短編2
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何万分の一の前世

「君は、前世というものを信じるかな」

以前、会社の先輩(仮にNさんとしておこう)から、飲みに誘われた。

そこで唐突に、この質問をぶつけられたのだ。

「え?何ですって?前世?」

私はそういうものは信じないタチであったし、突拍子もない話題だったため、素っ頓狂な声を出してしまった。

詳しい話を聞いてみることにした。

Nさんは、ついこの間、「よく当たる」と評判の占い師のもとへ赴いた。

特に占いを信じる方ではなかったが、たまたま近くを通りかかったので、ついで…であった。

そこで、占い師から嫌なことを聞かされたというのだ。

「僕の前世は、ずっと昔のとある藩の足軽兵だったそうなんだよ…」

先を言いたくなさそうだったが、聞かざるを得ない。

「その足軽は、どうなったんですか?」

Nさんは少しためらってから、呟いた。

「…負け戦で、全滅だったそうだよ。近いうち、同じような状況で死ぬ、とも言われた。

嫌だろう、お客に聞かせる話じゃないよなあ」

あんまりきっぱりと言われたのと、「よく当たる」という噂も相まって、どうも心配になってきたらしい。

傍から見ると、何を心配することがあるだろうか…と思うが、根が真面目で素朴な人だから気になってしまうのだろう。

「心配しすぎですよ。大体、今のこの日本で、戦とか戦争なんてないじゃないですか。

同じ状況なんてできっこないんですよ」

必死になだめていると、Nさんもだんだん元気を取り戻してきたようだ。

酒も手伝って、青ざめていた顔に赤みが戻る。

結局、二人で居酒屋を何件か回り、Nさんは電車で、私はタクシーでめいめい家に帰ったのだった。

翌朝、目が覚めると頭が痛い。そんなに飲んだつもりもなかったが、二日酔いかな…と、

重い体を布団から起こす。

生あくびを噛み殺しながらテレビをつける。緊急ニュースをやっていた。

電車の脱線事故だった。Nさんの利用する電車だった…

現場は未曾有の大惨事であった。誰しも目を背けてしまうほどである。

救助隊や警察が汗だくで右往左往していた。

一人の警官が、救助隊員に現状を聞いてきた。

すると、その隊員は苦虫を噛み潰したような顔で、一言だけ呟いた。

「全滅だよ」

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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