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中編4
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終わらない悪夢

豪雨の中、私は必死に逃げていた。

辺りは真っ暗な闇。ところどころ弱々しい光を放つ街灯を頼りに、ひたすら走る。

激しい雨音がしているであろう筈なのに、私には無音の世界。

でもヤツの気配だけはわかる。段々と近づいてきている。

(ここはどこだろう・・・・)

ふと思った。

(あぁ、あの商店街だ)

足の感覚も無くなってきて、これ以上走れなかった私は大通りから商店街の路地へ入り、店の倉庫へ身を隠す。

(この商店街はこんなに荒れ果てていただろうか・・・・)

廃墟と化した店々は、簡単に出入りができる。

それでも。身を隠すものが何もない一本道を走るより、ましだろう。

(寒い・・・)

全身濡れた体が冷える。

寒いのは、本当に雨に濡れたせい?

そろそろと倉庫の中を進む。

「ガンッ、ガラガラドッシャーン」

(ひっ!!)

無音の世界に、突然音がよみがえった。

何かが派手な音を立てて落ちた。ヤツが入ってきたのだ。

激しい雨音。

逃げなければ・・・・・

私は殺される・・・・・

倉庫の奥へ走る。

崩れた壁からまた外へ出る。

走る。

追いかけてくる。

別の建物へ逃げる・・・・

(?! ここ、トイレだ)

よりによって逃げ場の無い建物へ逃げ込むなんて・・・なんてこと!

個室へ入り息をひそめる。

ヤツは何かを持っていた。武器。

街灯の明かりに光っていたあれは・・・ナイフ?

「そこにいるねぇ~~?」

女の声?!

追っていたのはヤツだけではないのか!

「ふっふっふ、出ておいでぇ~~~」

奥の扉を開く音がする。

一か八か・・・・

次の個室へ向かう足音。止まった瞬間、私は勢いよく扉をあけて外へ飛び出した。

「ちっ」

舌打ちが聞こえた気がした。

でもそんなのは構っていられない。

(ヤツの気配が無い。どこへ行ったのだろう?)

思考がまとまらない。早く逃げなければ!

(逃げる?)

・・・・・・・・

闇雲に走りまた店の中へ入る。

崩れた壁、腐った床、引き裂かれたカーテン。

気づけば私の手にはナイフが握られていた。

(そう。やられるまえに・・・・)

ナイフを握る手に力が入る。

(ヤツの気配!)

すぐそばまで来ている。

カーテンの奥へ進み、並んでいるドラム缶の影に身を隠す。

足音が近づく。

カーテンが揺れた瞬間、私はドラム缶を倒しヤツの胸へ飛び込んだ。

ナイフをしっかり握り。

トスン、という鈍い音と衝撃が手に伝わる。

(やったか?!)

足元に”ヤツ”が崩れ落ちる。

動かない。

(やっと・・・・)

(やっと・・・・殺した)

ガクガクと笑う膝を何とか押さえ、顔を覗き込もうと屈んだその瞬間。

突然黒い影が飛び掛かってきた。

(ヤツだヤツだヤツだ死んでなかった!!!!)

ものすごい力で抑え込まれる。

必死で抵抗する。

何をどうやったのか、何とかヤツの腕を逃れ、また走る。

まだ手には人を刺した感触が残っているのに・・・・

(もうダメかもしれない・・・・・)

「もぉ~う逃げられないよぉ~~~」

背後からあの女の声が聞こえた。

いつの間にか前方にはヤツの気配。

(もうダメ・・・・)

「ドスッ」

鈍い音とともに腹に激痛を感じながら、私は完全に闇の世界へ沈んでいった。

(もう・・・・・タクミ・・・・・)

一つ大きく息をついて、私は目を開けた。

(嫌な夢を見たな・・・・)

心臓がまだ早鐘を打っている。

じっとりと嫌な汗で、体が冷えている。手に力が入らない。

隣の布団では、息子のタクミがすやすやと気持ちよさそうな寝息を立てていた。

何の不安もない、無邪気な寝顔。

「ふふっ」

時折笑顔になる。大好きなヒーローの夢でも見ているのか。幸せな寝顔。

(私は、確かに殺した)誰を?

(私は、殺された・・・・ヤツに)

私は無意識に自分の首に手をやった。

昨年のクリスマスの夜。

酒乱の果ての凶行。

引き裂かれる服の音はまだ耳に残っている。

首に回された手の感触は、一生忘れられない。

次第に強まる手の力。息ができない。

他者によってもたらされる死の恐怖は、こんなにも恐ろしいとは。

そのとき偶然にも死は免れたが、翌日更なる恐怖が待ち受けていた。

そして、私の中に殺意が芽生える。

夫は私の首に手をかけたことを、何一つ覚えてはいなかった・・・・・・

時計を見たら午前3時を回っていた。

もう少し眠ろう。

次は幸せな夢を見たい。

あと数時間もしたら、ヤツと・・・・現実の夫と対峙しなければならないのだから。

怖い話投稿:ホラーテラー チカさん  

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