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中編3
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相愛の硬貨

とある店が在る。

店には曰くに満ちた品が溢れている。

住人は店主と失声の少女、名を凪。

凪はいつか自分の買う品と、店主の語る奇憚に失った物を取り返せると信じている。

そして今日も……

凪は過去のトラウマから、眠れない日が多かった。

何度も寝返りをする凪の側に、店主が静かに腰を降ろした。

店主の手には、硬貨があった。

「眠れないようですね。一つ、お話をしましょうか」

キラキラと光る硬貨を見つめながら、凪は嬉しそうに頷いた。

「これは……」

凪の大好きな時が始まった……

持ち主は22歳の女。

女には、ある能力があった。

それは二択の物は必ず結果が読めた。

外した事はなかった。

ギャンブルに能力を使ってはならないという母親の遺言を頑なに守った。

女には恋人がいた。

天涯孤独の自分にとって唯一の存在。

一つだけ気に入らなかったのは、男はヤクザである事。

それだけは好きになれなかった。

男は優しかった。

孤独な自分を温かく包み込んでくれる。

声を聞くだけで優しい気持ちが溢れた。

一緒に居るだけで楽しかった。

男が決めた二人の決まり事。

揉めたり喧嘩をした時はコインを投げて、表か裏かで決めると約束した。

女には結果が解っていたから、いつも男が外れた。

そうやって外れた方が謝り大きな喧嘩もせず仲良く過ごした。

ある時、男が結婚しようと言った。

嬉しかった。

この世で一番、幸せだと思った。

女は結婚のけじめにヤクザを辞めてくれと言った。

男は恩も義理もあるから無理だと言った。

喧嘩になり、お互いに引かなかった。

やがて、男が諦めたようにコインで決めようと言った。

結果の解っている女が勝った。

男の組抜けは認められなかった。

仕方なく全てを捨てて逃げる事にした。

女には、逃げながらの生活でさえ幸せだった。

このままでも十分に満たされていた。

永遠に幸せが続けと願った。

願いは打ち砕かれ、ヤクザに見つかり捕まった。

二人を捕まえたヤクザはサディストだった。

二人のうち一人は助けてやる、どっちが死ぬか決めろと言った。

ニヤニヤと口を歪ませるヤクザに殺意が湧いた。

決められる訳がなかった。

お互いが自分が死ぬと言った。

愛する者が居なければ生きてる意味がない。

お互いに譲らなかった。

ヤクザが苛立ったように早くしろと急かした。

涙が流れ何かを決意したような顔で、男がコインで決めようと言った。

女は絶望の中で嬉しさが溢れた。

自分には、表か裏か解る。

男を助けられる。

良かった……

コインが投げられた。

回転し、男が手の平と甲で受け止める。

いつもは勝つ方を見ればいいが、今は負ける方を見ればいい。

簡単だ、いつもと逆にするだけ。

結果が見えた。

いつも見ている絵柄が見える。

女は愛してると心の中で呟き表だと言った。

結果は表だった。

男は笑った。

女は意味が解らなかった。

ヤクザが男の頭を銃で撃ち抜いた。

絶望が胸を満たし、心にぽっかり穴が空いた気がした。

涙で霞む目でコインを見た瞬間に、今までの事が頭を駆け巡った。

全部、解っていたんだ……いつも男が負けていた事……

自分の能力の事……

最後の笑顔の意味……

ヤクザは約束を守らなかった。

口を嘲笑の形に歪め、女の頭を撃ち抜いた。

女の手から零れ落ちたコインは両方……

「お互いが、お互いの事を考え出た結果の意味。私は二人の事を想うと誇らしげな気持ちになります」

凪には少しだけ難しく、首を傾げた。

「そうですね、簡単に言うと貴方が御両親を思う気持ちと同じですよ」

凪の頭に、幸せな記憶が溢れて決壊し口から溢れた。

「おか……さん。お……とう……」

凪は泣き続け、いつしか疲れ目を閉じた。

怖い話投稿:ホラーテラー 月凪さん  

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