このお話は今年みたいな猛暑ではなく、さっぱりとした夏の終わりの頃。それでもその日は真夏の暑さが戻ってきたような、日射しがとてもきつい日だったと思います。
せっかくの3連休なのにする事もなくて暇だなーと思っていた丁度その頃、本屋さんへ行こうと友人に誘われて私も一緒に行きました。
特に買いたい本も無かったので友人が選んでいる間、ぼーっと店の中をうろうろとしていました。時折友人とすれ違っては、
「まだ〜?」
「ごめ〜ん。もう少し待っててね。」
という会話を交わします。
まだ後1時間はかかるな……。親友との付き合いも長かったので、私は特に嫌な思いもせず気長に待つことにしました。そしてまた店内を歩き廻ります。若干不審者だったと自分でも思います。
ふと気付くと、本の並ぶ片すみに黒くて大変古そうな物が一冊ありました。
(ん?前に通った時は無かったような?売り物でもないよね。誰かの置き忘れかな?)
私はその本を手にして店員さんに届けようとしたのですが、表紙に題名が無いことに気が付きました。
(これって日記かなんか?)
本の持ち主に気の毒とは思いながら、ゆっくりと表紙をめくってみました。1ページ目には大きく赤い色で紋章…、いや魔方陣みたいな絵が描かれています。
少し気味が悪かったけど次のページをめくりました。
『反魂〜死者の魂を呼び寄せる方法〜』
ありえない…。とは思いつつも何故か手書きの文字の迫力というか、目を離せなくなり、読むことをやめられなくなっていきました。
『9月15日午前2:20より、○山県○○小学校にて決行せよ。尚、この話は他言無用である。誰かに喋れば効果は無くなるであろう。用意する物と方法を書き記しておく。』
(○○小学校って私の母校よ。でも廃校になってるわ。9月15日って今夜だよね…。誰かのいたずらかしら??)
と思いながらも私はその本にくぎ付けになっていました。1時間ほど読んだでしょうか、友人が私の肩をポンと叩いて我に返りました。
「お待たせ!てか何見てるの?あー!エッチな本読んでるー!やらしいんだー!」
「えっ?いや、これ…、黒い本で…、中は…、ほらっ。」
「いやぁ!あたしにそんなエッチなのを見せないでよ!もぅ、いいわ、返してきてあげるから。」
(なぜ?あの本は私にしか読めなかったの?冗談で言っているようには見えなかったわ…。もしかして本当のお話!?それが本当なら2年前に死んだ彼にも会えるのかな?)
付き合ってはいませんでしたが、ずっとそばにいてくれていたのが彼で、事故で死んでから彼のことを好きだったんだと自分の気持ちに気付き、悔やみきれなかったのを忘れはしません。皆の支えが無かったら私もここにはいなかったでしょう。
「さ、帰ろ。途中でおいしいケーキ屋さん見つけたんだ。寄って帰る?」
「……う、うん。」
ケーキはおいしかったけど何よりも黒い本のことが気になって、家に帰っても落ち着きませんでした。お風呂に入って寝る用意ができても、まだそのことを考えていました。
「あーもうダメ気になって仕方がないわ!12時か……。学校まで車で1時間くらいで着くから今から用意しても間に合うわ。よし決めた!行ってみよう。」
本の内容は何度も読み返していたので、よく覚えていました。必要な道具も家にあるものでほとんど揃い、無い物も途中の店で買い、とにかく確かめてみれば何かわかるだろうと思っていました。今思えば鍵がかかって中に入れないとは考えていませんでしたけど…。
目的地の学校はこの3年間管理されているようでもなく、簡単に中へ入れました。壁は落書きされ、窓は所々割れています。
「こ、怖い…。やめよかな……。でもここまで来たからには行くしかないわ。本には理科室でと書いていたわね。」
理科室は学校の一番奥にあり、ゴミの散らばった廊下を窓から漏れる外灯の光と懐中電灯だけで、恐る恐る進んで行きました。
ガタガタッ
「なに!?後ろに誰かいるの?……ネズミかな。」
気になりましたが、後ろを確認するほうが怖くて理科室まで進みました。部屋の中は意外と当時のままで、私はさっそく準備に取り掛かることにしました。
まず、部屋の中央のテーブルに大きめの白い紙を敷きます。その上に小皿を5枚正五角形に並べ、真ん中にもう1枚小皿を置きます。
真ん中にはろうそくを1本たてます。周りの皿には生魚や肉類を乗せ、1ヶ所だけ自分の髪の毛を10本抜き、束ねて小皿の上に置きました。
「そろそろ時間ね…。緊張してきた。ドキドキするよぅ。は、始めるかな……。」
椅子に座り、ろうそくに火を着け、カッターで小指を少し切り、小皿に乗せた物に数滴ずつ血を垂らしていきます。
髪の毛の皿には髪が浸るぐらいまで血を流し込み、その皿の血を指につけて自分の頬に塗りました。
「ふうっ…。我らを見下ろす神々よ、願わくば我の言葉に耳を傾けよ。去る○月○日に黄泉の住人になりし彼の魂を呼び起こしたまえ。」
(…………………。)
(…………。)
「やっぱり何もないよね。何やってるんだろう私……。」
当然ですが少し期待もあったので、がっかりして帰ろうと立ち上がった時です。
ろうそくの火がふっと消えました。周りは真っ暗になり、今更ながらどんどん大きくなっていく恐怖心は治まりません。不自然な火の消え方でしたが、立った時に風が吹いたのだろうと自分に言い聞かせて荷物をまとめ、部屋の入り口へ急ぎました。
…入り口が開きません。私は思わず後ろを振り向いてしまいました。そこには無数のオーブが!?オーブって心霊写真のお話じゃなくて肉眼で見えるものなのでしょうか?どこからか数人の話し声が聞こえてきました。
「苦しい。」
「苦しみから解放されるには誰かの魂を引き替えにすればいいらしいよ。」
「あいつをやるか。」
「だよね。俺らを呼んだのはあいつだしね。」
(はい、ちょっと待ってくださいね。何のお話ですか?別に呼んでませんけど?)
とりあえず叫びました。
「きゃーー!!」
ドンッドンドンドンドンッ!
入り口から激しく音が鳴り響きます。
(今度はどちら様でしょうか?)
ガタンッガラガラ
「だ、大丈夫だった?助けに来たよ。」
開いた戸から私の目に入ってきた姿は友人でした。私はホッとして大粒の涙を流していました。
「こわかったよ〜。」
「あたしが来たから大丈夫だよ。ほら、帰るよ。もうこんなことしちゃダメよ。」
足が思うように動かなくて、友人に身体を支えられてどうにか校門の外まで出たとき、なんとなく学校をまた見返しました。そこには青白く薄い人影が立っていました。
こちらを向いて優しく微笑み、手を振っているように見えます。私はその影は死んだ彼だと根拠もなく確信しました。
私を守ってくれたのは親友だけじゃなく、彼もいてくれたと思うと、2人には感謝と謝罪が入り交じったとても複雑な気持ちになります。
後になって、もしかしたらこの出来事は友人も彼のことが好きで、それを恨んだ友人の仕組んだ罠だったと考えてしまったこともありました。
しかし、それにはどうしても説明がつかない事も多いし、何よりも友人は本当にいい人なのです。
本屋さんで黒い本の内容を知った友人が私に気にならないように嘘をついたと考えれば、全て納得が出来ました。
友人には私が疑ってしまってごめんなさい、と謝ったら笑って許してくれました。
これからも心から親友と呼ばせてもらえる友人を大切にしていきたいです。
もうすぐ9月15日です。この日が近づくと私はこのお話をいつも思い出しています。
怖い話投稿:ホラーテラー みうまさん
作者怖話