放課後。完全下校を知らせる鐘が鳴るまであと数分。
オレンジ色の夕日が差し込む教室には、私を含め二人の人間しかいない。しかし、影は一つだ。
「前に言ってたろ、女子三人組が美術室に幽霊出るって騒いでたって」
その男子生徒はいつも突然私の前に現れる。また今日も突然現れ、何が面白いのか私と雑談し、また消えるのだろう。
「言った。リーダー格の子、霊感あるんだってさ」
「あー、通りで。……今日さ、美術室、ほんっとに大変だったんだよ」
彼は疲れた、と言うように長いため息をついた。げんなりとした彼の顔を見て悟る。冗談かと思っていたが、彼女達はあの計画を実行してしまったらしい。
「女子三人がわけわからないこと叫びながら塩ばらまき始めたんだぜ? ちょうどその場にいた先生なんか卒倒だよ卒倒」
「へぇ、お前その場にいたのか」
「ああ。残念ながら、な」
彼の髪や制服の袖、足元には、なにやら細かい粒子が付着していた。彼のことだ、きっと掃除までも手伝っていたのだろう。
「災難だったな」
口元に笑みを浮かべて見せると、オレンジ色に染まった彼は苦笑し、
「……なかなか気付いてくれないんだよ」
と言う。その顔は彼には珍しく暗く感じた。……彼が気に病む必要は何もないというのに。
「…………、きっと、」
私が口を開いたのと、聞き慣れた音が聞こえたのは同時だった。教室を、学校を満たすように鐘が鳴り響き始める。
時間のようだ。
この鐘の音が止む時までが、時間。
「いつか、彼女達も気付く」
物好きな彼は、いつも突然現れる。
また今日も突然現れ、何が面白いのか私と雑談し、また消える。
彼は今日もまた、悲しげに笑った。
「君みたいに、か?」
「……そうだな」
鐘の音が鳴り止む。
また今日も、彼に見送られ、私は消えた。
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怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話