これはちょうど去年の今頃の話しなんですけど……
小学校3年生になる息子に、
「クワガタ捕りに行きたいから連れてって!」
と、せがまれました。
ウチの近所はカブトムシはいっぱい捕れるんですが、何故かクワガタはほとんど捕れないので、
あの晩、夜中に息子と2人で車で出かけることにしたんです。
自宅から車で50分くらい山に入ったところにある山道沿いの森……
特にたくさん捕れると評判なわけではないけれど、車を降りるとクヌギの樹液の匂いがプンと漂ってきて、いかにも虫がたくさんいそうな森でした……
まさか、あんな目にあうなんて思ってもいませんでした………
到着したのは夜中の1時過ぎ、
まず、森の外周沿いの舗装されていない山道を探索です。
外灯を中心に森をぐるっと見て回りましたが、外灯自体の光量があまり強くないためか、さほど虫がよってきた形跡がありません。それでもカブトムシのメスがニ匹とコクワガタのオスが一匹、あとカミキリ一匹いました。
「やっぱり、森に入らないとたくさんは捕れないなぁ」
なんて言うもんですから、怪談好きの割に怖がりな息子は結構ビビっていました。
最近ではめっきり甘えてこなくなった息子が手なんか繋いでくるもんですから、
「ここはお父さんの威厳の見せどころ」
なんて思いながら、森に中に続く、狭い道を二人で入って行きました。
今では激しく後悔しています………
100メートルほど入ったところでしょうか?
持参してきた大きめな懐中電灯で照らされたのは古びて壊れかけという感じの鳥居……
ということは森全体が祠みたいなもんなのかなぁ?
などと思い、内心ビビりながらも子供の手前、平常心を装い森の中心部へ入って行きました。
また100メートルほど進むと、そこで待っていたのは一体のお地蔵さま。
最近手入れがされた様子もなく寂しげな感じでした…。
何となく異様な雰囲気に茫然と立ち竦んでいると、風の影響でしょうか? ふいに森全体が
「ガサ ガサ ガサ ガサッ……」
と木が揺れだしました。
本当に森が騒ぎ出したという感じでした。
その時、お地蔵さんを照らしていた懐中電灯の先になにか白っぽいものが浮かび上がりました。
お地蔵さんの後ろの木と木の間から、怒りの表情をした青白い顔がこちらを睨んでいたんです。
「×△〇◎~△◎×◎~~~!!」
子供と一緒に脱兎のごとく、その場を離れたのは言うまでもありません。
しかし、通ってきた時は気がつかなかったのですが、一か所道が枝分かれしていて
どうやら間違ったほうに分岐してしまったんです。
鳥居が見えてきました…
「やった! 出口だっ!!」
と思い、ダッシュで鳥居をくぐったんですが、そこは思いがけず広場になっていました…
なんと表現したらいいんでしょう…
広場の真ん中にお金持ちの家の庭にあるような大きな石が祀られてあって、周囲に注連縄のようなものが張り巡らされていました。神棚で見るような白いギザギザの紙が所々についていたので、多分注連縄だったんだと思います。
それよりも異様だったのは、周囲の木々に藁で出来た人形が数体、釘で打ち付けてあったことです。
(特にお札みたいなものはものはなかったと思います)
またしても森が騒ぎ出しました。
まるで雑踏の中に身を置いているかのような騒々しさでした…。
「イヒッ、イヒッ、イーヒッ、ヒッ、ヒッ…」
うまく表現できませんが、言葉にすると本当にこんな感じでした。
となりで震えていた息子が突然笑い出したのです。
いや、震えているというよりも痙攣しているような感じで、叫びながら引き攣っていたのかも知れません。
騒ぎ出した森の木々の間から無数の顔が浮かび上がります。
どの顔も怒りに満ちた表情です。
無断で森の眠りを妨げた闖入者を咎めるように……
またもやダッシュで逃走、今度は運よく道を間違えることなく、最初の鳥居を通過、車の中に逃げ込みました。
「イヒッ、イヒッ、イーヒッ、ヒッ、ヒッ…」
息子はまだ痙攣を続けています。
すると今度は、霧のようなものが車を包みこみました。
車の四方の窓から、怒りの顔が無数に浮かびます。
無我夢中で車を発進させたところで自分自身の記憶がとんでいます。
気がついたら、その森がある山に侵入する入口の所にポツンとあるコンビニの前で、赤信号で停車していました。
息子はあのまま気絶したのか、眠っているのか静かになっていました。
シートベルト未装着の警告音が車内に鳴り響いていました。
翌日、息子に聞いたところ、広場に逃げ込んだ後の記憶がないそうです。
車についたたくさんの手形を洗い流し、もう忘れようと心に決めました。
あんな怖い思いはこりごりです。
もう勘弁して下さい…
ところが、次の夜から時々、息子の奇行が目立つようになったんです。
まず、夜中にムクッと起き上がって、
「イヒッ、イヒッ、イーヒッ、ヒッ、ヒッ…」
あの時の引き攣ったような笑いを発したあと、崩れ落ちるようにして眠ることが度々ありました。
理由を知らない家内は訝しがっていましたが、まさかそんな目にあったなんて言いだせずに、
内心怯えながらも黙っていました……
またある日、夜中に突然息子が、
「イタイ、イタイ、イタイ、イタイ…」
と叫びだした事がありました。
原因不明で両腕を骨折していました……
それでも、少しずつ夜中の奇行は頻度が少なくなっていき、息子の骨折も癒え、
最近では夜中に目を覚ますこともほぼなくなりました。
悪夢のような思い出はやっと終わったんだなぁと安心していました。
昨晩のことです。
「イヒッ、イヒッ、イーヒッ、ヒッ、ヒッ……」
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話