会社の近くにYメディカルセンターという病院があります。
場所は都内の一等地。大きな通りに面したビルです。通りから見える一階のフロアの内装はまるでホテルのようで、病院なのは間違いないですが、余り病院には見えません。
セレブの為の病院なんだと思います。
その病院の通りを挟んで反対側にコンビニがあるので、しょっちゅう私はその付近を通っています。
2ヶ月くらい前、コンビニで買い物をして会社に戻る為に信号待ちをしていました。
通りの反対側にYメディカルセンターがあります。いつもの光景でした。
信号待ちをしながら「今日も暑いな〜」とカンカンに照り付ける日差しを恨めしく見上げました。
見上げた瞬間ゾクッと悪寒が走りました。
Yメディカルセンターの3階あたり…顔を上げればすぐに目につく高さに真っ白なナース服を着た看護婦がいました。
Yメディカルセンターは前面がガラス張りになっています。病室だからか、全てが厚手のカーテンに遮れており中の様子は見えません。
その看護婦はカーテンの内側から、通りのほうを向いていました。
病室から見ればカーテンの裏側にいることになります。
どう考えても異様な光景でした。
看護婦はただ立っているだけでした。その視線は何処か遠くを見つめていて微動だにしません。
顔色は妙に茶色く見えました。目鼻立ちは遠いのもあってか、余りよく見えませんでした。
暫く見つめてしまいました。異様だとは思いましたが、あまりにハッキリと見えていたので、幽霊だとは思いませんでした。
ただ段々と何か見てはいけないものを見てしまったという胸騒ぎがして、視線をそらしました。
しかし気になって、またすぐに視線を戻しました。
看護婦はいませんでした。
カーテンの裏から出たのなら、カーテンは多少揺れるはずだと思ったのですが…全く揺れていませんでした。
信号が青に変わり、周囲が信号を渡り始めるなか、私はYメディカルセンターを見上げたまま暫く硬直してしまいました。
結局その日は「まぁ目を離した隙に、サッと移動したんだろう」と無理矢理自分を納得させました。
その日以後、その病院を多少意識する様になりました。
しかし気づいた時に見上げてみても、その看護婦の姿はなく私は次第にそのことを忘れていきました。
ところが忘れた頃に私はまたその看護婦を目撃してしまいました。
時間は21時くらいだったと思います。その日、私は夕飯を会社で食べようと弁当を買いにコンビニにいきました。
信号を待ちながらなんとなく空を仰いだ時、前回と同じ場所に看護婦がいました。
今度は頭を窓に突っ伏すような格好で立ち、その状態で頭だけを左右にゆっくり振っていました。
夜でも人通りは多い通りです。私は周囲を見て、自分の他に看護婦の存在に気づいている人がいないか確認しました。
皆、上は見ていませんでした。ただ街路樹にとまっていたカラスが異様に鳴いていました。
視線を正面に戻すと信号が青になりました。前に進むと同時に私は看護婦の方に視線をやりました。
見上げた瞬間に背中の毛穴が全て開いたようなゾワッとした感覚に襲われました。
看護婦と視線が合いました。白目と黒目の区別がつきません…目の中に赤黒い液体がたまっていました。
看護師は窓に額を押し当てるような格好で私の方を見ていました。
看護師は瞬きせずに私を見つめながら、口をパクパクさせていました。
看護婦の目から赤黒い液体が溢れて、涙のように流れました。
「私じゃない…私じゃない…」
感覚的には後ろからでした。女が私の真後ろから、低い声でそう言った気がしたのです。
私はすぐに後ろを振り返りました。
誰もいません。
信号が点滅し始めました。
バクバクする心臓を抑えつつ、一先ず小走りで信号を渡りました。
信号を渡ってから、上を見上げました。看護婦はいませんでした。
カーテンはやはり揺れていません。
今でも怖くて仕方ありませんが、今のところ特に悪い事は起きていません。
なるべく最近は通らないようにしていますが、今後もあの道を通らなければならないと思います。
少なくとも、上はもう絶対に見ません。
怖い話投稿:ホラーテラー Ssさん
作者怖話