隣の部屋が騒がしい。
また始まった。
いつもの夫婦喧嘩だ。
俺がこのアパートに引越して来る前から続いている喧嘩のようだが、最近ではさらに酷くなってきている。
なんといっても安いアパート。
壁は薄く、隣の住人の声はうるさいくらい響く。
そして今日もまた、隣の喧嘩が始まった。
あまりにうるさいので、この頃ストレスを感じる。
今日は我慢しよう。
明日また喧嘩が始まったら、注意しに行こう。
そう自分に言い聞かせ、今日は寝る事にした。
次の日の夜、いつものように仕事が終わり、自分の部屋に着いた。
ご飯を食べて、お風呂に入る。
と、入浴中にある事に気が付く。
隣が静かなのだ。
いつもなら既に喧嘩が始まっているのに。
仲直りでもしたのか?
俺はそう考えていた。
その日から隣の喧嘩はピタリと止んだ。
だが、それと同時に話し声もしなくなった。
おかしいな〜。
仲直りしたのなら笑い声くらい聞こえてきてもいいのに。
少し気持ち悪かった。
そんなある日。
仕事から帰った俺は、アパートの前で、いつも夫と喧嘩していた隣の奥さんにたまたま会った。
手にはバスタオルが握られている。
「こんばんは。お風呂に行かれるんですか?」
「え…ええはい。今から近くのお風呂に行こうと思いまして」
「そうですか。お気を付けて」
「ありがとうございます。では」
そういって奥さんは歩いていった。
俺は少しおかしいと感じた。
お風呂なら各部屋にあるはずなのに。
でもまあ、たまにはどっかにお風呂に行く事だってあるか。
俺は自分の考えがおかしく思えた。
だが、もうひとつ疑問が浮かんだ。
なぜ奥さん一人で?
夫が一緒にいてもおかしくないはずだ。
考え過ぎか。
他人の事だしどうでもいい。
俺は部屋に帰ってその日も寝た。
それから妙な事が続いた。
仕事から帰って来ると、よく奥さんに会うようになったのだ。
しかも必ずバスタオルを手にしている。
お風呂は部屋にあるはずなのに。
やっぱりおかしい。
そして夫を最近見なくなった。
奥さんはこれだけ見るのに。
また、数日前からアパートの周辺が臭い始めたのだ。
なんともいえない臭い。
生ものでも腐っているのかと思った。
なぜかいつも喧嘩していた住人の部屋の前が異常に臭う。
だが俺には臭いがなんのものかわからなかった。
さらに異変は続く。
ある日からピタリと奥さんを見なくなった。
もう10日は見ていない。
気になった俺は隣の部屋のベルを鳴らした。
誰も出ない。
何度鳴らしても同じだ。
この時になってもまだ臭いは続いていた。
むしろ強烈になっていた。
心配になった俺は他の住人と相談し、大家を呼ぶ事に。
大家の家は少し離れていて大変だった。
しかし不在だったので警察を呼んだ。
しばらくして、警官が来て、喧嘩夫婦の部屋のベルを鳴らした。
やはり誰も出ない。
扉には鍵がかかっているようだ。
そこへ帰ってきた大家が通りかかった。
警官は大家に鍵を借りて扉を開け、中に入った。
思わず鼻をつまむ警官。
すごい臭いだ。
外にいる俺でさえ気分が悪くなった。
大家も鼻をつまむ。
どうやら臭いの原因はこの部屋のようだ。
いったい中で何があったんだ?
暗い部屋の奥へと入っていく警官。
その時だった。
「遺体を発見」
警官の声がした。
意味が理解できない俺。
外にいる警官が無線で応援を呼んでいる。
そこで俺は、警官にこの場所から離れるように言われた。
大家は警官にいろいろと質問されている。
しばらくして警察が大勢来て、部屋の中へと入って行った。
俺がこの目で見たのはここまで。
後で大家に詳しい話しを聞いた時には背筋が凍った。
なんとあの部屋の夫は何者かに殺害されていたのだという。
警察は奥さんが犯人だと疑っているという。
凶器は包丁と見られていて、死後かなり経過していたらしく、死体は浴槽でドロドロに腐っていたという。
俺は確信した。
あの奥さんが犯人に違いない。
部屋のお風呂に入れなかったのはきっと、夫の死体があるからだ。
死体をどこかに捨てようにもいい場所が見つからなかったのかもしれない。
突然の失踪から考えても間違いなく奥さんが犯人。
毎日の喧嘩に嫌気がさし、殺害したのだろう。
俺は異常に怖くなった。
そのあとで、俺は引越しをした。
あの事件以来なんだか気持ち悪くて住むのが嫌になったからだ。
今では大きなマンションに住んでいる。
ところで奥さんは現在も行方不明だそうです…
※「本当にあった怖い話」として投稿させて頂きましたが、この話は俺が考えたフィクションですので、実際に起きた話ではありません。あまり深く考えないでくださいm(__)m
怖い話投稿:ホラーテラー 黒猫さん
作者怖話