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中編4
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求人広告

学生時代の気ままな一人暮らしの頃の出来事。

見慣れない求人情報広告が、新聞折り込みに入っていた。

何気なくそのチラシを手に取り、目を通していると、一つの求人記事に引き込まれる感覚を覚える。

実家はそこそこの資産家で、仕送りだけでも生活には事欠かない。

アルバイトをする必要もないのであるが、なぜであろうか…、すぐに応募の電話を掛けていた。

『…ありがとうございます。運送総務課でございます…』

何というのか…、実に淡白な感じで、テープに吹き込んだ音声を再生しているような単調な声だった。

「もしもし。私、と申します。求人の広告を見て、応募希望でお電話したのですが…」

『…………』

数秒待っても返答がない。

間違いなく聞いているはずである。少しだけだが、息遣いが受話器から聞こえる。

間に耐え切れずに応答を促した。

「もしもーし」

『…フフ…。…直接お会いして、お話を伺います。いつでしたら、ご都合がよろしいでしょうか?』

「え?…あぁ…。再来週の金曜にして頂けると、ありがたいのですが…」

『…では、再来週の金曜日。…20日の午後に面接を行いますので、15時にお越しください…。…フフ…フ』

妙な笑い声が終始聞こえていたが、事務所ならば他にも人がいて当然であろう。と、気に止めなかった。

異変は、次の日から起き始めた。

まず感じたものは視線である。

マンションにいても、講義の最中にも、それは感じられた。

常に見張られている感じで、まるで落ち着かない。

数日のちには、無言電話やピンポンダッシュの悪戯に度々合うなど、実害にも見舞われるようになった。

その後も、それらによって精神的にも肉体的にも参っていたのか、体調を崩し微熱が引かなかった。

そして面接前日の19日。

重い体を押して、文具店に履歴書を買いに出かけたとき、高校時代の級友と偶然?再会した。

彼は、普通の人である。

特に霊感があるとか、オカルトに興味があるとかも聞いたことはない。

「おぉ…久しぶり。

ん?

金持ちのくせに履歴書なんか持って…。親父さんの会社潰れたんか?」

「おぉ、久しいの。

あ…あぁ、これ…、何でやろな。急にバイトしたなってな…」

「……お前。ちゃんと寝てるか?目の下、すげぇクマが出来とるぞ…」

「…。最近、調子悪い…。あまり寝れん」

「そか…。あんま無理すんな。で?バイトって何の仕事?」

「運送の仕分け作業らしいけど、詳しい話は明日、面接であるやろ。運送ってとこ」

その話を聞くと、友人の顔は一気に青ざめていった。

ただならぬ様子だったが、こちらも具合が悪く、他人のことに気を回してはいられなかった。

今度、飲みに行く約束を交わし、電話番号を教えて、その場は別れた。

面接当日。

酷い頭痛で目が覚めた…。時間は9時だ。

鏡を見ると酷い顔だった。

目の下が青黒く腫れている。もはや、クマとは言い難い。内出血しているようであった。

とはいえ、面接までに少しでも体調を戻したい。

再び、ベッドに戻った。

しかし、酷い頭痛に追討ちを掛けるかの如く、当時の黒電話のけたたましい着信ベル音が鳴り響く。

また無言電話だろうと、無視を決め込むも、一向に鳴り止まない。

「…もしもし」

なんとか受話器を上げ、声を絞り出した。

受話器は異様に重く感じる…。今にも落としてしまいそうだ。

「良かった!出たか!俺や!」

昨日の友人だった。

間髪入れずに彼は続ける。

「お前、面接行ったら駄目や!…そ…会社…ザザ…いぞ!」

「…は?よく聞こえん」

「ザザ…から…行く…ザ……」

よく分からないまま電話は切れてしまった。

面接に行くな、か…。

確かにこの体調では少し無理がある。

そもそも、バイトをする必要性がないことにも気が付き始めていた。

ほどなくして、友人が駆け付けてくれ、その頃には不思議なくらい体調も快復していた。

彼の話では、運送は20年前に倒産し、既に存在していない。

倒産といっても営業不振などではなく、火災により、従業員と経営者を亡くしてしまったことが原因。と、いうことだった。

彼の父親は彼が幼い頃、そこの従業員で、その火事で亡くなっていた。

私と再会する前の日に、たまたま見たアルバムに当時の親父さんの職場風景を見ていたため、その運送会社の社名を知るに至っていたらしい。

とはいえ、私には信じられない話だ。

すぐに電話帳を取り出してチラシにあった住所を調べてみたのだが、そこはパチンコ屋。

チラシの電話番号は、掛け直してみると使用されてない番号だった。

そして、求人広告を急いで確認すると、発行日は20年前の日付であった。

友人は、焦りを隠せない私を横目に静かに言う。

「実はな…。お前と出合う数日前から、毎日親父が夢に出てきて言うんや。

『友達を助けてやれ』ってな。

今日が親父の命日…。

つまり、火事があったんは20年前の今日や」

彼が帰った後、暫らくは呆然としていた。

もはや、面接に行く気など微塵もないが、現実を受け入れることは難しい…。

そして、約束時間である15時…。

再び静寂を切り裂く電話音がなった。

恐る恐る受話器を耳に当てる。

『…

…運送ですが…』

私は、叩きつける様に受話器を戻した。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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