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中編7
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戻ってきた人形

私の親友Mの体験した怖い話です。

怖いというより、何とも府におちないとMは言っていましたが・・

Mはナースです。

大学病院を辞め、しばらく充電をしてから内科、小児科医院に勤めることになりました。

求人広告を見て、他のところに比べ時給が破格に高いので面接に行ったのです。

4月3日、その日は面接を受け就業時間条件や、給与、業務内容など説明があり、

来週から働くことになりました。

師長 「ちょうど、業務も終わったし、みんなに紹介するわ」

診察室に行くと、スタッフが片づけをしていました。

みんな比較的若く、明るく気さくな感じで好印象でした。

「前はどこにいたの?」

「さっそく歓迎会の宴会しよう!」

「花見に行こう!」

「ここは、給料いいからお金貯まるよー」

など、初対面から和気あいあいの感じでMに話しかけてきます。

しかし・・

Mのロッカーを決めることになり、なんだか変な雰囲気・・

師長  「ハナちゃんが使っていたところ・・」

ナースA「師長、あれはだめですよ・・ほら・・」

師長  「・・ああ・・ああ、そうねぇ・・」

ナースB「真ん中も空いているけど、あれも・・」

ナースC「左端のところ片づけて使ったらどうかな、本が入っているけど」

みんなはそんな話をしながら、足はもう診察室の隣にあるスタッフルームの方に向いています。

師長が振り向きながら、「ごめんなさい、すこしここで待っていて」と言いました。

(ロッカーなんてどこでも空いているところでいいのに・・なんか変だったな今の雰囲気)

診察室の中を見渡していると、ある物が目に留まりました。

血の検査や、注射をする時に使う物が置いてある処置台の上に、綺麗なピンク色をした和紙に何かを包んで置いてありました。桜の花びらの模様で透けるように薄い和紙と濃いピンク色のやや厚めの和紙の二枚重ねの巾着包みでした。

(何だろう?)

無機質なステンレスの処置台に置かれたそれは、一見して不自然な感じでした。

巾着包みのうえは半開きになっており、Mは右手の人差指でそっと和紙を開くようにして

上から覗きこみました。

今日、面接に来たばかりの者が手にとって紙を開いて見るなんてことはできません。

(なんだ、お雛さんか。ああ、今日は4月3日だし、今日中に片づけないとね。

 受付のカウンターにでも飾っていたのかな?)

一対のお雛様は大きな二枚貝に絵付けをしてあるような、ちょうどコンビニのおにぎりぐらいの大きさでした。

和紙を開いたときに、フワッと微かなお香の香りがしました。

独特の香りです。

(これは伽羅の香りだ、和紙に香りつけしているのかな?)

(ちょっと変わったお雛様だな、変わり雛のたぐいかな?)

(早く、片づけないと嫁にいけなくなるよ)

なんて思っていると、師長が戻ってきました。

師長「ごめんなさい、ロッカー決めたのでそこ使ってね」

スタッフルームに案内され、左端のロッカーを使用するように言われました。

奥の壁一面にロッカーがあり、スタッフの数に対してロッカーが多いと思いました。

4連のロッカーが3つ、12人分ありました。

名札がはいっているところ以外は、空きだと思い、(どこだって空いているのにさっきのは

何だろう、えらくどこにするか迷っていたけど・・)と少し変な感じがしたそうです。

仕事を始め、慣れるまでは苦労もあり、大人の患者さんはいいのですが、小児科の経験がなかったので子供相手はなかなか大変でした。

Mの歓迎会に花見に行こうと言っていたのですが、雨が降ったりもして、短い桜の季節はすぐに終わり、その後もいろいろ機会を逃し、7月初め頃、「夏バテ予防に焼き肉に行こう!兼、歓迎会だ!」となり、焼き肉屋で歓迎会を開いてもらいました。

2次会はカラオケに行くことになり、ここで師長と、事務員さんは帰り、6人でカラオケにいきました。

Mの隣に座ったナースAが、職場のことをいろいろ話をしてくれました。

1年ぐらい求人に出しても誰もこなくて、また新人が来ても続かず結構多忙だったこと、Mが思ったより続いているのでみんながほっとしていることなど・・

M   「続いていると言ってもまだ3カ月ですよ」

ナースA「それがね、一番短くて1日で来なくなったのよ。たいてい一カ月もたなくてね」

話を聞いていたナースBが、「そんなこと言ったらMさんが不安になるじゃないの」明るく話に入り込んできます。

その妙な明るさに、Mは敏感に(何かあるな?)と感じました。

M「お給料もいいし、夜勤があるわけでもないし、なんで辞めるのですか?」

気分良く歌っていたはずのナースCも話によってきました。

ナースC「Mさん、おばけや呪いや・・そんな話信じる?」

(出たその手か)

信じるわけではないけど、怖い話は好きなほうかな・・とMは答えました。

みんなは、この際話した方がいいのではないかみたいなことを言っています。

Mはもう好奇心いっぱいで、「何ですか?なんかその新しい人が長続きしないのと

おばけか、呪いが関係あるんですかー?」

別に、それを聞いたからといって自分が今の職場を辞めることはないと思ったのです。

話しちゃえばーとみんなが言っています。

もう、カラオケそっちのけです。

話の内容は思ったより単純でした。

一年前、ハナさんと言うナースがいて旅行のおみやげを買ってきました。

きれいに表面が磨かれた石に、絵付けしてあるかわいい一対の人形でした。

かすかに、いい香りがしていましたが、それはおみやげの中にお香もありそれと

一緒にしていたから、香りが移ったようです。

かわいいから、受付に飾ろうということで飾っていたのです。

患者さんにも「かわいいね」と言ってもらえましたが、小さな子供には何故か

不評でした。

ひどい子になると、人形が怖いと泣き出し大変なことになったそうで、結局それは

スタッフルームに飾ることにしました。

しかしそれからも、なぜか異変が続き・・・

患者さんが、トイレで人形を見たとか、子供が家の近くで病院の人形を見たといって怖がっていると親御さんに言われたり(もちろん親御さんは人形が家の近くにきているなんて思ってはいませんが)、スタッフが体調不良で休むことが多くなったりで、いつしか、この人形には何かあるんではないかと思うようになったとのことでした。

人形を買ってきたハナさんは、責任を感じお寺に相談にいったところ真相ははっきりわからないが、人形からはなにか悪意に満ちたものが出ているので供養をした方がいいと言われ、結局その人形はお寺に引き取ってもらったそうです。

その大変なあいだに、求人広告を出していたので、新しく来た人は敏感に感じ取り、

長続きしなかったようです。

そりゃ、おばけ騒ぎしている職場で、スタッフは体調不良で休んでいるとなれば、新人は何だここはー?って思うかも。

でも、去年は新型インフルエンザで大変だった時だし、医療関係者もずいぶん感染したと聞いたけど。

それを人形のせいにされてもねぇ。

人形がいなくなってからはしばらく平穏な日がつづき、年が明けハナさんが家庭の事情で退職しました。

異変が再び起こりだしたのは、それからです。

ロッカーの中で、お香の香りがするようになったのです。あの人形からしていた

香りです。

人形を処分する時に、ハナさんは自分のロッカーに人形を一時保管していました。

みんな、気のせいだろう、そんなに長く香りが残るはずないと思っていましたがやはり気になり、それぞれが香りのしないロッカーに移動したということです。

今は、どのロッカーも香りはしないということですが・・

これで、ロッカーの謎はとけました。

しかし、人形、香りでどうも気になったMは尋ねました。

M    「人形はお寺に引き取ってもらったんですよね?」

ナースA 「そうよ」

M    「じゃ、診察室にあった雛人形とは違うんですね?」

ナースC 「雛人形って?」

M   「和紙に包んだお雛さんが診察室にありましたよ、微かに伽羅のお香の香りがした」

ナースC 「いつ?」

M   「面接に来た日、そう4月3日、間違いないです。お雛さん今日中に片づけないと嫁に行けなくなるよと思っていたから」

もう、みんなの顔が少しひきつっています。

ナースC 「ね、和紙って何色?中の人形本当に雛人形だった?」

M   「薄いピンクと濃いピンク色の二枚重ねで、桜の花びらみたいな模様があって、巾着包みになっていて・・」

もう、ナースC以外は、みんな悲鳴に近い声をあげています。

ナースC 「和紙に人形が包まれてあったの?本当に雛人形?石でできていたでしょう?」

M   「チラッと覗いただけだから、私は2枚貝にお雛さんの絵付けがしてあるものだと思っていたし。赤い感じの人形と濃紺みたいな色合いの人形でしたよ」

ナースA 「間違いないわ、雛人形ではないけど。あの人形よ、あれは石に描かれてあったのよ。香りもしていたんでしょ?」

M   「それは確かです、わずかだけど伽羅の香りがしていましたよ。

     わたし、そのお香持っているから。わかったんです。」

ハナさんがお寺に人形を持っていくとき、箱は捨ててしまっていたのでお菓子の包み紙の和紙があったのでそれに包み、上をひもでくくって持って行ったそうです。

もうみんなカラオケどころではありません。

一人で帰るのも怖いと言い自宅に電話をして迎えにきてもらったりして、ちょっとした騒ぎになりました。

それから一カ月、今のところMの職場では何も起きてはいませんが。

ナースCは退職したハナさんに連絡を取り、もう一度あのお寺に行き人形の供養がされたのか確かめたそうです。

確かに供養はされていたようですが・・・

供養したはずの人形が、再び舞い戻ってくることはない。

では、Mが見たのは何?

私はその話を聞き、不思議でたまりません。

Mがあっさりいいました。

「よく知らないけど、人形って燃やして供養するんでしょ?

 テレビで見たことあるけど・・・・

石でできた人形って燃えるのかなあ?」

長文になりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー 妖子さん  

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