る音。
かすかだが、脳と耳を刺激する音
その源を探るため 再び床から身を起こし、
ハッとする。
そうか。今日は、姉の命日だ。
忙しさにかまけ、納骨も済ませていない。
音は、桐の箱に入った「骨壺」から聞こえてきていた。
「姉さん、すまない。納骨、母さんの分といっしょに早く済ませるよ。」
ポンと左肩に手が置かれた。
懐かしい姉の手だった。
貧しい母子家庭。母は、昼は水産加工場で、夜は、街の居酒屋で、朝早くから夜遅くまで働いて、ほとんど家にいなかった。
姉は、僕の母代わりだった。
家庭環境からか、周囲にも馴染めず、いつもボッチの僕を優しくなだめ、道で同級生に会えば、「まさるをよろしくね。」
と言って、自分のお小遣いから買ったキャラメルを渡したりしていた。
「すまん。ねーちゃん。俺、ねーちゃんに、なんもしてあげられへんかった。」
肩に置かれた手が、トントンと小さく2回叩かれた。
(大丈夫やから。気にせんときや。)
「俺は、ピエロってよばれてるねん。滑稽な道化師や。もう、生きていたくないんや。」
肩に置かれた手が、離れ、骨壺から音が聞こえてきた。
コツ コツコツコツ コツコツコツコツコツ
(もう、この仕事は辞めなさい。)
と話しているかのようであった。
翌日、姉と母の骨壺を持って、職場へと向かった。
「ピエロ辞めるんか。勝手しやがって。」
上司は、吐いて捨てるように話した後、
「チッ、いじれるやつがいなくなって、さびしいわ。」
と呟いた。
退職届と使いこなしていなかった有給休暇を取り、ロッカーや机の中のもの全て、ゴミ箱に捨てて職場を後にした。
僕は、ほんの少しだけ強くなったような気がした。
「なぁ、姉ちゃん。母さん。ひとつだけ、文句言わせてな。」
「骨壺二つは、さすがに重いわ。」
ふたばお兄様、お久しぶりです。
ロビンも参加しよーっと!と、意気込んで書いてみたものの、まさかの「骨董」と「骨壷」見間違えるという失態をしでかし、書き終わった後だったのでどうにも後戻りできない状況に追い込まれてしまい、いまだに涙が止まらない状態です…ひ…
でも、もし楽しんでもらえたらと思い一応こちらにも残させていただきます!
公園
姉と公園の近くを通りかかったら、ばったり姉の友達とでくわした。
しばらく立ち話をしていたら、公園からの視線を感じそちらを見ると、木と木の間におかしな格好をした男がたっていた。
姉もそれに気づいたらしく、俺にドスの効いた事で「おい、あんまりあっち見んな」と、ふくらはぎを強めに蹴られた。
姉の友達にはそれが見えていないらしく、「えっ?誰かいるの?どこどこ?」と、やっているが、姉はもともと霊感が強く、あのピエロみたいな格好をした人間はあまり良いものではないから関わらない方がいいといった。
姉の友達も右太ももに膝蹴りを入れられ、俺たちは場所を喫茶店に移した。
姉によると、あれはその昔、もともと墓場だった所を整地して出来た公園で、何年か前に花壇があった場所を掘り起こしたら無数の骨壷なんかが出てきたやら出てこなかったやらで、それ以来、地味に怪奇現象が目撃されだしただのされなかっただのという噂もたち、その界隈の人たちはあの公園に近寄らなくなったらしい。
すると、姉の友達が自慢げに話にのってきたかと思えば、あの公園で女の子の泣きごえが聞こえてきても絶対に話しかけてはいけない。なぜなら変に構うと、お母さんを一緒に探してと手を強くひっぱられ、公園の奥までつれて行かれ、そうなるともう二度とこちらの世界に戻って来られなくなるらしい。
それを聞いた姉は鼻で笑い、意地悪そうな顔で、「そんな女の子みた事ないけどね…どうせつくり話でしょ?」と友達のおでこにストローの先をおしつけた。
友達はそれに若干腹を立てたのか、生クリームのついたおでこを拭きながら「じゃあ確かめにいくか?はっきりさせようじゃねーの」と席をたった。
俺たちがまた公園を訪れたころには、もうすぐ陽が落ちるかどうかのゆったりとした時間帯で、耳をすませば、公園の中から小さな女の子の泣き声…ではなく、誰かと揉めているような声が聞こえた。
姉は茂みの隙間からそっと中の様子をうかがっていたが、一言。「ストロー刺してごめん。あんたの言ってた事は本当だったわ。女の子があのピエロのオッさんを奥に連れていこうと必死に手を引っ張ってる。オッさんめちゃくちゃ迷惑そうにしてるわw」
それから数ヶ月がたち、久しぶりに公園のそばを通ったら、中から沢山の子供や大人たちの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
公園の前に立ち止まり、その微笑ましい光景をながめる。ああ女の子は無事、あの邪悪なピエロをどこかへ連れていってくれて、この公園にも平和が戻ったのかなと、少し嬉しい気持ちになった。
ふと俺も公園で一休みしようかと足を踏み入れかけたその瞬間、後ろからとんでもない硬さのヒジ鉄が俺の背中に食い込み、俺は悲鳴も上げられずにその場に倒れ込んだ。
「なんか気になって後をつけてみたらこれだよ。もう一回公園の中よく見てみ?」
姉の言うがまま再び公園をみると、さっきまで沢山いたはずの人々はどこへ消えたのか、滑り台のそばに、明らかに時代にそぐわない古めかしい格好をした、おかっぱ頭の女の子が一人立たずんでいるだけだった。
「あ、あの子もしかして?」
「ああ、あれだよ。あの子ああ見えてけっこうやばそうだな。あぶねーあぶねー」
姉がにらみつけると、女の子は目に涙をいっぱいにためながら、「お母さんを一緒にさがしてー」と、しくしく泣き始めた。
姉が言うには公園のそとにいれば安全との事なので、あの女の子には若干申し訳ない気持ちを抱きつつも、俺は今後一切あの公園に近づく事はないだろう。
了
前回締切日に間に合わなかったので、「どーかなー」と危惧しておりましたが、ちょっと長くなってしまいました(汗)。
────────────
『アリス君リターン───秘密の写真館』
御久し振りです、有馬澄斗(ありま・すみと)です。
さて、今回は………と言うより、今回も不思議な話を披露する機会を設けて貰って有難う御座います。
**************
僕には姉と妹が居て、姉の名が「夏音(かのん)」、妹の名が「紗矢(さや)」と言って、妹は過去の一件以来すっかり強気に出なくなって、姉は程々に僕を着せ替えのモデルにしている。ガタイの良い姉さんが作るのは、或る程度鍛えてはいながら、細身の僕にピッタリ寸法の合ってしまう、言わば女装服だ。
「澄君(すみくん)澄君!秘密の写真館って言うのが有るの」
声を弾ませながら姉さんが言う。
「秘密の?」
「そうなの!それでホラっ♪澄君に着て貰う奴がこーれっ♪」
ゴシックロリータ………フリフリな布飾りである、フリルの付きまくった、いわゆるゴスロリの新作である。タイツや黒いテカテカな女児ないし人形に履かせる様な靴も、僕のサイズに合わせて設(しつら)えたらしい、徹底振りである。
「その写真館迄、着てけって?」
恐る恐る姉さんの顔とゴスロリ服とを見比べる。
「まさか!行ってから着て貰うから大丈夫よ」
「兄さんが着るなら私も着る!着て見たい!」
傍でゴロゴロしながらスマートフォンをいじっていた紗矢が、飛び起きて姉さんに飛び付く。
「あんたの分迄用意すんの?」
「裁ち鋏とプリンの件は、弁償したりもしたじゃん………」
裁ち鋏を通常のハサミと同じ様に紙を切るのに使ってしまい、雷どころか溶岩をぶち撒(ま)けられる様な恐怖を味わってもいるから、姉さんに訊き返された紗矢は、随分しおらしい。
「───じゃあ、寸法計るから大人しくする事、良い?」
「良いの?」
「動きにくいかもだけど良い?」
「えっ………御免、やめた」
「ほらあ」と声には出さずに、口許に笑みを浮かべつつ困った顔で首を振ると言う、明るめな内容の洋画やホームコメディで良い意味で余裕の有る御姉さん役がやる様なリアクションを姉さんは取り、紗矢も紗矢で、僕が姉さんの仕立てた服に袖を通すのが寸法を測る所から始まると言う、或る意味体力勝負だと分かった様だ。
過去にもゴスロリファッションを着させられたけど、御人形さんの感じで、女装させられる際のスカートのスースー具合とは又違って、僕の場合は結構動きにくい。
**************
雰囲気作りと称して、リサイクルショップで購入した年代物とおぼしきトランクを用意した姉さんは、僕に着せるゴスロリ服を詰めて、何故か付いて来た紗矢も邪険にせず、僕と一緒に秘密の写真館とやらへ足を運ぶ。
「────写真館って言うのか………ねェ」
僕や姉さんは勿論だが、紗矢が見上げて固まる。
大時計の見下ろす、骨董屋やアンティークショップどころかいわゆる古時計屋である。中を見ると大量の時計が振り子を動かしている。一つだけ言える事は、明らかに写真館の趣(おもむき)では無い。
「行きますかっ」
「おおっ、漢(オトコ)らしいぞ澄君」
姉さんからトランクを渡して貰いながら、バンバンと軽く握り拳を作ってドア硝子に軽く打ち付ける。
バォーン………
「!!」
鈍い音が中から響いた。置かれている柱時計が時報の鐘を鳴らしたらしい。
キィっと扉を開けて、僕は先陣を切る格好で中に入る。
「御免下さい。予約完了のメールを受け取りました、有馬です」
そうなのだ。
姉さんが見付けた秘密の写真館とやらは、何故か要予約でメールが有難いとの紹介文だったので、送っておいたのである。
「申し訳有りません、御客様。いらっしゃいませ」
穏やかで落ち着き有る男性の声が奥から響いて、足音が近付いて来る。
「?!」
僕達は思わず面喰らう。
穏やかな声とは裏腹に、出迎えてくれたのは………
オーバーオールを着た、メイクの落ち掛けているピエロだった。
「ひゃっ!!………あ………う………」
思わず叫んで店の外に飛び出そうとした紗矢に対して、姉さんが彼女の口を掌(てのひら)で押さえ、ゆっくり落ち着かせる。
「あの、メイクが………」
「え?」
柱時計の隣に吊り下げられていた手鏡で自分の顔を確認したピエロは、無言で白目を剥いてズルリと足元から崩れ落ちてしまう。
「しまった!近くに椅子は有るっ?!」
「澄君!畳が有るからそこに!」
姉さんが、冬眠ならぬ夏眠(かみん)する火鉢の傍に、人一人寝られる位のスペースを見付けて、そこにピエロを横たえる。
「ジュース買って来るから、その人見てて!」
「うん!兄ちゃん分かった!」
飛び出そうとした筈の紗矢が異変に気付いたかすぐさまクルリと向き直り、姉さんと共に様子を見る意思表示をしてくれる。
僕は、ペットボトル飲料を買いに、コンビニに行こうとするも、ふと思い立ってドラッグストアを見付けて飛び込んだ。
********************
「ううー、うーん」
即席の冷却袋を、パキっと音を立てさせて作動させ、ゆっくり押し当てていると、低い呻き声と共にメイクの落ち掛けているピエロが目を覚ます。化粧の下は、良く見ると声に違(たが)わぬ穏やかそうな男性だった。
「大丈夫ですか」
紗矢が声を掛けてくれる。
「────ああ、御客様なのに、とんだ御迷惑を」
ゆっくりと横たえられた畳から起き上がって正座し、僕達に御辞儀をするピエロのおじさん、古時計屋の主人なのだと言う。
「メイクをしていましたら、ドンドン暑くなりましてな」
頭を掻きながら、ピエロの特徴とも言える頭頂部の剥げた横に、縮れた赤毛の置かれたカツラを置いて、主人が詫びる。ツンツンした直毛の黒髪と、これ又ピエロとは違う正体でもある。
「秋口と言われるのに、まだまだ暑いですから………」
火の無い火鉢の近くの文机(ふづくえ)に即席の冷却袋を置いて、僕に断りを入れて来た主人は、僕の買って来て渡したペットボトル飲料をぐうっと飲んだのを見て、僕と姉さん、紗矢も喉を潤した。
「有難う。予約されていた有馬様でしたな。失礼、こちらに」
一息ついた主人は奥の部屋に案内してくれる。
柱時計の沢山合った店先と異なる、アンティーク家具が行儀良く配置される場所で、正に昔の良家(りょうけ)の一室が再現されている様だった。
「この椅子に座ったりしての撮影をしております」
片方が立ち、片方が椅子に座る構図の、あの格式高い感じの記念写真が撮れる、正に秘密の写真館だと僕はハっとさせられる。
「では、御着替えが済みましたら、御撮りしますので」
メールでの予約だったので、主人は誰が写真のモデルになるか全く把握していない様子で、男女それぞれの更衣室を掌を開いた手で指し示す。
「実は………」
次は姉さんが話し始める。
「何と」
ピエロのメイクが薄くなって来て、目の周囲だけが十字の感じで書き込まれた特徴を残しているので、主人の目を丸くする光景がむしろゾワっとする在り様である。
ハっと我に返り、主人はすぐさま男子更衣室を案内してくれた。
僕は着替えられる所迄着替えて、フリルの付いた衣装のバランスは姉さんや紗矢が手伝ってくれて、あのアンティーク人形特有の、ちょっとした口紅迄塗られてしまう。
「宜しいですか」とピエロのメイクをし直した主人が現れるが、僕の姿の他、もう一人────姉さんはそのままだが、暫く姿の見えなかった紗矢が、女子更衣室から出て来たのを見て驚き、僕も驚く。そうか、あのトランクのギューギュー振りは、僕に着せる衣装だけでは無かったのか。
タキシードと言うか燕尾服の様なピシっとした格好で動きにくそうながら、照れ笑いを浮かべている。
「姉さん、ありがとね」
「良かった、あんたが気に入ってくれて」
「動きにくいかな」と本音を言ったら又、気不味(きまず)くなると思いつつ、着せて貰える服を用意して貰った姉さんへの御礼も又、紗矢の本音だなと言うのが口振りから分かる。
姉さんは撮ってくれる主人の側に居ながら、紗矢と僕が被写体になる。
「はい、御澄ましでー」
「笑顔もどうぞー」
構図としては、ピエロがフランス人形の女装と男装女子を撮ると言う余りにも不思議でありながら、フラッシュを焚きながら撮り上げて行く主人、紗矢や僕に見守る姉さんも真剣そのものである。
***************
「御待たせして申し訳有りません、御茶が入りました」
最後の一枚と言うリクエストで、それのみ無料との事で主人がいわゆるティータイムのワンシーンをと、紅茶を淹れてくれる。
やはりガタイの良い姉さんに、女装しつつ口紅を落とした僕や、男装しつつ羽織っていた上スーツを脱いでワイシャツとスラックス姿の紗矢とピエロの主人が卓子(テーブル)を囲んで椅子に座る姿は、今思えばやはり不思議である。
主人の写るセルフシャッターが終わり、紅茶やクッキーを食べ終わった僕達が着替えや片付けの為に席を立とうとしたその時───
「うわ!あいつよくみたらアリスじゃん!アリスいるじゃん!撮った?マジスゲーヤベー」
「あれ、アイツの妹だろ!」
「ピエロいるわーピエロ、こえー」
「?!」
「!」
換気も兼ねて、古いエアコンの効きを良くする為に開けていた窓から、誰かが覗き見て盗撮したらしい。スマートフォン特有の、シャッター音がした。
口調からして関係が良いとは言えなかった、今は別進学先に居るだろう、元同級生の声だ。
「アイツ等っ!!」
穏やかに主人の片付けを手伝っていた姉さんが、青筋を立ててドスの利いた声に変わり、ゆっくりと店の出入口に近付いて行く。
「御待ち下さい御客様!」
時代劇だったりで、上の者に話を遮(さえぎ)られて狼狽する家臣の様な口調の主人と、制止を拒もうとする姉さんとの視線がぶつかる。
「口を割らせます!データが消されようが何しようが」
「────こちらに任せて下さい。御願い致します」
ピエロの姿の主人に頭を下げられては、姉さんも流石に頭が少しずつ冷えて来たと見えて、ゆっくりと深呼吸しつつ、
「────分かりました、撮影料だけでは足りないかもなので」
と紙幣を上乗せしようとする。今回の撮影の為に結構貯めたのだろうと言う金額である。
「おっと、それも結構で御座います。但し、経過報告をこちらから連絡させて貰いますので………あっ、予約されましたメールアドレスに」
「??」
主人への依頼料を貰わぬ代わりに、経過報告をしてくれると言う、下手をするとサービス過多な感じもするが、姉さんは主人の言葉に従って、提示されていた通常料金を支払うにとどまった。
***************
数日後、授業の合間の休憩時間に、友人である柄保地健康(えほち・たけやす)君や、添吉克盛(そえよし・かつもり)君が、スマートフォンを持って僕の所に来る。
「大変だぜ有馬ちゃん!」
「ニュースニュース!」
「え?」
芸能のゴシップニュースだと思った僕は、興味の無い顔をしてしまう。
「澄ちゃんの嫌いなゴシップじゃ無いんよ。盗撮と脅迫したって話で、模出(もで)高校の生徒が取っ捕まったってホラ!ネットニュースになっちゃってんの」
「別に嫌いって話じゃ………って、ええっ」
「ほれほれ」
画面をスゥっと動かしながら、添吉君が僕の読み易い様に自分のスマートフォンを操作してくれる。
『田沢県警小野沢署は、盗撮と脅迫の容疑で高校生男女数名を逮捕した。捜査に支障があるとして、彼らの認否を明らかにしていない。盗撮の現場を撮影して撮影していた当事者を脅迫したほか、施設に不法侵入し彼ら自身も盗撮していたとして、捜査を進めている。』
「何で模出高校って………」
僕が訊こうとすると、折り悪くチャイムが鳴ってしまい、話が御預けになる。
────姉さんからも更に後日、この手の話が聴けて、あの古時計屋の主人があの古めかしい建物に似つかわしくない小型監視カメラを、本来の死角と考えられがちな場所に設置していた他、ドローンを僕等の帰った後に飛ばしており、逃げた奴等がすぐに群れているのを特定したそうで、小さな町の警察署にも設置されたサイバー対策課への匿名通報、細部迄特定するネット掲示板にもこっそり貼り付けたりして、身柄確保に至ったとの話だ。全て、「内密に」との前置きで、あの古時計屋の主人がメールで姉さんに約束通り伝えた一部始終である。
穏やかな人程、張る網は精密且つ逃れにくい………それが自分自身よりも恩人を傷付けた際に、牙を剥いてならず者を闇に葬る場合が有る………御客であり、尚且つ暑さでメイクが落ちて熱中症になり掛けたのをたまたま助けたのが、僕達だったと思うと───
写真立てに納められる、現像されて送られて来た、姉さんや紗矢と僕、そして穏やかに微笑むピエロの姿の主人の暖かな光景を見て、僕は小さな震えを噛み締めた。
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御題短編とは似ても似つかない、長編になってしまいました(汗)。
追加コメントすみません。
さとる様 作品の登場人物に、お名前拝借いたしました。
イベント企画、ということで、お許し願えればと思います。
まねっこ どんどん。
月末までに、あと1作は、仕上げたいです。
ふたば様
今月もお題三題ありがとうございます。
ここでの交流も、残り少なくなってまいりました。
今年、大晦日。最後まで投稿を楽しみたいと存じます。
どうぞよろしくお願いいたします。
では、相変わらずの駄作、拙作、迷作ですが、いつもながらご笑覧いただけましたら幸いに存じます。
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「SNSで拾った話」
俺の友人M(仮名)には、「さとる」という4歳年上の従兄弟がいた。
「さとる」は、Mの母親の「姉」に当たる人の息子なのだが、近所に住んでいたにもかかわらず、Mは、一度も会ったことがなかった。
記憶にあるのは、母に手を引かれ、訪れた家。
長い廊下の先にある広いリビング。ベットの脇に置かれた「骨董」品のようなリクライニングチェアにもたれながら、前後にゆらゆらしている女の人を指し、「この人が、『さとる君』のお母さんで叔母さんのH美さん。」と教えてくれた。
たしか、この時Mは、「さとる君は?」
と尋ねたような気がするが、それには、母親もH美からも応答はなかった。
Mの母親は、Mと叔母の家を訪ねた3日後に、心筋梗塞で急逝した。ほぼ即死状態だった。更に、葬儀を終えた翌日。今度は、Mの父親が、交通事故で亡くなった。
一度に両親を亡くしたMは、高校を卒業するまで母方の祖父母の家で過ごした。
ある日、Mの職場に解体業者から電話がかかってきた。
空き家の解体作業に着手する前に、奥のリビングにある油彩画の処分についての相談だった。
叔母の住む家に、油彩画などあっただろうか。
Mは、戸惑いつつ高齢の祖父母に代わり件の空き家を訪れた。
怯えた表情をした作業員が指差す先には、天井から吊るされていた100号の油彩画があった。
西日さす昼下がり、リクライニングチェアに腰掛けピエロの人形を抱きつつ、じっとこちらを見つめている若い女性が描かれていた。
Mは、絶句した。
叔母H美に抱かれたピエロの胸元には、「さとる」と書かれた名札がしっかりと縫い付けてあったからだ。
Mは、この油彩画を骨董屋にただ同然で売り飛ばした。
「呪物」としては一級品で、骨董屋から、かなり高値で売れたと聞いた。
後ほど、Mの父親が、当時、新進気鋭の画家だったことを知ったMは、
「怖いというより、胸糞悪いです。」
と履いて捨てるように語った。
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私も、天虚空蔵様の意見に同意します。
自作品は、(削除したいけれど、面倒くさいので手を付けていない。誤字脱字、表現のお菓子あ等も含め赤面したくなるような愚作も多く)恥ずかしい限りなのですが、それこそ、過去アップされていた先輩作家様たちの、他の方の作品も大切にストックしておきたいものです。
もし、許されるのであれば、姉妹サイトかもしくは、他サイトにアップしてもらえればいいなぁと個人的には思っている次第です。
ふたば様、今月もお題の提供ありがとうございます。
このサイトで「姉」と聞くと、まめのすけ様の『姉さんシリーズ』が真っ先に思い浮かびます。
そこで今回、『姉さんシリーズ』の設定を思い切りパクらせて貰って800字を作ってみました。
『姉さんシリーズ』を読まれていない方は多少理解し辛いところもあるかと思いますが(笑)
それでは
【父のプレゼント】
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僕には四歳年上の姉がいる。
幼い頃から霊感に優れ、僕もそんな姉さんに何度も救われてきた。
ある日、仕事以外何も興味がなさそうな父が、突然姉さんの誕生日プレゼントだと言ってお土産を買ってきた。
出張先の骨董屋で見つけたらしい。
父が骨董屋へ寄ること自体驚きだが、買ってきたのは古びたピエロの人形。
頭、そして両手足だけが磁器でできており、胴体と両腕、両脚は布製だ。
どうしたのかと僕が尋ねると、店の前を通り掛かった時にふと呼び止められたような気がして、振り向いたらこの人形が目に留まり、買わなければいけないという気にがしたから買ってきたと言った。
「嬉しい、どうもありがとう。」
姉さんは笑顔でそれを受け取ったが、父がそれを鞄から出した瞬間、姉さんが眉をひそめたのを僕は見ていた。
この人形には何かがあるのだ。
しかし姉さんにとって両親は尊敬すべき絶対的な存在であり、受け取らないという選択肢は無かったのだろう。
…
夕食を終え、自分の部屋でスマホを弄っていると突然姉さんが入って来た。
「なあ、さっきの人形、預かってくれ。部屋にあると何となく落ち着かなくってさ。」
もちろん姉さんに逆らうことなどできない。
何かあると解っていたが、渋々受け取るととりあえず勉強机の上に置いた。
その夜
夜中にふと目が醒めると、薄暗い部屋の中、勉強机の前に誰かが立っている。
「誰?姉さん?」
真っ赤なワンピースに長い髪。その姿は姉さんじゃない。
その女は薄ら笑いを浮かべながらすっとベッドへ近寄ってくると、いきなり馬乗りになって僕の首を絞めてきた。
「うっ、ぐっ、ね、姉さん…」
バタン!
いきなりドアが開いた。
「この野郎、大事な弟に何しやがる!」
部屋に飛び込んできた姉さんは、こっちではなく机に駆け寄り、あの人形を掴んだ。
そしてその頭部を机の角に叩きつけると、割れた頭の中から小さな紙切れが出てきたではないか。
その紙にはびっしりと呪いの文字が書き込まれていた。
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このサイトが終了する際、自作品は一括でダウンロードできる機能を追加してくれていて、非常にありがたいのですが、ダウンロードできるのは自分の作品だけなので、末永く楽しみたいお気に入りの作家さんの作品もダウンロードできると嬉しかったんですけどね。
著作権の問題とかあって無理なのかな。
元気ですか?
遅刻でーす。
ラスト2ヶ月ということで、許してくださいませ。
頑張りましたが。病み上がりでは、さすがに、二作目は、間に合いませんでした。
相変わらずの、拙作ですみません。
さて、北東北は、みちのく といわれるように、奥深く魅力のある場所が多いです。
怪談話もたくさんありますが、美味しい食べ物にも恵まれています。
お国訛りも、独特で味わい深いものがあります。
これから、寒さを迎えますが、是非、一度、足を運んでみてくださいね。
「隣席の客の話」
「あの・・・失礼ですが、そちらは、東北の方でしょうか。」
彼岸明けの週末、都内の居酒屋で職場の同僚芳雄と飲んでいた時のことだ。ふたりともかなり酔っていた。もうじき、終電という頃になり、隣席の男性が躊躇いがちに声をかけてきた。
歳の頃は、還暦をちょいと超えたぐらいだろうか。
「まいったな。わかりましたかね。」
男は、丸椅子をくるりと向け、
「えぇ、数年前に訪ねたことがありましてね。I県の斜陽町ってとこですが。ご存じないですか。」
ほほえみながら返してきた。
芳雄と俺は、顔を見合わせた。
はて?I県に斜陽町ってあったっけ。
怪訝な顔をする俺達を尻目に、男は勝手に話し始めた。
商談が早く終わり、帰りの新幹線まで数時間あったので、地元の有名な温泉街を訪れようとM市からバスに乗りましたが、途中で居眠りをしてしまいましてね。
挙げ句、バスを乗り間違えていたようで、気づいた時には、日は既に傾いていました。
運転手に聞くと、バスは、A県との県境が終点だというので、このままでは、帰りの新幹線には間に合わないからと、途中のバス停で降りたんです。
斜陽町という名のバス停でした。
鬱蒼とした森の中、一本道の路肩にバス停がある。一瞬ゾッとしましたが、仕方がないので、M市までのバスが来るまで、待つことにしたのですが、日はかなり傾いていて、黄昏時となっていました。
すると、背後から、「かりもの に けぇせ」「かりもの に けんせ」という声が聞こえてきて。数人の真っ黒い人影が、こちらに向かってやってくるんです。
数人の人影は、私の眼の前に立ちふさがると、「かりもの に けぇせ」と繰り返すんですよ。
思わず、「借り物ってなんだ。」と叫び、はっと気がついたんです。「借り物」ではなく「狩り者」という意味ではないかと。
自分が狩られては困りますからね。
思わず、カバンの中から、昼飯代わりに買ってそのままになっていた「ケンタッキーフライドチキン」を出し、そいつらに投げつけてやりました。
すると、そいつらは、「いがったいがった。」と言いながら、フライドチキンを引きちぎりながら、踵を返し、森の奥に消えていきました。
「けんせ」って意味は、「ください」ってことだと何故か直感で分かりましたよ。東北の山奥には、マタギとか「狩りをする人」多いのでしょう?
お二人の会話を聞いて、恐ろしくも懐かしい昔のことを思い出しました。
男は、芳雄と俺の顔を交互に見つめながら、
「狩り者に返せって、果たして、私の解釈で合っていますでしょうか。よろしかったら、東北出身の貴方がたの解釈を聞きたいんですが。」
なぜか、冷や汗が出てきた。
「んじゃ。そろそろ終電なんで。帰ります。」
「ありがとうござました。」
俺達は、そそくさとその店を後にした。
ーI県に斜陽町などない。
ー作り話だろ。
ーそれにしてはリアルじゃね。
ータヌキかキツネに騙されたんだろ。
ーそこまで、田舎じゃねーか。
俺は、沈黙する芳雄の前で、ひたすら喋り続けた。
芳雄は、立ち止まり震えだした。
「おまえ、気づかなかったか。あの男、影がなかったんだよ。」
はぁ。
「あと、つけられていないだろうな。」
すっかり酔いが冷めてしまった俺達は、我先にと走り出した。ひたすら走り続けたせいで、方向感覚を失っていた。間に合うはずの終電に遅れ、仕方がないので朝まで駅構内で過ごした。
先月は大遅刻をしてしまったので、今月は早めに。
【薄桃色のハンカチ】
************
高峰梓子が病気で死んだのは、僕らが五年生の秋でした。
運動会の途中で倒れ、すぐに病院へ運ばれましたが意識が戻ることはありませんでした。
お葬式の時、僕はポケットにある物を忍ばせていました。
それは薄桃色のハンカチ。
運動会で僕は借りもの競争に出ていました。
スタートして拾い上げた紙に書かれていた文字は「ハンカチ」
僕は躊躇うことなく自分のクラスの席へと向かいました。
「誰か、ハンカチ貸して!」
そして真っ先にハンカチを差し出してくれたのが、ずっと図書委員で一緒だった彼女でした。
おかげで一等賞だったのですが、彼女はその直後に頭痛で倒れ、すぐに病院へ運ばれたので借りたハンカチを返す機会を失ってしまったのです。
一度、クラスの友人達と病院へ彼女のお見舞いに行きました。
その時にハンカチを持っていったのですが、ベッドの上で沢山のチューブやコードにつながれ、意識のない彼女を前にして、ハンカチを返すことが出来ませんでした。
そして病院を出て暗い気分で帰りのバス停に立っている時でした。
瑞希くん
背後から呼ばれたような気がして振り返ったのですが誰も居ません。
「今、高峰の声がしなかったか?」
一緒にバスを待っていた友人達に聞いてみましたが、みんな黙って首を振るだけです。
そしてその翌日でした。
担任の先生から、昨夜彼女が亡くなったことを聞かされたのです。
僕は必死で涙を堪えました。
そして放課後、彼女とよく一緒になった図書室へと向かいました。
晩秋の日没は早く、図書室へ入ると斜陽の光で茜色に染まっています。
誰もいない図書室の窓際に目をやると彼女が立っているではないですか。
「高峰!ハンカチを返さなきゃ。」
何故か恐怖はありませんでした。
咄嗟に出てきた言葉に、彼女は静かに微笑みました。
「返して貰っても仕方がないから、瑞希君にあげる。」
それだけ言って彼女は消えてしまいました。
そのハンカチは還暦を迎えた今でも机の引き出しに入っています。
**************
この主人公の瑞希君は自分で意識していないけど、梓子ちゃんが好きだったんでしょうね。
そして梓子ちゃんも。
いいな~、こんな打算の全くない幼い恋心。
まずは、一作目投稿しました。
今月は、頑張らないと。
ご笑覧いただけましたら、幸いに存じます。
「晩夏」
「日が落ちるのが早くなりましたね。」
仕事帰り、いつものバス停で17:32発「幸町行き」のバスを待っていると、背後から声を掛けられた。
振り返ると、この辺では、見かけない顔。品の良い初老の男性が立っていた。
グレーヘアにYシャツに黒のスーツ姿、手には黒のビジネスバックを持っている。
出張、もしくは、仕事帰りなのだろうか。
平日の水曜日。バス停には、この男性と私しかいない。
―まもなく、日没を迎える。こんな田舎町に何の用があったのだろう。
―出張?最寄りの駅なら反対方向だ。
怪訝な顔をする私に、っ男性は、言った。
「終点の幸町にある、あけぼの海岸まで行きたいんです。」
「今からですか。1時間半はかかりますよ。」
「19:30に人と会う約束をしているんですよ。「お借りした物」をお返しするために。」
にっこりとほほ笑んだ。
―はぁ・・・
奇妙な奴。あまりかかわりあいにならない方がいいかも。
あけぼの海岸は、日没前の日が傾きかけた頃、いわゆる「斜陽」の美しさで名高い景勝地。だが、地元では、自〇の名所として知られている。リアス式海岸、切り立った岩礁が広がり、遺体は、なかなか上がってこないのだ。
―まさか。覚悟の〇殺か。だとしたら、何とかして止めなければ。
この人を〇させてはならない。そんな気になった。
いつになく正義感に燃えていた。もはや、失われていた生きる希望。救わなければならない命への希求。
程なく、バスは、終点の幸町に着いた。私と男性が下り立ち、海岸に向かい足を早めた。
噂には聞いていたが、地平線のかなたに広がる夕陽の輝きに息を呑んだ。
「自〇してはいけません。絶対に。」
振り向きざまに男性に声をかけると、
「あなたに、お返ししたいんです。私の命を。私をよく見てください。覚えていませんか。」
ハッとして凍り付いた。
看護学生だった頃、交通事故で瀕死の状態だった男性に救命措置を施したあの日のことを。斜陽の中で、必死に胸を押し続けたあの日。
実習で疲れ果てていた。看護師を諦めようと思っていた。
今の私のように。
手に手ごたえがあったのが17:32。救急隊に渡した。助かったと聞いたのが、19:30だった、
翌日、学長に呼ばれて、叱責された。肋骨が折れていたらしい。でも、でも。頑張ったんだ。私なりに。
「どうか、生きてください。まだ、間に合います。大丈夫。助かります。」
肩越しに、男性の穏やかな声が聞こえた。
気が付くと、辺りは夜の帳が落ち、闇に溶け込むようにひとり海岸に佇んでいた。
すみません。
うっかりしていて〆切を過ぎてしまいました。
ご勘弁下さい。
800字ピッタリです。
******************
【見えない参加者】
「ハーイ、これで撮影は全て終了です。お疲れさまでした。」
我が映画研究会が大学祭で上映する映画の撮影が終了した。
今年は十五分程のショートホラーで、山奥にある廃屋へ大学生男女五人が探索へ出かけ、そこに棲みつく幽霊に次々と殺されるが、最後に女の子ひとりが生きて逃げ帰るというストーリーだ。
奥多摩にある古民家を借り受け、一か月程を費やしたが、内容の割に楽しく撮影は進み、メンバー全員がまだまだやっていたいという未練を残しながらのクランクアップとなった。
終了の掛け声と共に撮影用のライトが落とされ、薄暗くなった室内で今日の撮影に参加している十名程の部員が一斉に片づけを始め、最後のシーンに登場していた幽霊役の女の子は着替えとメイク落としの為にひとりで奥の部屋へ移動した。
これまでずっと撮影に使ってきた家であり、特に不安を感じることもなく、襖を閉めて衣装を脱ぎ、Tシャツ姿になると持って来ていた鏡に向かって、リムーバーで青白く塗られたメイクを落としてゆく。
そして通常のメイクを始めた時だった。
薄暗い背後から見知らぬ女性が、鏡越しに彼女を覗き込んでいるのに気づいたのだ。
「え⁉」
驚いて振り返ったが、部屋には彼女の他に誰もいない。
しかしもう一度鏡を見るとそこには女性の顔がはっきりと映り、寂しそうに微笑んだのだ。
「ぎゃ~っ!」
彼女は慌てて自分の荷物を引っ掴むと転がるように部屋から飛び出した。
彼女の話を聞いてメンバー数人が恐る恐る奥の部屋を確認しに行ったが、特に何もおかしなところは無かった。
しかしその日の夜に行われた打ち上げの席に持ち込まれた撮影時の写真のあちらこちらにその女性が写っていたのだ。
おそらくあの古民家の地縛霊だったのだろうと皆で噂したのだが、その女性は打ち上げの席で撮られた写真にまで写り込んでいた。
彼女の寂しそうな笑顔は、撮影が終了してもうこれから学生達が訪れなくなることに対してだったのだろうか。
「嗤う顔」
ホラーマニアから圧倒的な支持を得ている映画監督Tには、長年の夢があった。
文豪で名高い谷崎潤一郎の「人面疽」を自らの手で映像化することだった。
実は、20年ほど前に、映画化の話が本決まりになっていたのだが、スポンサーを名乗り出てくれた大手企業の一方的な事情により、突然取りやめとなってしまったのだった。
既にキャストやスタッフも決まり、撮影に入ろうとする矢先の出来事。
以来、人面疽の劇場映画化は、監督Tにとって、長年の悲願でもあり、「未練」の残る仕事となった。
技術的には、CGやAIを駆使し、膝に浮き出る不気味な男の顔や、恐怖に歪む女の苦悶の表情など、20年前よりも、鮮明かつリアルに表現できる自信と実力があった。
今回は、慎重に事を進めたお陰で、企画の段階からかなり良い手応えを得られた。ホラーと聞いて、一時は、難色を示した女優Aだったが、かつての美貌と人気が色褪せ始めていたこともあり、本作で新たな魅力を打ち出すことで、起死回生を図る絶好のチャンスだ。再度、スポットライトを浴びてみたくはないか。と説得を続け、快諾を得ることに成功した。
脚本は、新進気鋭の将来を嘱望されているKを起用し、スタッフには、長年のベテランを起用することができた。20年前よりも優れた作品になるだろうことは容易に想像できた。
成功を革新した監督Tは、心躍ったのだった。
撮影も何もかもが順調に進み、試写会を前に、スタッフ、キャスト、制作会社、スポンサー全員で「打ち上げ」パーティをすることとなった。
長年の悲願だった谷崎潤一郎のホラー作品「人面疽」の映画化。
配給会社を通し、全国560箇所で上映されることも決まっている。
ワインを片手に、女優Aが乾杯の音頭をとる。
「では、完成を祝い、本作の成功を祈って。」
「かんぱーい。」
照明がAに「スポットライト」を向けると、一斉に歓喜の声があがった。
30半ばとはいえ、色白で細身の肢体に張り付く真っ赤なドレス。スリットから覗く一際美しく磨き上げられた足に、皆が釘付けとなった。
その時だった。Aの周辺に不穏な空気が流れ出した。
「え?な、なに。どういうこと。」
Aが慌てて、ドレスの裾を手で払っている。
クチャクチャクチャ
下品な咀嚼音が マイクをとおし打ち上げ会場のスピーカーから流れ出した。
「キャー。」
「うわぁ。な、なんだこれは。」
ぎゃああああああああ
おおおおおお、こ、これって。
歓喜に溢れた会場は、一転し、叫声と罵声で騒然となった。
スポットライトが映し出したのは、主演女優Aの右膝に、すっぽりと埋まる醜い男の顔だった。
そいつは、ニヤけながら、Aのドレスを噛みちぎり、膝にこぼれ落ちたワインを美味しそうに舐めあげたのだ。
気絶し倒れ込んだAのそばに駆け寄った監督Tが見たもの。
Aの右膝に浮かび上がる男の顔は、未練と後悔と絶望の淵に立たされ、ドラッグと麻薬に耽溺していた20年前のA監督そのものだった。
膝に浮かぶ人面疽は、「おまえ、ずいぶん偉くなったなぁ。何人犠牲にした?この人殺し。」
ふふっぶわははははははっは
灼熱の太陽のようなライトを浴びながら、嗤い続けた。