コツ コツ コツ‥!
段々と足音が近づいて来る。
俺「俺達以外、誰かここにいるのか?」
B「わかんねぇ。でも足音からすると一人だろ。一人でこんな所にこんな時間来るか?」
A「じゃあなんなんだよ。誰だよ?とりあえず懐中電灯消した方がよくねぇか。」
俺達は小声でそんなやりとりをして、その足音の主を確認する必要があった。
“それ”は手術室の前を今、歩いている。足音がすぐ側で聞こえ、遠ざかっていった。
通り過ぎたのだろう。
恐る恐る、俺達は覗き見た。
3人ともその姿を見て驚愕した。
女だった。
髪の長い女。
ナース服を着ている女だ。
月明かりに照らされてわかる。
俺達との距離は約6mくらいだろうか。
俺は直感的にヤバい、と悟った。
何がヤバいって、その女の身体だ。
両腕は変な方向に折れ曲がり、片足も明らかに骨折している様に、膝が反対側を向いて曲がっていて、まるでゾンビのような‥かなり不気味な歩き方をしていた。
よく見ると、衣服もボロボロだ。
そして手には、注射器が握られていたのだ。
なんでこの時間、この場所に?
あの身体は‥この女なんなんだ?
鳥肌がハンパじゃない。
その姿を見たAが「ヒッ‥」と小さく漏らし、それを聞いた俺は驚いて懐中電灯を落としてしまった。
ゴトンッ‥!
落下した音が廊下に響き渡る。
すると女はピタッと歩みを止め、ゆっくりとこちらに振り返った。
その顔はボコボコ‥というかグチャグチャで、なのに何故か目はらんらんと変な光を帯びて、大きくひんむいており、あまりの恐怖に俺達は凍りついた。
俺達と目が合うと、そいつはニヤーッと笑い目を細め、「アァァアァ‥」とうめきながら、俺達の方へ向かってきた。
「逃げろっっ!!」
誰が声を発したかわからないが、とにかく俺達は出口を目指して走った。
懐中電灯の光だけが頼りだが、この暗闇だ、出口がわからない。
完全に迷ってしまった。
後ろを見ると、女は走ろうとしているのか、曲がった足を引きずりながら追い掛けてくる。
‥捕まったら絶対にヤバいッ‥!
A「なんなんだよあれ!?なんだよあの注射器はよ!?」
俺「知るかよ!洒落になんねぇ‥とにかくここを出ないと‥!」
B「やべぇよ‥!大体あの顔‥生きてる人間の顔じゃねぇぞ!とにかく階段下りて、一階のロビーまで戻んねぇと!」
俺達の長い夜はこれからだった‥
俺達はとにかく走り、階段を下りて出口を目指した。
後ろを見ると女はいなかった。
あの足だ、うまくまけたか。
A「なぁ、こっちであってんのか!?間違えじゃ済まねぇぞ!?」
B「うるせぇな、わかってるよ!」
俺達は完全にパニック状態だった。
この状況じゃあ無理もないだろう。
だが、廊下の曲がり角を曲がったその時、懐中電灯に照らされ、女が佇んでいた。
「アァァアァ‥」
「うわぁあぁ!」
俺達は急ブレーキをかけ、慌てて反対方向へと走った。
なぜあそこにいたんだ!?
出口は恐らく、あの女の方向だ。
俺「畜生!どうすりゃいいんだ!このままじゃ捕まっちまうぞ!」
A「この先を走ったって出口から遠ざかるだけだ‥!こうなりゃあいつの横をすり抜けて行くしかねぇぞ。俺達の行く道全て塞いでくるだろうしな、キリねぇって!」
俺「絶対無理だろそんなん‥あれ‥Bは?おい、Bがいねぇぞ!?」
A「嘘だろ!?おいB!B!‥まさか‥さっきの曲がり角でコケたか何かして捕まったをじゃ‥」
俺「やべぇ!A、戻るぞ!」
俺とAは曲がり角まで急いで戻った。
走りっぱなしで息するのも辛い。
汗でシャツはぐっしょりだ。
戻り、廊下の先を照らすと、Bがあの女に引きずられていた。
暗闇に包まれた廊下の先へ、ゆっくり‥ゆっくりと。
Bをどこに連れてく気なんだ‥!
恐怖と走り疲れで、足がガクガク笑った。
A「おい、B!」
俺とAは恐怖心を何とか抑え、連れて行かせるか、とBの足を引っ張った。
すると女は、「アァァアァッ!」と叫びながら、俺達に威嚇した。
目は血走り、その顔の恐ろしい事‥!
A「畜生!てめぇ!Bをどこ連れてく気だ!離せこのクソ野郎!」
Aはそう怒鳴って震えながら、二人でBを力一杯引っ張る。
女もすごい力だ。
Bは気を失っているのか、ぐったりとし、身動き一つしなかった。
だが、何とか女の手からBを引き離す事ができ、Bを担ぎながら女の横をすり抜けられた。
女はすごい形相で再び追い掛けてきた。
早くここから出てぇ!
A「あったぞ、ロビーだ!その先に出口があるはずだ!」
最初の受付ロビーに着き、出口の玄関から急いで外に飛び出した。
だが、敷地の外に出るにはフェンスを乗り越えなければならなかった。
俺「くそ‥フェンスがあったんだ!B担いでどうやって上る!?」
後ろからは女が迫っていた。
ヤバい、絶体絶命だ。
このままじゃ奴に捕まる。
A「あそこ見ろ!フェンスの下破けてるぞ!あそこから出よう!」
俺とAはBをその穴から外へなんとか押し込み、俺達も急いで乗り越えた。
気づくと、女はフェンスの目の前だった。
相変わらずすごい形相だ。
「ギャッ」
ガシャンッ!、と女はすごい勢いでフェンスに激突し、「アァァアァ」と呻く。
とにかく俺達は急いで車に飛び乗り、キーを回した。
しかし
A「あれ‥?エンジンがかかんねぇ。なんでだ!?」
俺「冗談じゃねぇぞ!こんな時に勘弁してくれよ!」
A「分かってるよ!あせらすなよ‥あっ‥かかったぞ!」
ブルルン、とエンジンは勢いよくついた。
A「とにかく行くぞ。さすがにここまでは来れないだろうけど、早くここから離れてぇ‥。Bは大丈夫か?」
と言いながらAはライトを点けた。
すると、
ドンッ!
と車の上で大きな音がし、車が大きく揺れた。
俺「うぉっ‥!な‥なんだ!?」
俺は前を見ると驚愕した。
フロントガラスに、あの女が逆さになってへばり付いていた。
目は見開き、髪は乱れ、この世の光景だとは思えなかった。
‥気を失いそうだ。
「うわぁあ!」
Aは車を発信させ、女は車から落ちた。
見向きもせずに公道へ向かってとにかく車を走らせた。
俺達は憔悴しきっていた。
俺「もう‥大丈夫だよな?」
A「そう願いたいな。怪我ないか?」
俺「あぁ‥大丈夫。俺、幽霊初めて見ちまったよ。しかもBを掴んで引きずってたぞ?霊って半透明的なもんじゃねぇの?ありえんのか!?手足おかしかったし‥」
A「じーさんから聞いた話だけど‥怨恨や念が強すぎる霊ってのは、時に激しく襲ってくるらしい。それも具体的に。だから、Bを引きずるくらいの怨念の塊だったのかもな‥。」
俺はBにちらっと目をやると、ギクッとした。
Bの首筋には注射をした様な小さな傷があったから‥。
その後、Bは病院に搬送され、入院した。
何故か面会謝絶で、そしてBは病院の屋上から飛び降り自殺をしてしまったと、Aから聞かされた。
身体中の骨は砕き折れ、酷い死に方だったらしい。
Bは入院中、病室で、「足が痛い、腕が痛い、顔も焼けるように痛い」と、四六時中呻いてたんだと。
医師も首を捻るばかりで、原因不明な症状だったらしい。
俺は思った。
間違いなく、あの女の仕業だと。
終
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話