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中編3
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単車

あるところに、念願の普通二輪免許を取った若い男がいました。

仮に隆とします。

隆は先に免許を持っている同じ職場の裕樹から一台単車を譲り受けました。

破格の10万円。

隆「いいのか?これ。もっといい値段で売れるんじゃないのか?」

裕樹「いいんだよ。しばらく乗ってなかったし。まずは250ccから、慣らして行けよ。」

同い年だが、バイク歴は3年の裕樹の言うことを聞き、毎晩街の中を走り練習をしていた。

休みが合えばツーリングへ行こうと話をしていた矢先だった。

その日も隆はバイクに跨り、深夜の街を走っていた。

最初は練習のつもりで毎晩走っていたが、最近では運転も慣れ、夜になると走りたくてたまらない。

何より、昼間は常に渋滞する道を自由に走れることの面白さがそうさせていた。

今日は気分を変えて、違う道を走ろう。

隆は抜け道である、狭い路地を左に曲がった。

と、突然ガクン、と車体が大きく揺れエンストを起こした。

何事だろう?!

と少しパニックになりながらセルを回し、エンジンをかける。

幸い、深夜なので後続車はいない。

エンジンはいつもの唸りを上げ、かかった。

隆はほっとしてアクセルを回す。

が、またガクン、と車体が揺れエンストしてしまう。

いくら、焦っているからといっても、今更発進が出来ないほど素人ではないのだが、何度やってもクラッチが繋がらずエンストを起こしてしまう。

後続車はいない。

再度確認したサイドミラーに一瞬、何かが映った。

戦慄が走る。

それは後輪をがっちりと掴んで離さない、初老の男性だった。

割れた頭からは血が溢れている。

「見つけた見つけた見つけた見つけた…」

低い声で何度もつぶやく。

「ひぃ!!」

声にならない声をあげ、隆はめいっぱいアクセルを回した。

瞬間、車体はふっと軽くなり発進した。

…ものすごい勢いで。

その時、左から丁度来た車と接触し、隆はバイクごと道路脇に投げ出された。

気づいたら、隆は病院のベットの上だった。

幸い一命はとりとめたものの、あばらや、腕の骨を折る大けがをした。もちろんバイクはおしゃかだ。

見舞いに来た裕樹はその事故の話を聞いた途端、急にそわそわし出した。

「そうか、そんなことが…あの場所で…」

爪を噛み、なにやら独り言の様にブツブツ言う。

おかしな奴だな、位にしか思わなかった隆だが、裕樹が帰る間際恐ろしい光景を見る。

「見つけた見つけた見つけた見つけた…」

裕樹の背中をがっちりと掴んで離さない、あの初老の男性を。

今度は口を大きく開けて笑っている。

「裕樹ッ…!!!」

やっと叫ぶが、裕樹は聞こえないのか、振り返らずバイクに乗って帰って行った。

男と共に。

そして、その日裕樹は帰らぬ人となった。

後日、隆はあの交差点で二年前にひき逃げの死亡事故があったことを聞いた。

被害者の男性は轢かれたあと、30メートル引きずられ、発見された時はもう、既に手遅れだったと言う。

深夜の街、目撃者もいなくまだ犯人は捕まっていない。

おそらく、永久に捕まることはないだろう。

怖い話投稿:ホラーテラー 峰子さん  

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