「地蔵さま見に行かない?」
そろそろ外に夜遊びに行くのも寒くなってきた頃、小学校からのツレの『健』からのお誘いである。
『地蔵さま』という言葉に俺のオカルトレーダーがピクンと反応する。
俺「お供しましょう!」
車に乗り込み『地蔵さま』があるという山の駐車場に向かって走り出した。
駐車場までの道すがら、地蔵さまの云われを健から聞いた。
『鬼事地蔵』というらしい。
健「つまり鬼ごっこ地蔵だな。」
俺「ホーホー。」
??何年にナントカ上人が子供のナニナニを慰めるかなんかで地蔵さまを建てたとかどーとか…。
車を運転してた俺は、話半分で聞いてたからちゃんと理解してなかったが、ようするに昔の坊さまが建てた地蔵さまってのだけわかった。
山の駐車場に着き、地蔵さまのある展望台に行く階段に向かう。
地蔵さまは展望台までの階段の中腹あたりにあるらしいが、今まで何度か展望台まで行った事ある俺は、「そんな地蔵さまあったかな?」と思いながら、エッコラエッコラ階段を登っていった。
懐中電灯を照らしながらしばらく進むと、階段の左側…1m四方のセメントの上に地蔵さまはたしかにあった。
見た目は普通だ。少し大きいかな?巾着袋のような帽子にエプロン姿で穏やかな顔の地蔵さまは、1人ポツンと立っていた。
俺は階段に腰掛け、周りを見渡したが、懐中電灯の光は木々に遮られ奥まで照らす事はなかった。
健は「ん〜〜…。」と唸りながら、地蔵さまを右から左からと覗きこんでいる。
鬼ごっこだから鬼と子がいるんだよなぁ…なんて考えていると、「一…二…三…四…」と、健が数を数えだした。
何言ってんだ?コイツ…と、呆けにとられる俺をよそに、健は数を進める。
健「…七…八…九………十。」
そこまで数えた健は、少し間を置くと、
健「…つーかまーえた!」
そう言うと地蔵さまを両手でガシッと捕まえていた。
さっきまで風と葉っぱが「ざざざざ……」と、擦れあっていた音が一瞬消えた…ような感じがした。
「なんてな。」とか言いながら、健は俺の方に振り向き笑った。
俺「気味悪い事すんなよー!」
健「いやいや…せっかく来たのに何かしないとなぁ…って思ってな。」
俺に気をつかったのか、地蔵さまに気をつかったのか知らないが、コイツはたまにおかしな事をしやがる。
「………………………。」
……何か聞こえた。
俺と健は顔を見合わせる。
俺は立ち上がり、声の出所を探るべく、地蔵さまにライトを当てる。
なぜ地蔵さまにライトを当てたのか……先ほど聞こえた言葉が俺の頭の中で脳内再生されたから。
「コンドハワタシノバン…。」
都合がいいようだが俺にはそう聞こえた。
石で出来た地蔵さまが喋る訳ない……のだが、俺も健も地蔵さまが喋ったとしか思えなかった。
「一……二……三……」
一瞬時間が止まったような気がした。2人して地蔵さまを凝視し、『どこから聞こえるんだ?』……そんな事を考えていると、ある一点に目がいった。
「…四……五……六…」
地蔵さまの頭のうしろ…数が進む度に、巾着帽子の中から声が聞こえ変なかんじに動いているじゃないか!?
「…七……八……九…」
健は地蔵さまに手を伸ばし、巾着帽子を取ろうとしている。
『怖い…ヤメロ!アホか!』
光に照らされた穏やかな顔の地蔵さまを見ながら、俺は声にならない言葉を心の中で叫んでいた。
「…………十。」
その言葉を聞くか聞かないかの時、俺と健はすでに階段を駆け下りていた!
それはボルトもビックリのスピードで駐車場まで走り抜け車の前で座りこんでいた。
俺「お前ふざけんなよー…。」
健「いやいや…アレは見ないと後悔するやろ?」
肩で息をしながら、そんな事を話てるのも束の間……
「まああぁぁ…てええぇぇ…」
叫ぶわけでもなく、吠えるわけでもない声…静かだけど腹の底に響くかのような声が、階段奥の暗闇から聞こえてきた。
俺は咄嗟に車に飛び乗りエンジンをかけ、助手席に健が乗るのを確認してアクセルをおもいっきり踏み込んで、駐車場をあとにした。
さすがに2、3日の間ビクビク過ごす羽目になった訳だが、今だにこれといって何か影響があるわけじゃない。
罰当たりな事したのはこの一件だけじゃないから、何かあったとしても分からないんだけどね。
ただ今でも視線を感じたりすると、『もしかして地蔵さまか…!?』と思い、この時の出来事を思い出す。
それはきっと駐車場から道に出る時、「…マタネ。」って聞こえた気がしたから。
聞こえる訳ないのにね。
車で走ってたんだから…。
もし俺の聞き間違いじゃなかったら……
俺か健の頭にナニかついてたんだろうなぁ。
地蔵さまの頭についていたナニかが……。
怖い話投稿:ホラーテラー 八百草さん
作者怖話