取り敢えず、彼女に肉じゃがを与えてみた。小皿の上にコロリとじゃがいもを置いて差し出す。
『…美味しい』
あああああ…
何だ、死ぬほど満たされた気持ちになる。何で俺を好きになったのかは聞かない。だって『いや、死にたくなかったから咄嗟にあんな言葉出たんですよ』とか、この艶やかな声で言われたらショックだし。
寝るときは、枕元に居させるようにした。
「ねぇ、君の声を聞きながら寝たいから、思い出話とか聞かせてよ」
『ええ、分かったわ…』
彼女の口からは、とにかく食べ物の話と、逃げ回る話ばかり。わりとヘビーな内容で、とても眠れそうにないから、途中で中断させた。彼女は寝る前に一言。
『…おやすみなさい』
そう言ってくれた。
…朝、目が覚めると鼻の上にGが、カサカサ動いてる。
「ぎゃああああああああああああ!?」
『きゃあ』
起き上がり、彼女の悲鳴を聞いてようやく昨日の事を思い出した。
「ごめん、驚かせて」
『良いのよ。それより、時間大丈夫?』
こんな風に、しばらく俺たちは上手くやってきた。
ある日…
いつも通り彼女と食事。幸せそうに美味しい美味しいと言う彼女。ふと、彼女の嫌がる声を聞きたくなってきた。
軽く指先で、彼女の身体をつついてみる。
『…やめてください』
…良いね。もっと聞きたい。
俺は、彼女の足を一本プツンと引っ張って取った。
『いやぁあああああ!!』
…堪らない。ゾクゾクする。艶やかな悲鳴。誰かに聞かせたい。
俺は彼女が逃げ出さないように籠の中に入れ、友人を電話で呼び出した。
「いいもの見つけたんだ…ほら、このゴキブリなんだけどさ、人間の言葉話すんだよ。しかも良い声でさ」
ブチブチと足を引っ張り、彼女の悲鳴を聞き続ける俺を見て、友人は青い顔をすると、そのまま出ていった。
彼女の足は全てなくなった。もう歩けない。
「…そういう夢見たんだよ、アンタの。最後精神病院送られてねぇ。頼むから、早く嫁さん見つけてきてくれ」
久しぶりに、実家の母からの電話。かなり気分が悪い内容を聞かされた。
「何て言う夢見てるんだよ」
そのまま、ガチャリと電話を切る。本当に、何て言う夢だよ…
『どうしたの?貴方』
…こんな可愛いらしい彼女を、虐める訳ないじゃないか。
「…何でもないよ」
今日も、Gと俺は仲良く夕飯を食べる。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話