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中編6
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Yowll Shard City (Infection)

既にウイルスはヨウルシャードの町に蔓延していた。

町の住民の半数以上が感染の症状を訴え、病院は患者で溢れ返り、パンク寸前。

町の至るところに嘔吐する人々の姿が見受けられる…

8/10 AM 9:25

ヨウルシャード西

ヨウルシャード市自然公園

ガンターはヨウルシャード自然公園のパトロール員だ。フォードの4駆に乗り込むと、いつものように公園内のパトロールに出発した。

町で謎の奇病が流行っていることは知っている。

元々、町の郊外に住んでいる彼は奇病騒ぎがあってから町には近付いていない。

(大変なことになったもんだ…)

そんな事を考えながら、ガンターは車を走らせていた。

いつもの巡回ルートを回っていると、気になる物がガンターの目に留まった。

それは真っ白な人形をした何かだった。

木の下に佇むそれは何かを両手で持ち、必死になって食らい付いている。

ガンターは車を停めると、護身用のショットガンを手に車を降りた。

そして、人形の何かに近付いていく…

「…おい?何をしてる!?」

ガンターの呼び掛けに人形の何かが反応した。

それはゆっくりと顔を上げた。

「うぉっお!!」

真っ白な人形の何かは、熊の腕にかじりついていたのだ。それに目や鼻は無く、顔全体の面積を占めているぐらいの大きな口だけが付いている。

熊の鮮血で真っ赤に染まった口を大きく開けたそれは、次の瞬間ガンターに狙いを定めた。

反射的にショットガンのトリガーを引くガンター。

弾丸はそれの右半身に当たった。溢れる紫色の血液。巨大な咆哮を上げ、それはガンター目掛けて走り出す…

「く、来るな!来るなー!!」

ショットガンでそれの動きを抑えながら、何とか車に戻り、慌て鍵を閉め、車を急発進させたガンター。

「こちら森林警備隊ガンター。識別コードAJF623d、大至急応援を頼む!」

「何があった?」

「正体不明の生物を発見、熊を殺して喰らってた。

こちらも襲われそうになった。」

「了解、応援を派遣する。そちらの位置を教えてくれ。」

「自然公園の森林保護区エリアだ、エリア区分コードはD22、頼む、急いでくれ!」

「落ち着け、今ヘリを向かわせた。」

「これが落ち着いて…

……!?やばいっ!!」

ガンターが車のドアミラーに目をやると、さっきの生物が車を追ってきていた…

「奴に追われてる!

このままじゃ殺される!

早く、早く助け…」

…………ガシャンッ!!

「ガンター!?ガンター何があった?応答しろ、」

「ぐあああぁっ!!!!」

「ガンター、ガンター!!」

森林に差し込む夏の日差し、照らし出されたガンターの乗っていた車…

割られた窓ガラスにボコボコにへこんだ車体。

革製の座席にできた血の海、そこに浮かぶガンターの家族の写真…

鳥のさえずりだけが、森林に響いていた。

8/10 AM 2:40

ヨウルシャード警察署

大会議室

モーガン署長の傍らに立つベン捜査官が浮かない表情で話し始めた。

「こんな時間に呼び立てて済まない。と言いたいところだが、事態は非常に深刻だ。一昨日に広がり始めた例の病原菌だが、現在、ヨウルシャード市はその感染者数が膨れ上がりつつある。俗に言うパンデミックというやつだ。

ただの病気ならば、衛生局だけで事足りるが、あいにくこれは特殊な事例になる。これから、この病原菌についての簡単な説明を国防総省所属のバイオハザード対策本部から来たマーティン・コーデック少佐がしてくれる。各自、心して聞くように。」

会議室の壁際にいたスキンヘッドの大男が演説台に上がる。

「私は、マーティン・コーデック。国防総省所属の対バイオハザードチーム30の指揮官、兼医療スタッフでもある。」

「なぁ、バイル。病院行ってあんな看護士が出てきたらやだよな…」

レジダブがバイルに耳打ちした。

バイルは呆れた表情で言葉を返す。

「病人の数が減っていいと思うが?患者の部屋換えも楽そうだ。」

2人の周りに小さな笑いが漏れる。署長がすかさず喝を入れた。

「バイル、レジダブ、真面目に話を聞け!」

マーティン少佐は呆れ顔で再び説明を始める。

「…現在、このヨウルシャード市に蔓延している病原菌、いやウイルスは我々がType6と呼ぶ新種のウイルスだ。感染して温度、湿度、それからまだ未発見の条件。この3条件が揃うと発病する。

ウイルスの危険区分けレベルは、Level5。エボラウイルスよりも危険だと言っておこう…

そして、発病したら最期…ウイルスは身体の各臓器を破壊し、神経系に影響を及ぼす。アドレナリンが過剰に分泌され、その間感染者は臓器が破壊されている痛みすら感じない。

やがて、臓器の破壊が終わると、感染者の体内は腐敗ガスで満たされ始める…

まぁ、生きた水死体ってところだ。ガスが貯まると感染者の腹部は異常なまでに膨れる。そして、ガスの量が体積の限界に達すると、感染者の胴体は破裂する。 個人差はあるが、発症してから死に至るまで2週間程だ。この間にいくら高度な医療を受けようとウイルスを排除することは不可能だ。

これでわかったろう?今自分達がどれだけ危険にさらされているかが…

幸い、私を含め今症状を発症していない人間は、ウイルスが活動を開始するための条件の内の1つを免れているだけに過ぎない…

つまり、油断すればいつでも病気を発症する可能性があるということだ。

この事を常に頭に置き、行動には最大限の注意を払ってもらいたい。」

マーティンが話すウイルスの凶悪性にその場にいた皆が深刻な面持ちになっていた。

ゆっくりとベン捜査官が壇上に上がる。

「これでよく解ったな?

今の我々に余裕はない。

今後、我々がやらなければならない事は、この町を封鎖し、少しでもウイルスが外部へ漏れるのを防ぐことだ。

よって、君達には明日の夜中に町を封鎖する為のバリケード設置を命じる。

開始時刻は明日、AM 1:00。バリケードの設置が完了したら、次はまだ症状の出ていない感染者達を一ヶ所に集めてくれ。

陣頭指揮を取るのはマーティン少佐だ。以後、少佐の指示に従うように…

以上、解散。」

浮かない顔でレジダブがバイルに言う。

「なぁ、要は町ごと隔離されたって事だよな?」

「そうなるな。まぁ、最後の発症条件が明らかになるまでは隔離が続くだろうよ。」

2人は明日のバリケード設置に向け準備を進める署員達の元へ向かった…

8/10 AM 7:20

国家衛生保険局

お決まりの円卓に、高価な椅子。

10数人の男女が座っている…

「Type6がパンデミックを起こした様だな…」

「ええ。ヨウルシャードという東部の小都市です。

今、マーティン少佐の部隊が事態の鎮圧に当たっています。」

「事態の鎮圧?

そんな事が出来るの?」

「マーティン少佐次第だな…。

まぁ、念のために特殊鎮圧部隊を手配しておいた方がいいとは思いますがね。」

「ならばうちのチームを送ろう。彼等はその道のプロだ…」

「証拠隠滅のプロなんて、なんだかネクラそうね…」

「どうでもいいが、この事が外部に漏れることだけはなんとしてでも避けなくてはならん。皆、力を合わせて事態の鎮圧に掛かるんだ…」

彼等はそっと席を後にした。

怖い話投稿:ホラーテラー ジョーイ・トリビアーニさん  

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