作曲家の友人がいた。人気で実力を測るとすれば、二流にもなれない、そんなやつ。
でも俺は好きだったなあ。彼のブログは数年前で更新が止まっている。
事の発端は、彼がある曲を書いた後。これの数フレーズが、中南米で活動するバンドの曲と酷似していた。
素人は音楽のなんたるかを理解してない。世界のどこかの作曲家がいいと思って書いたものを、他の作曲家もいいとおもってつくってしまうなんて当たり前の話なんだ。
意図的に文化交流の少ない国の作曲家の曲をパクってる連中もいるから、偶然の産物も故意の犯罪にみえたんだろうとは思う。見分けがつかないからな。
彼のブログで自称音楽の専門家が言った。
「音符の組み合わせは無限大にある。ここまで似るのはパクリ以外ありえない」
いいや、違う。いいフレーズは有限で、しかもオリジナルの余地は僅少。似ている曲が世界中のどこにあってもおかしくない時代。
音楽学校にいきゃ、このくらいはまっさきに教わる。それだけ人間が音楽を愛してきた歴史が長いんだ。
「証拠はあがってんだよ。氏ね」
知らないことは時に罪となる。
ある日彼と出会うとこう言った。
「頭の中で楽器の音を再現すると割れるように痛くなる」
そのしばらく後に出会った時にはがりがりにやせていた。
「一曲書くたびに似た曲がありはしないかと怯えて発表が出来ない」
そして次に会った時、彼は物言わぬ躯となっていた。自殺だった。
これは間接的な殺人だ。けれど、報道はこの遺言のために自粛された。
「どうか、死に追いやった人達を責めないで。彼らは音楽に対して恋をしている。初恋の拙さを思い出して欲しい。夢を見すぎていて、現実が見えていない。私も彼らと同じ傾向があった。彼らの指摘から気付かされました。完全オリジナル、完全オリジナル、完全オリジナル。夢を追い求めて悩み、そして死ぬだけです。何を書いてもどこかの曲に似ている。もう耐えられません」
この遺言の最後に記されてたのはこんなかんじだったか。
“オリジナル。まるで底なし沼だ。
記憶容量は有限。時間も有限。
全能の神にしか、確認はできない。
人の身で挑戦。無力を思い知らされる。
人の身で傲慢。驕りの代償は絶望。
オリジナル。まるで呪いの言葉”
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話