小学生の時の話
俺は田舎のばぁちゃんに連れられて、山の中湧き水を飲みに来ていた
獣道に入って一時間。ようやく湧き水の場所にたどり着いた
喉はカラカラだ。俺は持ってきたコップに湧き水を入れると一気に飲み干した
「うまいか?」
ばぁちゃんは俺にそう聞いてきた
不味い……俺は心の中で呟く。水の味なんてわからない俺だが、この水は明らかに不味い。というか苦い
正直に言っても良いのだろうか……俺が決めかねていると、ばぁちゃんもその水を一口飲んだ
「不味い。ほらお前も正直にゆうてみぃ。不味いじゃろ?」
俺は正直に答えた
「そうかそうか。よかったのぉ」
ばぁちゃんはそう言うと、昔話を聞かせてくれた
昔、このあたりには山賊がいた。10人ほどの小規模なものだが、村の者では歯が立たなかった
村を荒らし回る山賊に、村の人たちは長い間苦しめられた
ある日、村の者が集まる集会の場で一人の青年が夢を見たと言い出した
夢に出てきたのは大きな獣。その獣は猿のように見え、また山犬のようでもあった
獣は青年にこう言った
『山の中で湧き水を見つけろ。見つけたらその水で酒を作れ。そして山賊に振る舞え。そうすればお前たちの望みは叶う』
村の人たちは口々に山の神だと言い出した
翌朝、総出で湧き水を探しだし酒を作った
村人たちは酒が出来るまでの間、山賊の悪行に必死で耐え続けた
時はたち、ついにその日がやって来た
「美味い酒が出来た」「今日は祭りだ」そう言って山賊を村に連れてきた
村人は酒と豪華な料理で山賊をもてなした
山賊たちは酒が気に入ったようで、徳利は次々と空になっていく
山賊たちがあまりにも美味そうに呑むので、試しに村人も呑んでみた
だが、不味くて飲めたものではない
山賊たちは酒を全て飲み干すと、一人、また一人とそのまま眠りについていった
村人たちにも、これからどうなるのかはわからない
村人たちは山賊が寝入ったのを確認するとその場を離れた
翌朝、山賊が寝ている屋敷を確認しにいく村人たち
屋敷内には悲惨な光景が拡がっていた。山賊たちはみな、腹を割かれて死んでいる
死体はどれも腹の中から割かれているようだった
屋敷の中は飛び散った臓物と血で真っ赤に染まっている
それを見て、村人たちは歓喜の声を上げた
その夜、火を放った屋敷の周りで村人たちにとって本当の祭りが始まった
「それからなぁこの水は美味かったら毒、不味かったら健康になるって言われとるんよ」
ビビりまくりの俺は「不味くて良かった……」心底そう思った
大人になり、この話を思い出してみると、疑問な点が幾つかある
夢に出てきた獣をなぜ山神だと信じたのか?
途中で酒を呑んでみた村人は頭おかしいんじゃないのか?
毒はわかるが、なぜ健康にもなるのと伝わっているのか?
そもそも小学生にする話じゃない気がする……
こういう話の元を考えてみると、実際は酔っ払って寝ている山賊を村人がその手で……
まぁ湧き水のおかげかどうかはわからないが、ばぁちゃん御年88歳。未だに畑に出て農作業が出来るほど元気だ
ちなみにあの湧き水を飲む勇気が今の俺にはない……
怖い話投稿:ホラーテラー Mさん
作者怖話