父親を殺した。
強姦されそうになって。上からのし掛かられ、暴れた後枕元にあった灰皿で頭を殴った。当時6歳だった。
あれから数十年。私はチューブに繋がれて病院のベッドに横になっている。末期ガンを診断され、ああもう死ぬんだなと思う。
孫にも囲まれ息子娘も良い子に育ち、先に逝った旦那も真面目な人だった。もうすぐ旦那と会える…でも死を目前にしてふっと考えた。
私は死んだらどこに逝くんだろう…
人を殺した人は、反省すれば天国に逝くと聞く。でも私は全く反省出来ない。父が憎くて仕方なかったから。警察からも処分を受けなかった。
地獄に逝きたくないから懺悔する…そんな事しか考えられない。そう考えていると意識が遠退いた…
目が覚めると、昔の家に居た。私は6歳当時の姿になっていた。まだ母もいる頃…あの事件以来ショックで首を吊った母。会えて嬉しくて抱きついた。優しい頬笑みに癒される。紙風船、あやとりにおてだま…一緒に沢山遊んだ。
「お母さん」
「何?」
「大好き…」
また意識が消え、目が覚めると三途の川の浅瀬にいた。なんとくここがそうなのだと分かった。ただこの川は沼の様に赤く、ドロドロしている。何となく普通の道ではないと感じた。5歩進んだところでまた意識を失った。
目が覚めると母が耳掻きをしてくれた。奥の痒い場所も優しくかいてくれる。嬉しくて目を細めた。
夕飯はゼンマイとワラビのおひたし。ああこの味だ…懐かしい。そう思うと涙が出た。
また意識が飛び、三途の川で目が覚めた。5歩進むと昔に戻る。それを繰り返した。
何と長い川なのかと思う。
でも川は次第に向こう岸に近づいた。そしてとうとう着いてしまった…
巨大な地獄の門が見えた。恐ろしい顔の閻魔様や奥には釜に茹でられている人が見えた。中には昔見た芸能人や政治家もいた。あああの人達はここに着いたんだ…漠然と考えてた。
「…私は地獄に行きですか?」
「そうだ。罪を犯したから」
「でもあれはちょっと釈然としません」
「正直裁くのは難しい…最近増えてるから。だからせめて地獄に行く前に良い夢を見させた。お前の母親もこっちにいる」
自殺した物は地獄に逝くと聞いた事がある。本当なんだ…優しい母が地獄に…卒倒しそう。そして私も地獄に今から逝く。永遠に苦しみ、焼かれ呼吸も出来ず汚物を食べさせられ…想像しただけでその場にしゃがみ込んで失禁してしまった。
「…辛いならまた三途の川を戻れば良い」
「…えっ?」
「また夢がみられる。ただ忘れるな。悪魔でもそれは夢だ。お前が最後辿り着くのは結局地獄だよ」
私は走った。三途の川に。5歩戻ると懐かしい母の笑顔が。
「…お母さん」
今日も私は三途の川を往復している。その時が来るまで…何度も何度も
怖い話投稿:ホラーテラー 家さん
作者怖話