とある店が在る。
店には曰くに満ちた品が溢れている。
住人は店主と失声の少女、名を凪。
凪はいつか自分の買う品と、店主の語る奇憚に失った物を取り返せると信じている。
そして今日も……
風変わりな人形が棚に並んでいた。
その人形の頭には髪が無く、悲しげな雰囲気に凪は興味を抱いた。
「……」
凪は、人形と店主を交互に見つめる。
声は出なくとも、店主には必ず伝わった。
「その人形は、以前もこの店に在りました。この店に来るのは二度目です。また戻ってきたんです。それは……」
凪の大好きな時が始まった……
人形は愛されたかった。
最初の持ち主には愛され無かった。
気を引く為に髪を伸ばしたが、持ち主が死に無駄に終わった。
そして、店に流れて来た。
二番目の持ち主の女の子は人形を愛した。
髪の伸びる人形を不思議で羨ましいと言い、可愛がった。
自分の一番の友達、それから家族とも言った。
人形は嬉しかった。
求めていた幸せに満たされた。
髪の伸びる人形を、羨ましいと言うのには理由が在った。
それは、女の子は病に侵されていたという事。
薬の副作用で少しずつ髪が抜けていく。
髪が減っていく度に、女の子は衰弱していった。
やがて最後の時が来た。
人形は怖かった。
女の子が自分を構ってくれず、やっと手に入った幸せが壊れて行く事が。
人形は必死に考えた。
女の子はどうして動かない……?
嫌われた……?
そうだ、確か羨ましいと言っていた……
じゃあ……
息を引き取った女の子の枕元には、何かの髪が大量に落ちていた……
「人形は病とは知らず、嫉妬から嫌われたと勘違いをしたんですよ。自分の髪をあげれば、また愛してくれると」
凪の目に、人形がとても可哀想に映った。
「愛されたい一心で、自分の髪を差し出した人形。望みは叶わず、このような姿になった人形が不憫でなりません」
人形の為にと鋏を探し始めた凪を、店主は微笑みを浮かべながら止めた。
怖い話投稿:ホラーテラー 月凪さん
作者怖話