誰にも言わず胸の奥底に留める事が出来ないみたいです。信じ難い内容ですので、胡散臭いと思われる方は物語としてお楽しみ下さい。
また、遠い記憶を辿りながらの回想となりますので、セリフなど細かい部分は事実と多少違うかもしれません。なるべく忠実に再現するよう努めましたのでご容赦下さいませ。
あれはもう20年以上前の事。小学生だった僕は、いつも自宅まで、広い畑の真ん中を貫く坂道を登って下校していました。
典型的な片田舎です。自宅の2階からは日本海が見え、裏手は鬱蒼とした小高い山々が連なっています。
そんな帰り道、いつも畑仕事をしている、当時皆が『みっちゃん』と呼んでいた小太りのおばちゃんがいました。
『お帰り〜、今日も暑いなぁ〜。』
いつも笑顔で挨拶してくれるみっちゃんは、何処にでもいそうな明るいおばちゃんでした。
みっちゃんは、特に僕(Tと呼ぶことにします)にはよくしてくれました。お菓子をくれたり、楽しい話を聞かせてくれたり。僕も特に喜んでいたので、他の子よりも接し易かったのかもしれません。でも、不思議と地域の付き合いは希薄みたいでした。親にみっちゃんの話をしても、
『あの人はよく分からんからなぁ…。』
と言っていたのを覚えています。
特に今でも印象に残っているのは、広大な畑に数多く立ち並ぶ案山子(カカシ)。いくら畑が広いからと行っても、あそこまで沢山の案山子を立てる事はないと思うのです。また、その案山子が少し変わっていました。個性的と言うかリアルと言うか…当時子供だった僕は、子供なりに漠然と、
『どっか違和感があるなぁ…。』
と感じていました。
ある時、その事をみっちゃんに突っ込んでみた時があります。
『なぁ、みっちゃん。なんで案山子あんな沢山あんのん?しかもちょっと変な案山子ばっかやなぁ?』
それを聞いたみっちゃんは、
『変!?』
と言い、一瞬何とも言えない目つきをしたので、言ってはいけない事を言ってしまったのかと少し戸惑いました。その顔を見てみっちゃんは少し微笑みながら、
『Tくん、案山子に興味あるんか?』
と言いました。別に案山子が好きな訳ではないので、返答に困っていると、畳み掛ける様に、
『案山子や、案山子の事話し始めたんTくんやで。案山子好きなんか?気になるんか?』
と、妙に食いついてきたのです。子供心にちょっと不自然だと感じた僕は、適当に濁してその場を離れました。明らかにいつものみっちゃんではありませんでした。
次の日、何となくぎこちなくみっちゃんの畑を通ると、案山子が増えていました。どう見ても、案山子の展示会です。何より印象に残っているのは、新しく立った案山子の中のひとつに、何とも恐ろしいものがあったのです。
身体はマネキンをそのまま使っていたと思います。真っ裸の女性のマネキンです。衣服を着せる事もせず、胸の辺りが刺し傷、切り傷などでボロボロになっていたのです。そして…問題は頭です。まるで落ち武者の様に振り乱した長髪から、ギロッと覗く眼光。眼球が赤いのです!。よく見ると、鉄棒が肛門辺りから頭頂部に向かって貫く様に真っ直ぐ突き刺さっています。
『絶対ヤバい!!』
そう感じた僕は、みっちゃんの視線を感じながらも、走って逃げる様に帰りました。みっちゃんが後ろから何か叫んでいましたが、構わず走り去りました。
…それからもう僕はその帰り道は使わなくなりました。みっちゃんの事も忘れるように努めて、いつしか時間は流れ…本当にそんな出来事も記憶の彼方に消えていきました。では何故今頃になって再び回想する事になったのか?その答えは、それ以降経験するおぞましい体験に起因するのです…。
…続く…
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話