「・・・突き当たりの・・T字を・・・右に行けば・海に出ます・・・」
蚊の鳴くような、細い声でゆっくりと、ぽつりぽつり返答が返ってきた。
怖い。
話し方が、怖い。
声が、怖い。
彼女の口が妙に怖い。
そして、この時やっと私は彼女がここにいる事に対して不信に思う。
車は、まったく通っていない。
民家も無ければ、自販機も無い。
彼女は、手ぶらだ。
時間は、既に11時半頃。
女性が一人で歩いている。
この現状に何か理由が欲しいと思ったのかもしれない。
彼女は、体が透けてないから、お化けや幽霊じゃない。
(私は、幽霊は体が透けて見えるモノという先入観がありました。
)ゆえに、彼女はレイプされて、車から捨てられたんだ。
というストーリーを考えた。
しかし、彼女の髪や服装は乱れていない。
そうだ、彼女は彼氏とケンカして、そいつは酷いヤツで彼女を置き去りにした。
道を知っている事を考えると、この先しばらく行った所に彼女の家があるはずだ。
そうだ、きっとそうに違いない。
だから、落ち込んでいる彼女は暗いんだ。
私は、彼女にとりあえず、
「大丈夫ですか?」
と声を掛けた。
また、すぐに返答が帰ってこない。
振り返ると、Yの自転車が、ゆっくりと進みだしていた。
彼女の口が、またゆっくりと開く。
「・・・右です。
・・・右に行って下さい。
・・・右。
」
その瞬間、
「ひぃぃっ!」
Yの引きつるような声が聞こえた。
そして、急にYの自転車が加速した。
私は、慌てて彼女に大声で礼を言い、全力で走るYを追いかけた。
ふと、後ろが気になり振り返った。
50m程後方にいる彼女は、微笑んでいるように見えた。
私は、なぜか彼女の微笑みを見て安心し、心を落ち着かせる事ができた。
私は、「ありがとう」の意味を込め彼女に大きく手を振った。
Yは、遥か前方を走っていた。
きっと、Yは彼女を幽霊だと思い込んでいるんだと思うと、Yの肝の小ささに笑えてきた。
Yの臆病さを馬鹿にしてやろうと、全力で追いかけたが、なかなか差が縮まらない。
10分ほど走ると、Yはスピードを落としたのか、もう少しで追いつけそうになった。
Yの前方を見ると、彼女が言っていたT字路が見えた。
T字は、右が下り坂で、左は上り坂だった。
正面に看板があり、左に曲がるとゴルフ場があるようだ。
3mほど前方を走るYに私は、
「そこを右だぞ!右!!」
と声を掛けると、Yは振り向かずに、
何も無い?
私も振り向いたまま、自転車は坂道を下り始める。
T字の街灯の光に何かが入って左の方へ抜けた。
何? 靄? 影? プレデター?・・・判らない。
なんだか判らない。
イノシシのようなモノの形で光を遮り、その形で空気が歪む。
そして、それは、滑るように左折して坂道を登って行った。
見えたのは、ほんの一瞬。
私も全力で自転車を漕いだ。
怖い!怖い!怖い!ついに見た!初めて霊(?)を見た!Yが見たのは、これだったと理解した。
Yには、私が彼女と会話している時から、彼女の側らにいるアレが、はっきりと見えていたのだ。
あれは、彼女に取り付いていたモノだったのか?だから、彼女は暗く、言動がおかしかったのか?一気に今までの事を理解した気になった。
体が震えてる。
その時、急にペダルが軽くなった。
目の前に、広い道路と交差する十字路が見えた。
交差点にラブホテルの看板があった。
“左折1km”。
Yが怒ったような声で私を大声で呼んだ。
「おい!今日はラブホに泊まるぞ!絶対に泊まるぞ!」
続きます
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話