避難路を歩く俺達。
通路は広く長い間隔で小さな明かりが続き、
道は見えるが標識も読めずに、半ばさ迷いながらも前へ進む。
鉄パイプの錆が手に付着し、緊張から手汗を掻き、手の感触は気持ちが悪かった。
さっきの白い服装の奴らが何者かもわからぬまま進む、長い緊張感。
俺達の足音と天井から床に滴る水滴の音が、避難路の中に響く。
俊「さっきのって…やっぱ…幽霊なんかな?」
俺「……わからん…けど今まで生きてきて幽霊なんか見た事ないし、頭が狂った人間なんじゃない?」
何の確信もなく、
俊だけではなく、自分にも言い聞かせる…
そんなやり取りをしていると、先頭を歩く圭祐が何かを見つけた。
圭祐「おい、扉があるぞ!出口かも…」
やっと出られるかも!
と、出口かもしれない扉に駆け寄る俺達。
ドアは完全に周りが錆びついた鉄の二枚扉だった。
『 ー警告ー
災害時、
及び●●時●外は、
立ち●り●禁!』
ドアの真ん中に書かれていたが、所々風化して読めなかった。
圭祐「及び……時…??」
かすれた部分が気になる…
俊「とりあえず今は緊急事態なんだから開けようぜ!」
何も躊躇せず、俊は圭祐の前へ行き、大きい扉の取っ手を掴み開けようとする。
俺「お、おい!」
何か嫌な予感を感じつつ、出られるかもしれないという期待で俊を止められなかった。
俊「あれ?…なんだ…鍵かかってんのか??」
取っ手を下に下げ、手前か奥に動かせば開くタイプの扉なのに開かない。取っ手は完全に下がるので鍵がかかっている気配はないのだが…
仕方なしに、三人で力を合わせて強引にやる。
『グッ…ギギッ…ギギッ…』
少しずつ手前に動き、俺達はさらに力を合わせて強引に開けた瞬間…
『ブワァーー!!』
とてつもない突風に煽られ、思わず後ずさりした。
風は生温く、汗で濡れた皮膚に纏わりつく感じがして気持ち悪かった。
俺「風があるなら、地上に通じてるはずだ…」
扉の先は同じような通路だが、壁が異様に錆び、汚れていて、ここだけさらに昔の通路という感じだった。
今まで通ってきた道が新しく作られた道なのだろうか?
ただの予想のまま、
慎重に新たな道を進む。
所々、床の隅に土があり山へ通じて出られるという希望が強くなる。
同じように湿気もひどく、歩いてるだけで汗が滲み出る…
《バターン!!!!》
突然何かが強く閉まるような大きな音がして驚き、隠れたつもりなのか壁を背にして前を見つめ警戒する俺達。
俺「まさか…あいつらかな…」
圭祐「多分な…」
俊「マジ…何なんだよあいつら…」
最後尾の俊が、さらに強く鉄パイプを握りしめ、声を震わせる。
《ピチャ…ピチャ…ピチャ…》
水滴の音だけが、虚しく鳴り続けていた。
その時
「はぐぅっ!!!……」
後ろから突然悲鳴がし、慌てて振り向くと…
俊がいるはずなのにいない
おかしい…
扉を開いてからは、ずっと一本道なのでいないはずがない…
突然の失踪に混乱しつつ、俊を大声で呼び続ける俺と圭祐。
「ぐぁっ!!逃げ……」
再び悲鳴がし、振り向くと圭祐もいなくなった。
俺は訳がわからず、恐怖と不安が入り乱れ、泣き叫びながら無意味に鉄パイプを振り回し、壁に擦れ火花を散らした。
泣き叫び、無理に振り回した腕がを悲鳴を上げて鉄パイプを下ろした時…
壁の中から、壁を通り抜けるように凄まじい勢いで白い服装の男が、俺めがけて飛び出してきた
ここからしばらく記憶がない…
気がつくと開けたフロアに横たわっていた…。
シャベルや砂袋など…いろんな道具が無造作に転がっていた。
今までと比べると薄暗い…
圭祐と俊は…??
歩き周ったがどこにもいない。
少し歩くと墓?碑?祭壇?
…とにかく、石でできた大きな物を見つけた。
手前には枯れた沢山の花の残骸、何かの灰…
俺「なんだ…これ…」
訳もわからず、立ち尽くしているとその石の物体の中から人らしきモノがすー…っと出てきた。
俺「うわあ!!!」
驚き悲鳴を上げた俺は金縛りにあう…
(なんだよこれ!!??
やばいやばいやばい!!!!!)
頭の中で悲鳴をあげる。
そのモノは手足が見えないというか、とにかく頭と胴体だけだった。
服は、素人の俺でもわかる軍服で、顔は俺と同じ20代位の若者で、顔や体は汚れ、傷だらけだった。
そいつは、そのまますーっと俺の前まで近寄り、顔を近付ける。
声も出せないし恐怖で涙を流す俺。
するとそいつの眉間から小さな…飴玉位の丸い光が出てきて、光がそのまま俺の眉間の中にめり込む…
(あぁ…死んだ…)
と思った直後、おかしな事が起こった。
光が入った瞬間、
視界が突然変わり、
突如周りに銃声が鳴り響き何か爆発する音がする
訳もわからず周りを見渡すと軍服を着た若い男達が必死に同じ方向へ走っている。
(戦争…?)
映画でしか見た事ないような光景が目の前で起こっている。
爆発で舞い上がり降り注ぐ土の感触、肌に触れる装備で重い軍服の感触がリアルで、
夢か現実か…
訳がわからない…
辺りを見渡すと物陰に隠れ震え涙する若者
走っている最中に被弾し、胸から土の地面に倒れ込む若者
必死に手当てする若者
何か投げられ爆発し、手足がもげる若者
爆発で体が2つに分かれる若者
頭に被弾…
腕に被弾…
足…手…
次々と無惨に死んでいく若者達。
誰しもが、
死ぬ為に走るかのように、皆が鬼の形相だった…
俺はあまりの迫力にその場に立ち尽くすと、すぐ目の前で爆発がおき、吹き飛ばされた…
ヒドい耳鳴りがした
(痛てぇ…)
爆風で意識が朦朧とする…
視界が回復すると
両手両足の先が無く、みるみる土が赤く染まっていた
(…死ぬのか……なんで俺がこんな目に…)
その瞬間、視界が先ほどの石の物体の場面へ戻った…
(…あぁ…あれ…あんたか…戦争で死んだんだな…)
俺は急に理解した…
再び場面が変わった
古い木造の家…
若者の母や妹達…
父は見当たらない…
母が泣きながら書面を若者に渡す
国の為に忠を尽くせと、国から強制的に連れられ、周りの家の若者達も皆、車に乗せられる
怯えて従わなかった若者は家族ごと罵倒され人権を踏みにじられる
車に乗る若者は家族に向け泣くか、清々しく家族へ敬礼する
初めて触る銃
手入れを怠り暴発し指が吹き飛び泣き叫んでる若者へ、教官らしき男は厳しく叩き罵倒する
死ねと言われてるような訓練
掛け声は厳しく整えられ、国の為にと洗脳されるようにしごかれる
体が悲鳴を上げて倒れる若者を助ける余裕のある若者は誰一人いない
全身に仲間の血を浴び、気が狂う若者
泣きながら家族へ愛の言葉を叫び、敵の基地に飛行機ごと突っ込む若者
同じように死にたくない敵から銃弾を浴びさせられる若者
家族へ向けた手紙を握り締め絶命する若者
皆
ほとんどが自分の意志ではなく、生きて帰れる保証のない戦争へ駆り出され、命を落とす…
(この時代の若い奴らに比べたら…今の俺達は…)
俺は悲しくなった
再び石の前に戻り、
若者を見ると、笑顔で涙を流し静かに消えていった…
そのまま気を失い、気づいたらトンネル入り口の道に三人で倒れていた…
俊と圭祐も気を失っているだけで無事なようだ…
先ほどの奇妙な体験は夢なのか?
あの白い服装の男女は何者だったのか…
何か別な理由で死んだ悪意のある幽霊なのか…
もしかしたら、若者の後に亡くなり、若者達と一緒に山に漂い、俺達を若者の所へ導く為に現れた若者の家族…?
そう願いたい…
無事に帰ってこれた俺達、2人に俺が体験した事を必死に説明し後日、トンネルへ献花しに行った。
若者達が命をかけて作ってくれたからある、今この時を大事に…
そして若者達が安心して未来を任してくれるよう、生き方、考え方を見直した。
俺達
三人から始めればいい…
┏━━━━━━━┓
┃今 ┃
┃あなたは ┃
┃命を ┃
┃賭けれるほど ┃
┃死ぬ気で ┃
┃何かにたいして┃
┃頑張って ┃
┃いますか…? ┃
┗━━━━━━━┛
怖い話投稿:ホラーテラー Shadyさん
作者怖話