何年か前、土砂崩れに遭った。
趣味で何年も登山してるけど、あの時が初めての経験だ。
とは言っても、一人で登ったのは初めてだった。
それまではチャコって柴犬が一緒だったが、少し前に病気で死んだ。
土砂崩れの死者は出ず、負傷者も俺だけだった。
「足を挫いちまうとは、災難だったなあ。ま、命があってなによりだ。」
救助隊のおっさんはそう言った。
まったくそのとおりだ。
だって俺は死んでたはずだから。
土砂崩れが起きたとき、俺はその真下にいた。
当然、でかい岩も降ってくる。
その一つが、俺の真上から落ちてきた。
あー、こりゃ死んだなと思った。
怖くて動けなくて、ただぼうっと岩だけ見てた。
そしたら・・・
ドンッて、誰かが俺の背中を押したんだ。
すごい勢いで、俺は前のめりに転がった。
そのまま坂を転がり落ちて、いつの間にか土砂崩れの現場から離れてた。
救助隊に発見されるまで、俺はその場にうずくまってた。
あれは誰だったんだろう。
あの場には俺しかいなかったはずだ。
ぼんやり考えてると、さっきのおっさんが近づいてきた。
「これ、運んだとき俺の服にひっかかってたんだよ。あんたのだろ?」
そう言って渡されたのは、チャコの首輪だった。
持ってきた覚えはない。
ここにあるはずはないのに。
ここにいるはずはないのに・・・
俺は登山を続けている。
あれ以来ずっと、チャコの首輪をカバンに入れて。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話