「君は、前世というものを信じるかな」
以前、会社の先輩(仮にNさんとしておこう)から、飲みに誘われた。
そこで唐突に、この質問をぶつけられたのだ。
「え?何ですって?前世?」
私はそういうものは信じないタチであったし、突拍子もない話題だったため、素っ頓狂な声を出してしまった。
詳しい話を聞いてみることにした。
Nさんは、ついこの間、「よく当たる」と評判の占い師のもとへ赴いた。
特に占いを信じる方ではなかったが、たまたま近くを通りかかったので、ついで…であった。
そこで、占い師から嫌なことを聞かされたというのだ。
「僕の前世は、ずっと昔のとある藩の足軽兵だったそうなんだよ…」
先を言いたくなさそうだったが、聞かざるを得ない。
「その足軽は、どうなったんですか?」
Nさんは少しためらってから、呟いた。
「…負け戦で、全滅だったそうだよ。近いうち、同じような状況で死ぬ、とも言われた。
嫌だろう、お客に聞かせる話じゃないよなあ」
あんまりきっぱりと言われたのと、「よく当たる」という噂も相まって、どうも心配になってきたらしい。
傍から見ると、何を心配することがあるだろうか…と思うが、根が真面目で素朴な人だから気になってしまうのだろう。
「心配しすぎですよ。大体、今のこの日本で、戦とか戦争なんてないじゃないですか。
同じ状況なんてできっこないんですよ」
必死になだめていると、Nさんもだんだん元気を取り戻してきたようだ。
酒も手伝って、青ざめていた顔に赤みが戻る。
結局、二人で居酒屋を何件か回り、Nさんは電車で、私はタクシーでめいめい家に帰ったのだった。
翌朝、目が覚めると頭が痛い。そんなに飲んだつもりもなかったが、二日酔いかな…と、
重い体を布団から起こす。
生あくびを噛み殺しながらテレビをつける。緊急ニュースをやっていた。
電車の脱線事故だった。Nさんの利用する電車だった…
現場は未曾有の大惨事であった。誰しも目を背けてしまうほどである。
救助隊や警察が汗だくで右往左往していた。
一人の警官が、救助隊員に現状を聞いてきた。
すると、その隊員は苦虫を噛み潰したような顔で、一言だけ呟いた。
「全滅だよ」
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話