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中編6
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〜夢の世界で〜

気が付いたらもう午前1時。

「こんな時間か。早く寝よう」

俺はやる事をさっと終わらせて、自分の部屋のベッドに横になった。

突然睡魔が襲ってきて、俺はいつの間にか深い眠りについた。

ここはどこだろう?

俺の周りには鮮やかな色の草花が咲き誇り、晴れた空には丸い雲がいくつも浮かんでいる。

草花が咲く大地には川が流れ、木でできた小さな橋が架かっている。

なんて美しいんだろう。

俺は草花に囲まれた細い道の上で、ただその景色を眺めていた。

そうだ歩こう。

歩き始めた俺。

静か過ぎる世界に、小鳥達の綺麗な鳴き声が響き渡る。

俺は自分が歩いている道を遥か先まで目で追った。

すると遠くに町のようなものが見える。

町かな?

行ってみよう。

その時だ。

「おーい」

誰かが俺を呼んでいるみたいだ。

振り返ると、後ろから自転車に乗った少年が向かって来ていた。

近付いて来た少年は、茶色の帽子を被り、少しボロい服を着ている。

少年は俺に追い付くと、自転車を降り、話しかけてきた。

「君どこから来たの。見慣れない服装だけど」自転車を手で押して歩きながら質問してくる

質問の意味がわからない俺。

だが俺はすぐに思った。

そういうばなんでこんな所にいるんだろう。

「わからない」

そう答えた。

「ふーん。変なの」

「君は何をしているの」

「僕かい?僕は今からあの町に手紙の配達に行くのさ」

少年なのに働くとは感心した。

そんな俺は19才だが。

「君、年は?」

「16だよ」少年は言った。

「そうか」

会話している内に、気付けば町の目の前まで来ていた。

予想以上に大きな町だ。

「ねぇ、僕達友達になろうよ」

「あ…ああいいけど」軽い気持ちで返事をする。

「やった!じゃ今から配達するからちょっとついて来て」

「いいよ」

町は木でできた建物が多く、なぜか温かかった。

少年と色々な家を回った。

ある家に配達にいった時、家の人から「あんた達よく似てるねぇ」と言われ、少し驚いてしまう。

だがもっと驚いた事があった。

二人で歩いていた時、俺はある家の窓ガラスに目がとまった。

ガラスには自分が映っているのだが、何かがおかしい。

待てよ。

俺は気付いた。

自分が少年の姿に戻っている事に。

何がどうなっているんだ。

俺は19才のはず。

なのにこれじゃあ16才くらいの時の自分じゃないか。

俺は少年に聞いた。

「なあ、俺何才に見える?」

「15?16才くらいかな」

「やっぱりか」

「どうかしたの?」

「いや、何もない」

どういう事だ?

なんでこんな姿に。

俺は考えながら歩いた。

気が付くと配達は全て終わっていた。

二人は町外れにある川に行き、流れる水を見ながら話し始める。

「なあ君名前は」質問する。

「僕はカレン。君は?」

カレン?どこかで聞いたような…

「俺は隼人だ」

「ふーん変な名前。でもなんか知ってるような気がする君の事」

俺も同じだった。

初めて少年に会った時、ものすごく懐かしい気持ちになった。

知ってるような気がした。

「変じゃないよ。君こそ変だよ」

二人は笑いあった。

なんだか楽しかった。

「あ、もうこんな時間だ」

町の時計台を見て少年が言う。

「遅くなったから送って行くよ」少年が言った。

「うんありがとう」

俺は少年の自転車の後ろに乗った。

自転車が俺達の出会った道を目指して走りだす。

町を出て、あの道に戻って来た。

どんどん遠ざかる町。

空を見ると、夕焼けであかね色に染まっている。

俺は思った。

ここは現実の世界じゃないのかもしれない。

家のガラスに自分の姿が映っていた時もそう感じた。

なんだろうこの切ない気持ちは。

「今日は配達についてきてくれてありがとう」

「いいよ。楽しかったし」

「実はもう一通手紙があるんだけど届けていいかな。もうすぐそこの家なんだ」

「いいよ」

少しして自転車が止まった。

ここだ。

俺達が出会った場所。

あれ?

道の脇には木の家が立っていた。

さっきこんな所に家はなかったはずなんだけどな。

少年は大事そうに手紙を手にしてポストに入れた。

それからまた少し自転車で走った。

少しして俺は少年に言った。

「もうここまででいいよ。ありがとう」

「そう?なんか寂しいな」

「また会えるよ」

本当はもう会えない気がしていた。

でもなぜかここで降りないといけない気がした。

「そうだね。…またいつの日か」

少年の言葉がなぜか胸にひっかかった。

「じゃあこのあたりで」

笑顔でそう言った俺。

「また会おうね。ずっと友達だよ」少年も笑顔で言った。

「当たり前だろ!友達だ」

俺はなぜか涙が出てきた。

すごく切なくて懐かしい。

そんな感情が涙を溢れさせる。

なぜこんなに懐かしいんだろう。

「なんで泣いてるの?」

「いや…なんか懐かしくてさ」

「君もそうなんだ。僕も懐かしいよ」

不思議だ。

二人共同じ感情。

別れを告げたらもう会えないかも知れない。

でもなぜかここで別れないといけない気がする。

「またな!」俺はそう言った。

「またね!」少年も言った。

少年は俺に背を向けて自転車を走らせていった。

最後に背を向けて手を振ってくれた。

俺も振り返した。

少年が見えなくなってから俺は改めて周りの景色を眺める。綺麗な夕日に草花がオレンジ色に染められていた。

あれ?

天井が見える。

俺の部屋か。

夢を見ていたらしい。

俺は少年の事を思い出した。

起きてからも、あの切ない感情の余韻が胸に残っていた。

名前はカレン…カレン………

「は!」

俺はある事を思い出した。

小説だ。

昔俺は「手紙少年」という小説を書いていた。

当時の年齢は16才。

その小説の主人公である少年の名前が「カレン」だった。

顔も小説を書いていた時に想像していたのとそっくりだった。

俺は他にも、小説に書いた景色と夢の景色とがそっくりだった事にも気が付いた。

俺は不思議でしかたなかった。

いろいろな事を考えながらベッドから起きて、我が家のポストへ新聞を取りに行く。

新聞を取り出した俺は、一枚の手紙が届いている事に気が付いた。

差出人の名前を見て驚いた。

カレン

俺は目を疑った。

きっとまだ夢から目が覚めてないんだ。

自分の頬をつねった。

痛い。

夢じゃない!

俺は嬉しさが溢れ出し、オレンジ色の包みを開けた。

中にはメッセージの書かれた紙が入っていた。

ただ一言。

ありがとう

そう書かれていた。

俺は嬉しくてしかたなかった。

ありがとう、カレン。

心の中でそう言った。

カレンはなぜ夢に現れたのだろう?

俺は考えた。

すると一つの答えが浮かんだ。

俺が小説を書いて、小説の中でカレンという人物が生まれた。

カレンは自分という存在をつくってくれてありがとうと言いたかったのかも。

これは俺の想像だ。

でももっと深い意味があるのかも知れない。

俺が小説を書いた理由。

それは自分が思い描く−行ってみたいと思う世界があったから。

自分があこがれる世界があったから。

大好きな自然に囲まれた世界を舞台にした。

小説を書いていた時、俺はなぜか少年に会ってみたいと思っていた。

無理だと思っていた。

だが夢で会えたのだ。

そして現実の世界でも手紙が届いた。

少年が何を伝えたかったのか少しわかった気がする。

俺は小説をまだ途中までしか書いていない事を思い出した。

そして今も続きを書いている。

少年とあの場所で別れる事になってしまったのは、小説を途中までしか書いていなかったからかも知れない。

俺はまた夢で少年に会えたらいいなと思っている。

その一心で今も「手紙少年」を書いている。

怖い話投稿:ホラーテラー 黒猫さん  

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