今回登場人物の台詞を全て無くして、事の流れだけにしてみたので、皆さんの好きなように台詞を想像して読んでください。
私(女28)と、
タメで同僚であり親友の知佳と有里で、
世間とはズレた遅い夏休みで千葉の海の近くの、小さな民宿へ二泊三日で旅行に行く事にしました。
皆キツキツだし、他の民宿と比べて一番安い民宿の一番安い部屋を予約しました。
正直寝れる部屋があればいいや感覚だったので。
当日、天気にも恵まれ、世間は夏休みが終わってるし、高速もさほど混む事なく、スムーズに進み私達は車内で流行りの歌を熱唱したり、窓から見える風景や運転する知佳をビデオで撮ったり、楽しい時間のまま、スムーズに現地に到着しました。
海に歩いて行ける距離の民宿だし荷物を置きに民宿へ。
受付を済まし、いざ部屋へ。
う〜ん…
まるで実家にいるような感じだ…
床はフローリングではなく、端が軽く変色してるような畳の部屋、使い込まれたちゃぶ台があり、クローゼットではなく襖の押し入れ。
一人暮らしが長いしなんか懐かしい感じがして、嫌な気持ちはしなかった。
ガラガラと音がする窓を開けると潮風が体を通り過ぎる。
海は目の前だった。
海を目の前にテンションが高まり、ハシャぐ私達。
海まで近いし、部屋で水着に着替え、必要な物だけ持ち、貴重品は途中のコインロッカーへ預けた。
9月とはいえ、猛暑が続く毎日。
地元の人が大半だろうが、海辺にはそこそこ人がいた。
若い男の人達に何回かナンパされたが、今回は女だけの旅、男は去れ!とばかりに軽い男達をスルー。
何とか営業していた小さな海の家で、お約束の焼きそばやかき氷を軽く食べ、夏を全身で満喫する私達。
海にきて数時間経ち、肌も赤くなり始めて、そろそろ戻ろうと民宿へ。
海でしこたまハシャいだ私達はすっかりお腹ペコペコだ…。
朝夜のご飯付きプランにしたので、民宿に帰ると、オーナーさんから部屋で食べるか食堂で他の客と皆で食べるか聞かれた。
せっかくだし、食堂でと答え、オーナー夫妻、30代後半夫婦とその夫婦の可愛い男の子の組と、若いカップルと一緒にでかいテーブルを囲んで食事。
最初はぎこちない会話だったが、最後は仲良くなり食事の後もそのままお喋りを続けた。
やがて疲れもあり、お開きし、いかにも実家にありそうな二層式?の風呂へ交代で入る。
浴槽で足を伸ばせないのが逆に懐かしくいい感じで、私達はすっかりこの民宿を気に入っていた。
部屋へ戻り、それぞれ髪を乾かしたり、“入念”なお肌の手入れ等をしながら、恋人や仕事の愚痴など、女子のペチャクチャ大会開始。
お酒や菓子も購入していて、三人でちゃぶ台を囲み、まるで修学旅行のように楽しんだ。
酒も入り、疲れたし寝ようと押し入れから布団を取りだそうと襖の取っ手を触る。
?
…一瞬ヒンヤリした。
クーラーが冷えたか?
酒の力もありたいして気にせず布団を取り出し、お互いの顔が向き合うように敷く。
第二回ペチャクチャ大会を開催しながら電気を消す。
しばらく話をしてたが疲れからそれぞれ口数少なくなり、就寝……。
ふと目覚め…
古い型のクーラーの音を意識してしまってから、頭の中で恋人や仕事の事など、寝ようと思ってもさまざまな事を考えてしまい、なかなか寝付けない…。
トイレ行こうと立ち上がる。
真っ暗闇だが手探りで部屋を出て用を足し、布団へ戻る。
……?……
何か視線を感じる…
なんだと思い、その視線の方を顔だけ起こし確認。
暗くぼやけるがただの押し入れの襖があるだけ…
再び横になるが、まだ視線を感じる…。
気になってしまい、上半身を起こし再び襖を見る…
《…すーー…》
??
微かに見える襖の端が動く音がした。
見間違い??
目を凝らし襖をよく見ると、確かに襖の端が30cm位開いてる……。
知佳と有里は寝てるし、一人…
怖さがみるみる膨らみ、心拍数が上がる。
目を凝らし疲れた目を指で軽く揉み、もう一度襖見る。
開いた襖…
そこには真っ暗闇なのに怪しく赤く光り、鋭い目が片目だけ襖から覗き、私を睨むように見ていた…
鳥肌がみるみる立ち、乾いた小さな悲鳴を出した私は、そのまま気を失ってしまった…
翌朝、知佳と有里の私を呼ぶ声で起きる…
あのまま倒れたからか、寝相が悪くない私が、布団から大きく外れ畳の上にいた。
私を心配していた2人に大丈夫と謝り、襖を見つめ唾を飲む私…。
ゆっくり立ち上がって、襖の前に立ち、意を決して勢いよく襖を開ける。
そこには布団が無くなり大きなスペースがあるただの押し入れだった。
不思議がる知佳と有里。
…夢?
気持ちを切り替え、
ごまかした…。
気になって仕方ないが、夢か…見間違いかもしれないし楽しい旅を壊しては…と思い、2人には内緒にし、今日も海へ向かう。
やがて昨日と同じように他のお客さんと食事、会話し、すっかり打ち解けた男の子と遊んだり…。
楽しさから次第に押し入れの事は忘れていたが、部屋に戻って嫌でも思い出す…。
夢か実際に起きたのかわからなかったので、ハッキリさせたいし、2人に思い出作りと、防犯の為という訳わからない理由で説得し押し入れが映る方向で私達の寝る姿をビデオで長時間モードで撮影させてもらった。
気になって眠れない…
《…すーーーー…》
まただ…
震えながら襖を見る…
…ありえない!!
暗いのにハッキリ見える…
白く、所々赤みかかり変色した2m近い長すぎる異様な腕が襖の開いた所から私達の方へ伸びていた…
手の先はゆっくり押し入れから一番近い知佳の所へ…
知佳の足先から頭へゆっくり知佳の上を移動し頭の所にきて手が止まり、頭を掴もうとしてるのか…
ゆっくり知佳の頭をでかい手が覆い掴む…
知佳は寝ていて掴まれている事に気づいていないが寝苦しそうに声を出す…
少しずつ…
少しずつ知佳を押し入れの方へ引きずる…
私は固まり震えながらも、知佳が連れていかれ殺されてしまうと思い声を出そうとするが、怖くて声がでない…
仕方なく、心で強く知佳の名を叫んだ時、それが聞こえたのか知佳を掴む手は広がり、コードを巻き取るように一気に襖の中へ吸い込まれた…
私は朝になるまで布団をかぶり固まったまま泣き、震えていた…
朝、2人が何も知らず起き、泣きすぎてクマができボロボロな顔の私は押し入れの事を2人に話した。
押し入れを確認する知佳と有里。
よく見ると押し入れの隅はカビではなく何か血の跡のような黒い染み、襖の裏の襖の紙の隙間から黄色い紙が1cm位見えてたので、弁償すればいいと思い襖の紙を破ると、襖の中にはビッシリと、カビかなにかで破れかかった無数の御札が貼られていた…
すっぴんのまま急いで荷物を持ち会計し民宿を飛び出す私達。
青い顔の私達を不思議そうに見送る他のお客さん…
何かを悟り同じ光景を見慣れているのか悲しげに何も言わないオーナー夫妻…
遊ぶ気は消え失せ、
車を飛ばす…
私は後部座席でビデオを再生し大きな悲鳴を上げた。
あの手が消えた後、
恐怖で頭から布団を被っていた私…
私が起きているのが気づいたのか、手は一本だったのが襖の隙間から5本近く数を増やし、私達が起きる直前まで、私の上を蛇の様にウヨウヨと漂っていた…
きっとあの後、布団を被らず襖を見ようとしていたら無数の手に連れていかれてたかもしれない…
安いのにはやはり理由があった…
あれが結局何だったのかは、私達は怖くて探る気にもなれなかった…
安すぎるホテルや宿にはくれぐれも注意してください…
怖い話投稿:ホラーテラー Shadyさん
作者怖話