会社の同僚のKさんには、大工のAさんという悪友がいます。
お二人は高校生の時からのお付き合いで、何事にも元気一杯、アグレッシブに女性とも遊びまくるというタイプの方々でした。
30歳になった今でもそれはそれはやんちゃ三昧しています。
Kさんは所謂「見える人」なので、結婚前、実家に住んでいた時は色々な体験をしていたそうです。
玄関先にスーツ姿の男性がずっと立っていたり、家の階段の上から全身真っ黒な人の形をした何かが四つん這いで下を見ていたり。ここで挙げるにはキリがないほど多くの体験をしていっらっしゃいます。
現在は学生の頃ほどはっきり見えることは無くなってきて、「あ、何か良くない感じだな…」と思う程度になっています。
一方そんなKさんと毎日のように一緒にいたAさんですが、そのような体験は無く、まったく霊の存在も信じていませんでした。
今回はそんなAさんの不思議な体験です。
Aさんは先述の通り大工をしており、郊外に古い一軒家を購入し、自ら少しずつリフォームを加えながら住んでいます。
ちなみに彼は独身で、特定の彼女もおりません。そんな状況もあり、自然と彼の家には友人達が溜まり場として集まってきます。
Kさんも何度も遊びに行っていますが、時折重い空気を感じることもあったそうです。
しかしAさん本人にそのことを諭し転居を勧めても「俺に害が無ければ霊だろうがなんだろうが一緒に居てもいいの!俺は博愛主義者なの!!」と、一向に気にする様子はありませんでした。
Kさんも本人がいいなら無理強いすることじゃないし…と、それ以上この話をすることはありませんでした。
アグレッシブに女性が大好きな彼らがいつものように合コンをしたある日、二次会のカラオケを終え、当然のようにAさんの家へ男女複数人で飲みなおしに帰りました。
その女性メンバーの一人にプチ家出中の女の子がいたそうで、しばらく泊めて欲しいと懇願され、断る理由もないAさんは2~3週間ほど泊めていました。(Aさんの名誉のため、女の子は断じて未成年ではないと明言させていただきます)
実はその女の子も「見える人」だったらしく、Aさんの家に来た当初から「左半身の無い子供がいる」「今日もパンパンにふくれた水死体の霊がいた。水死体は毎日あらわれる」など、様々な霊を見ていました。
毎日のように霊を見たことを訴えても何も気にしないAさんは「おぉ、すげえ」とか「わー、それはちょっとグロそうやんね」とか、あまりにも話を流すのでついに女の子は怒って出て行ってしまいました。
女の子が出て行ってしばらくしてからAさんが子猫を引き取りにKさんの家にいきました。
Kさんの実家の軒下で野良猫が赤ちゃんを産んでしまったらしいのですが、Kさんのご家族は猫アレルギーで飼うことはできません。Kさん自身もマンション住まいなのでペットは飼えない。
一戸建て暮らしのAさんは適任だということから子猫のうち1匹をお願いすることになりました。
自称博愛主義者のAさんなのでもちろんOK。まだろくに目も開いていないような子猫で、Aさんの手のひらにすっぽりおさまるような小さな体でか細くミーミーと鳴いていました。
とても大人しく可愛らしい子猫にすっかりメロメロになったAさんが自宅に戻って中に入った途端、まるで人が(猫が?)変わったようにフギーフギーと思いっきり暴れだしたそうです。
あまりにも突然のことに驚いたAさんは、「家の臭いが嫌なんかなぁ。俺がクサイんかな…」とプチショックを受けながらも、子猫を落ち着かせるために一旦外に出ました。
外に出ると何事も無かったようにゴロゴロと喉を鳴らしてAさんに甘える子猫。「俺がクサイ訳じゃないんだ。。」と安心してもう一度家に入ろうとすると、また子猫は大暴れしました。もちろんAさんはまた外に出ました。
それから何度家に入ろうとしても子猫が暴れ、外に出る、を繰り返すので子猫が眠ってから家に入ろうと考えました。
普通の人ならその時点で家に霊的な何かあるのでは、などと疑問を持つものですが、鈍感の王様で肝がどすこい座っているAさんは、「動物は鼻が利きすぎるから臭いに敏感で大変だな。可哀想に…」など真剣に考えていました。
そうこうしているうちに子猫が眠り、家の中に入ることができたそうです。
その夜も子猫は起きている間はとにかく暴れ、疲れると眠り、を繰り返していたそうです。
翌朝、相変わらず大暴れしている子猫を尻目に仕事があったAさんは、「さすがに1日もいればニオイにも慣れるだろう。今日一日がんばれ!」と子猫一匹を置いて出かけました。
その日はさほど仕事が立て込んでいなかったので、子猫用のグッツを色々と買い揃え、夕方前には家に戻りました。
家に入っても子猫の声が聞こえなかったので流石に家に慣れたのか、それとも寝ているのか、など考えながら子猫の居る部屋へ向かいました。
しかしそこに居るはずの子猫が居ません。部屋の戸はしっかり閉じて出たし、実際に現状も自分が開けた以外はきっちり閉まっていた。部屋の隅々まで子猫を探しましたがやはりどこにも居ません。
戸締りが不十分だったのかな、部屋の外に出てしまったのかな、など思いながらキッチン、リビング、二階の部屋、家中あちこちを探しましたがどこにも居なかったそうです。
まだ目も開いていないような子猫がそんなあちこちに移動できるはずはないのですが、やはりどこにも居ませんでした。
ピチャン…と水音が聞こえ、まさかねと思いながら最後に浴室をのぞきました。
そこでは、なみなみとお湯をはった浴槽に子猫が浮いて死んでいたそうです。
普段シャワーで済ませるAさん。浴槽にお湯を残したままにすることはありません。
浴槽の高さは50センチほど。到底視界も定まっていない乳飲み子の子猫が届くような高さではありません。
これがAさんが体験した実話です。
子猫は可哀想でしたが、きちんと動物霊園で供養してもらったそうです。
Aさんは今でも何事も無かったようにそこに住んでいます。
怖い話投稿:ホラーテラー 芳さん
作者怖話