中編5
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本当に…有り難う…。

以前から読んで頂いている方々、コメントをくださった方々…有り難うございます。

少しいろんな作品やサイトの投稿を読んで勉強して皆様が読みやすい作品を目指したいと思うので、しばらく離れる事にしました。

帰って来た時はまた、御覧頂ければ幸いです。

それでは僭越ながら、最後に投稿させて頂きます…。

幼い頃、夏休みに田舎へ行った時、ばあちゃんが話しをしてくれた。

お仏壇が有る部屋で俺が、掲げられている写真を見てこれは誰?とか質問をしていた。

写真は爺さん・婆さんばかり…その中にやたら若い青年の写真があった。

歳の頃は二十歳前といったところか…。

『ばあちゃん、この若い人は誰?』

『この人はねぇ…ばあちゃんの弟なの。末っ子の甘ったれさん…。そう言えば、洋志(俺)に似ていたかもね…。顔も性格も(笑)』

ばあちゃんは話しを始めた。俺の顔を見ていたが、明らかに遠くを見つめるような目で…。

昭和19年…予備士官の学生だったばあちゃんの弟は帰郷を許され帰って来た。

婆・『孝(仮名)ゆっくり出来るのかい?』

孝・『明日には出発します。行く前に皆に会いたくて…。』

婆・『何処に行くの?まさか戦地なのかい…?』

孝・『いや…山口県にある操縦士の訓練所。ここで訓練してから、出撃命令を待つと思うんだ…出撃命令って言っても燃料補給とか食料補給もあるし…。』

この時はただの訓練所だと思っていた…。

それ以上の事は言わずに話しをすり替えるかのように、

『久しぶりに姉ちゃんと母ちゃんの水とん、食いたいから帰って来たんだ。』

この弟・孝はばあちゃんより丁度一回り(12歳)下で幼い頃はばあちゃんが面倒を見ていた。

だから、ばあちゃんは兄弟(ばあちゃんの下にあと3人いる、全て女。)の中で一番可愛がったそうだ。

その後は他愛も無い話しをしながら久しぶりに明るい声が家の中に響き渡ったそうだ。

夕飯を食べて風呂から上がった孝は自分の部屋でくつろぎ、机に向かって何かを書いていた。

翌朝…。朝食を食べ終わり、出発の時が来た。

ばあちゃんは少ない米を全部炊き、おにぎりを握って孝に渡した。

戦時中なので全部の米と言えども大きめのおにぎりが5個作れる程度。勿論、塩むすびとたくあん少々。

婆・『また、帰って来れるのかい?』

少し考えた後、孝は…。

『…訓練が終わったらね!多分、休み貰えると思う。

あと姉ちゃん、これ…後で読んで!

向こうに行ってからもまた、手紙書くから…。

姉ちゃんも身体、大事にな!重い物なんか持つなよ…。』

この時、ばあちゃんは3人目の子供を妊娠中。

婆・『お前も身体には気を付けて…。』

後ろ姿を見た時にばあちゃんはこれが最後のような気がした。

そしてこう叫んだ…。

『孝ぃーっ!死ぬんじゃないよ!…臆病と言われてもいい…非国民と呼ばれても良いから、生きて帰ってくるんだよー!!』

孝は大きく手を振っていた。

この時、ばあちゃんは泣きながら掲げてある孝の写真を見つめながら話しをしていた。

…数週間して一通の手紙が来た。

孝からだった。

「…姉さん、先日は嬉しい持て成し…有り難うございます。

訓練所へ向かう汽車の中でおにぎりを頂きました。

大変、美味しく…そして愛情を感じて食しましまた。

僕が向かった所は軍事機密の訓練所だったので詳しくは話せませんでした。

今、我が日本国は正直、善戦しているものの危機であります。

しかし、ここに有る必死必殺の救国兵器・《回天》と言う物で大逆転出来ると考えております。

皆も上官殿の言葉を信じ、日々の訓練に力を注いでいます。」

だが…この後の言葉は一軍人では無く一人の若い青年の夢がそこに書かれていた。

「…姉さんと約束しましたね。帰って来ると。

必ず帰って来ます…。そして僕は学校の先生になる夢があるので、勉強し直して社会科の教師になります。生まれ来る子供にも会いたいので。今度は姪っ子が良いです。

そして子供達に戦争はいけない事なんだと教えてあげたい。争いからは何も生まれないと言う事を話してやりたいと思っています。

僕が乗る《回天》は(天を回らし戦局を逆転させる)という意味でこの名前がつけられたそうです。

この意味を戦争では無く人生を歩んで行く為の教訓にしたいと僕は考えています。

それでは行って参ります。

皆様の御健康をお祈りします。

……孝。」

回天とは人間魚雷の事。言わば海の特攻隊である。

…その手紙から1ヶ月後…。

孝は戦死したと連絡が来たそうだ。

その晩、ばあちゃんの陣痛が始まった。

3人目なので直ぐに出たと言っていた。生まれたのは待望の女の子だった。(これが俺の母ちゃん。)

お産後、疲れて寝ていたばあちゃんは部屋の外に気配を感じた。

障子に影が薄ら見えた。赤ん坊を抱き抱えて、

『…だっ…誰…!』

すると、スゥーと消えた。

(気のせいか…)と思い、再び布団に入ろうとした時…、気配を感じた。その時

《…姉ちゃん、有り難う…。》

そう聞こえた。

『孝…!居るの…!』

そう叫ぶともう一度、

『…本当に…有り難う。』

その後は気配も無く、声も聞こえてはこなかった。孝が本当に帰って来たと思った瞬間だった…。

その数ヶ月後…、終戦を迎えた。

街や村にも少し活気が出てきたある夏の日…。

一人の青年が訪ねて来た。

その青年は孝と同じ訓練所に居て、同郷という事で可愛がっていた一つ下の後輩だった。

『孝さんが出撃する前の日に家族に渡してくれと言って、自分に託した物です。…遅れてしまい、申し訳ありませんでした。』

その風呂敷の中には本人が使おうと思ったのでしょう…。新品の鉛筆・消しゴム・画用紙・大学ノートや木綿や麻布が一杯あったそうです。

その中に一通の手紙。

開くとそこには、

「…子供達に使わせてください。いっぱい勉強や遊びを楽しんでください。

僕は家族の為に、子供達の未来の為に戦います。

国の為なんかではありません。

子供達の未来に戦争が無い事を願いながら、僕は行きます。

本当に…有り難うございます。」

そこには軍に見られてはまずい言葉がいろいろ書かれていたそうです。

最後に書いたのだが消しゴムて消された跡があり、そこを鉛筆で薄く塗り潰すと字が浮かび上がった。

そこにはこう書かれていた。

「…僕も結婚して、子供が欲しかった…。」…と…。

【完】

今まで本当に、有り難うございました。

『なんか聞いたような話』と言われそうなんですが、ばあちゃんが涙ながら話した姿が今でも忘れられなかったので、最後に投稿しました。

それでは…また!

怖い話投稿:ホラーテラー 元・悪ガキさん  

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