今回もオレと三井の話ですが、こっちは一応幽霊の話です。長文お付き合いください。
東北も秋田、日照時間が日本一短い所だ。夏ならまだいいが、冬となると4時過ぎには夜のような暗さになってしまう。
帰宅部はまだ明るい内に帰れるものの、六時まで練習がある運動部は真っ暗な中を歩きなりチャリなりで急ぐ羽目になっていた。
そんな暗い中を時間がかかる徒歩で帰る勇気なんてなかったオレは当然後者。というか、運動部のほとんどがそうだった。
車で迎えに来てもらう、という隠れた選択肢もあるにはあるが、オレはそれほど親と仲がいい訳でもなかったのでチャリに頼りきりの生活を送っていた。
しかし、こうなるとひとつ問題が出る。
中学校から自分たちの家への帰り道には、いわゆる墓地公園があったのだ。
T集合墓地と呼ばれるそこは、段々畑のような、大きな階段のような地形になっている。
T町に住むほとんどの人がここに墓を立てているのだから、結構びっしりと密集して墓が並んでいる。
暗闇、それも街頭もない中で眺めるその光景は中々に恐ろしいものだ。
それも、水色のワンピースを着た女が立ってるとか言う幽霊騒ぎまであった。
殺された人が化けて出てるだとか、呪われるだとか。顔にはやけどの跡がある、という噂もあった。
噂が広がって集団ヒステリーのようになったかもしれないが、実際見ている生徒は多いようだった。
運の良いことにオレの家は墓地公園を過ぎる少し手前にあるので怖い思いはしなかったのだが、三井やら他大勢の生徒は、毎日帰りたくないー、と嫌がりながら自転車をこいでいたらしい。
そして、オレが中学二年になった年。グッドニュースが飛び込んできた。三井が嬉しそうに話しかけてきたのをなんとなく覚えている。
「なぁ聞いたか、墓地公園の周りに街灯できるんだってよ!事故防止らしいけど、どっちにしろラッキーだよな」
「・・・へー。そりゃ良かったな」
「あぁ、明るかったら怖さ半減だよ」
はしゃいでいたのは、当然三井だけではなかった。それもそうだろう。幽霊が出ると噂の墓地を真っ暗な中で見るのでは、相当差があるはずだ。特に女子たちは一日中ニコニコしていた。
役場もたまには仕事すんだなぁ、としみじみ思った翌日には、もう工事が始まっていた。結局、数ヶ月経った十一月には街灯が完成したらしい。
そして、墓地公園が何本かの街灯で照らされた翌日だった。
いきなり開かれた全校集会。朝の早くから何かと思えば、どうやら事故に遭った生徒がいたらしい。まぁ、事故と言えるかどうかは怪しいところだ。
バレー部の女子が、自転車で転んで右腕を脱臼した。事故が起きたのは噂の墓地公園前だと言う。街灯の明かりに気をとられて運転がおろそかになったのだろう、と言うのが教師の言い分だった。
しかし生徒達は幽霊に襲われたとか、幽霊を見て驚いたんだ、とか言う話に結び付けたがった。悪乗りする生徒がはしゃぐが、墓地公園を通る生徒達は困ったに違いない。
「みなさん、くれぐれも自転車には気をつけてください」
校長がこう結んで、集会は終わった。運動部の地区大会も近づいていたからだろう、確かに生徒にケガはされられない。その女子生徒はレギュラーだったらしく、バレー部はしばらく大慌てだった。
そして、その三日後。さらにその一週間後、同様にケガ人が出た。と言ってもその生徒は帰宅部だったので周りに迷惑はかからなかったが、流石に頻繁すぎるということでPTAが点検することになった。
結果、街灯には何の問題はなかったらしい。流石に気になったオレはケガをした四人に原因を聞こうかとも思ったが、その全員が地元の出身。
その時のオレはまだタブーに触れないようにと気を使っていたので、地元の生徒とはあまり話すこともなかった。つまり、こんな時だけ話をするなどという都合のいい事はできなかった。
学校がその噂で持ちきりになる中、四人目のケガ人が出た。
三井だった。左足骨折という重症。それも、自分で転んだのではなく隣で転んだ友達に巻き込まれたらしい。その友達というのは野球部のエース。確か高橋くん。
三井は、ある意味高橋くんの野球生命を救ったらしかった。
仕方なく病院まで漫画を持って見舞いに行くと、三井は不機嫌な顔で(それもそうか)寝かされていた。
不謹慎だが内心これは丁度いいと思い、俺は三井に質問してみた。
「来て早々聞くのもあれだけど、原因って何なんだよ」
「聞かれると思った」
三井は少し困ったような表情になってから、仕方無さそうに話し出す。
「幽霊騒ぎ、あったろ?あれ、お前は信じてないみたいだけど本当に全員見てるんだよ」
「明かりあるんだから、幽霊騒ぎも何もないだろ」
単純に聞き返すと、三井は今度こそ苦々しい表情になる。
「逆だよ」
「・・・何だそれ」
「その女の人。ワンピースの。顔にやけどがある、って話あったの覚えてるか?」
「あぁ」
「街灯で明るくなった分、それがくっきり見えるようになったんだよ。あれ見たら、ホント運転どころじゃねーって」
その後、墓地公園は通学路から外された。
怖い話投稿:ホラーテラー たまごさんどさん
作者怖話