俺の怖い話好きは、父ちゃんの影響だ。
毎年、夏になると言い始めるんだ。
『怖い話大会をしよう!』
大会っつっても、父ちゃんが一人で話続けるんだけどな。
しかも、その‘大会’は押入れの中で行われるんだ。
それがまた子供心をくすぐられるんだな、これが。
狭い押入れの中で、三人の兄弟が身を寄せあって、懐中電灯で照らされた父ちゃんの顔を見ながら、キャーキャー言いつつ怖い話を聞く。
これが我が家の風物詩だった。
これは、5年生の時にそこで話された話だ。
いつもは、父ちゃんが買ってきた子供向きの怖い話を朗読する感じだったが、
その話だけは『体験した話だ。』と前フリがあったからか、鮮明に覚えている。
『これは父ちゃんが体験した話だ。
父ちゃんがバス運転手成りたての頃、先輩に言われたんだ。
“回送中は、絶対にSトンネルを通るな”
その理由はすぐにわかったよ。
ある日、お前らに早く会いたくて近道のSトンネルを通ったんだ。
あそこのトンネルは電気がないから、昼間でも真っ暗。
夜になれば怖さ倍増。
父ちゃんもビクビクしながら通ってたんだが、ちょうど真ん中ぐらい来た時に突然、
ピンポーン
って、バスのチャイムがなったんだ。
怖いやろー??
まだ続くぞー
父ちゃん怖くて、急いでトンネルから出たんだ。
やっとトンネルから抜け出して、安心したと思ったら
ミラーに移ってたんだよ、真っ赤なワンピースを来た女の人が。
怖かったなー。
その話を先輩に話したら、“お前もかー”なんて言うから笑っちゃったよ。
え?怖くなかった??
あぁごめん、ごめん
じゃー次の話…………』
子供に話す話やから、そこまで怖くなかったよな。さぁーせん。
つい最近その話を思い出して、父ちゃんに聞いてみたんだ。
『Sトンネルに、女のオバケの出るっちゅう話覚えとる?』
『赤いワンピースの女の話け?もう最近は出たっちゅう話も聞かんなー。成仏したっちゃろー。』
父の日だし、こんな話もOKかな??笑
いやー…
俺も成長して、捻くれたんやろな。
よくよく考えてみたんよ、その話。
降りてたんだよ。
その女は。
だってボタンを押すのは、降りたいからだろ?
その女は、どこから乗ってたんだろうな。
もし、その女を乗せたまま、その女が降りたい場所を通らなかったら……
その女、乗せたまま?
最近出ないって、もしかして…………
…俺、すこし捻くれたみたいだ。
怖い話投稿:ホラーテラー 罰天さん
作者怖話