借金で首が回らなくなり首をくくろうとしている男が一人。
その男に「待ちなさい」と呼び止める痩せこけて汚い竹の杖を突いた爺さん。
名を「死神」と名乗る。
呆然としている男に爺さんが言うには
「おまえはまだ寿命があるんだから、死のうとしても死ねねえ」
「そうは言っても生きてく金も無い男に、死ぬことすら許さないとは死神さんと言えど殺生だ」という男に、死神は
「それならお前の言う金はこうして稼げばいい。
長わずらいをしている人間には必ずおれがついている。
足元にいる時は手を二つ打って
『テケレッツノパ』
と唱えれば病人は助かるが、枕元の時は寿命が尽きていてダメだ。
寿命に逆らわなければ、お前は自分の寿命のための金を手に入れられるって寸法さ」
という。
脈の取り方すら知らないが、半信半疑で医者の看板を出したところ、間もなく日本橋の豪商から使いが来た。
行ってみると果たして、病人の足元に死神。
「しめた」と、教えられた通りにすると、病人はケロりと全快。
これが評判を呼び、神のような名医というのでたちまち左ウチワとなりました。
しかし「悪銭身につかず」という通り、元々遊びで借金を作るような男ですから、どんなに金があっても全部使っちまう。
そんなある日、麹町の伊勢屋宅からの頼みで出かけてみると、死神は枕元。
しかし、患者は「助けていただければ一万両差し上げる」と言ってくる。
そう聞いて男は目がくらみ、一計を案じる。
死神が居眠りしているすきに蒲団をくるりと反回転。
これで死神は足元へって寸法でございます。
呪文を唱えると、なんと死すべき病人が生き返った。
一万両を持った帰り道、金の使い道を考えながら男が浮かれ歩いていると、路地の暗がりに死神の爺さんが立っているではありませんか。
男は死神を見た途端、すっと気を失ってしまい、気がつくと無数のローソクが照らす暗い部屋におりました。
「見えるかい。このローソクは全部人の寿命だ。
おまえさんは人の寿命に逆らっちまったね。そらご覧、お前のローソクはあの病人のと入れ変わっちまったよ」
指差す先には今にも燃え尽きようとするローソク。
男は慌ててローソクに駆け寄り、手のひらで炎を包みながら
「アァ、消える……消える……消える……消える……消える……消える……消え……」
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話