その日、俺達は有名な心霊スポットに来ていた
A「どうせなんにも出ないよ」
先頭を歩くAは全く怖がる様子がない。まるっきり幽霊を信じていないからだ
B「いやいや結構雰囲気あるぜ。今日は出るかもよ」
心霊ネタが大好きなBはかなり楽しそうだ。普段からよく、一回は幽霊を視てみたいと言っている
C「なんにも出なくていいよ……」
怖がりのCが一番後ろで震えながらそう呟く
俺「今日はきっと出るぜ……C後ろ!」
そう言ってCをビビらせる。俺もBと同じく心霊ネタは大好きだ
C「やめろよマジで!」
Cは怒りながらも足下が震えている
そんな他愛もない会話をしながら、俺達は山道を奥へと進む
しばらく行くと鳥居が見えてきた
A「ボロボロだな」
人の手を離れて随分たつのだろう。元は赤かったと思われるその鳥居は真っ黒になっている
B「いよいよ本番ですなぁ~」
俺「ですなぁ~」
俺とBはワクワクしていたが、Cは無言で下を向いている
A「ほら早く行こうぜ」
Aが先に鳥居をくぐり、三人もその後に続く
俺「早くなんか出ないかな」
A「だからなんにも出るわけないんだって」
B「いやいやわかんねぇぞ」
実はこの先になにがあるのかは誰も知らなった
鳥居をくぐってから5分
前を歩いていたAが突然立ち止まった
特に気にせず俺はAに並びかけて、その理由を理解した
前に女がしゃがみこんでいる。暗くてよく見えないはずなのに、その女の姿ははっきりと見えた
当然俺の足も止まる
B「ん?二人ともどうした?」
Bは俺達を追い抜き女に近付いていく。咄嗟に俺はBの服を掴んで止めた
B「おいおいだからなんなんだよ?」
俺は必死でBに話そうとするが、うまく言葉が出ない
Aは完全に固まっている
C「ああああぁぁぁぁぁ!!」
後ろから追い付いてきたCが叫び声を上げる。凄まじい大きさの声だったが、俺とAは女から視線を外さなかった。いや、外せなかった
B「うるせぇなぁ」
どうやらBには見えていないようだ
女がゆっくりと立ち上がる
それを見てCが悲鳴をあげながら走り出す
A「逃げろ!」
そう叫んで、AもCの後を追う
Aの声で正気に戻った俺は、Bの腕を掴み走り出した
B「おい待てって!説明しろよ!」
俺「いいから黙って走れ!!」
俺達は全力で走った
車につくと、すぐに飛び乗り猛スピードで発進させた
B「ハァハァハァ……なん…なんだよ」
荒い呼吸のままBが聞いてくるが、口を開くものはいなかった
俺は無言で車を走らせる
しばらく走り、コンビニの明かりが見えてきた
俺はそのコンビニの駐車場に車を止めた
B「もういいだろ。なにがあったか教えろよ!」
俺「……女がいた」
B「マジかよ!?俺には見えなかったぞ」
俺「マジだ……最初は屈んでたんだけど、Cの叫びと一緒に立ち上がったんだ。全身血塗れだった」
A「ちょ、ちょっと待て!」
俺「ん?」
A「血塗れだった?確かに女だったけど血塗れじゃなかった。俺が見たのは片方足が無い女だったぞ」
B「はぁ……」
俺「いや、血塗れだったし足はあった……Cは?」
C「腕が片方無い女だった……」
三人とも女だったということは共通しているが、それ以外はバラバラだ
確かに俺が見たのは血塗れの女だった
B「……あのさぁ、お前ら幻でも見たんじゃね?」
俺「そんなわけない!ハッキリと見たんだ!」
しばらく口論をしていたが、結局『悩んでいてもしょうがない』という結論になり、各々自分の家へと帰った
三日後
仕事中、俺の携帯がなる。Bだ
俺「もしもし?」
B『もしもし!?Aが!Aが!』
俺「ッ!?落ち着け!なにがあった!?」
B『仕事中の事故で!悪い。詳しくは後で話す!○○病院に来てくれ!』
俺「わかった!」
俺は電話を切るとすぐに早退届けを出した。もともとゆるい会社なので簡単に認められる
俺は○○病院へと車を走らせた
俺「B!」
B「もう来たのか!」
俺「それよりなにがあったんだ!」
AとBは同じ鉄工所に勤めている
いつも通り、鉄板を天井クレーンで吊り上げる作業をしていた時、事故が起きた
鉄板を吊っていたワイヤーが切れた。その鉄板は、近くで作業をしていたA目掛けて滑るように落下し、Aの右足を直撃。
Aは右足を切断し重体だそうだ
B「なぁこないだ女が見えたって言ってただろ?Aが見えたのって確か……」
俺「……片方足の無い女だ」
俺「偶然だよな?」
B「……」
俺「おい!黙るなよ!」
B「……偶然だろ。そんなことよりA大丈夫かな?凄い血が出てたから」
俺「……なぁCは?」
B「あぁあいつ月曜から出張いってんだってさ。連絡しといたけどすぐには来れないって言ってた」
俺「そっか……」
重苦しい空気のまま時間が流れる
このままここにいても出来ることはない。俺達は帰路へとついた
翌日、俺は会社を休んだ。Bと一緒にAの所へ行くためだ
携帯が鳴り出す
俺「もしもし」
B「……落ち着いて聞け。今朝、Cのおばちゃんから連絡があった」
俺「えっ?」
嫌な予感しかしない
昨日の夜、Cが車にはねられたそうだ。一台目にはねられた後、後ろから来た車にも轢かれて、右腕が……
B「俺が迎えに行くまで絶対家から出るなよ」
電話をきり、Bが来るまでの間、俺は怖くて部屋で震えていた
B「先にお祓いして貰いに行こう。このままじゃお前にもなにがあるかわかんないぞ」
Bが車を走らせる。俺は助手席で震えていた
しばらく無言が続いた後、Bが口を開く
B「……俺、正直見えたって言ってるお前らが羨ましかった」
俺は悔しそうにしていたBの顔を思い出した
B「でも、今は……お前らには悪いけどさ、見えなくて良かったって思ってるよ」
Bの話を聞き、俺が口を開こうとした次の瞬間
なにかがぶつかった音と同時に、凄まじい衝撃が俺の体を襲っていた
気が付くと、見知らぬ天井が俺の目に映っていた
全身が痛い
なんとか首だけを横に向けると母の姿が見えた
母の口から、俺が事故にあったことを告げられる
俺「……Bは?」
まだ朦朧とする意識の中、俺は母に問いかけた
俺の体は順調に回復に向かっている
AとCも奇跡的に一命をとりとめたそうだ
だが、Bは……
あの日、俺達の乗った車にトラックが突っ込んだ
俺は近くにいた人たちに、血塗れの状態で救出された
俺が車から救出されると同時に、車は爆発、炎上
その中にBはいた
火の勢いは凄まじく、消し止められた時、すでにBは人の形をしていなかったそうだ
行ってはいけない場所に行けば、それ相応の報いを受ける
俺達生きている者は、目に見えるモノが全てではないということを忘れてはいけないと思う
例え見えなくても、ソレはそこにいるのだから……
怖い話投稿:ホラーテラー みかんさん
作者怖話