中編3
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ラン

うちにはコリーという種類の犬がいました。名前はランといい自慢ではないですが、賢い犬でした。もうだいぶ昔のことになります。

ランは、俺がまだ保育園の年長だった頃にうちにやってきました。母が、ランがペットショップから保健所に連れて行かれそうになるところを引き取ったのが出会いのきっかけでした。

ランはトイレに行きたくなったら、家の裏口の戸をがりがりと爪でかいて知らせ、用を済ませて戻ってくるときも外からがりがりとやって知らせました。お手もおすわりもできる。飼い主の手なんか絶対に噛まない忠実で優しい犬でした。

俺が小学三年生くらいだった頃悲劇が起きました。母が地元のスーパーに出かけているときでした。俺はその時、漫画を読んでいたので気づかなかったのがいけなかったです。

ランは母を追って、家から飛び出しました。母にはすぐ向こうからランが走ってくるのが見えました。ランと母との距離は道路を一枚隔てた数m分。田舎の道路、信号や横断歩道なんてありません。

母が危ないからランきちゃだめえとランに言いました。しかし道路を走っている車は一台もなかったのでランも安心していたのかそのまま母のもとへと走りました。そのときでした。

キーーーーードンッ!たまたま隣の喫茶店から出てきた車がランと衝突しました。ランの小さく軽い体は一瞬だけ中をまい、その後すぐにアスファルトの上に叩きつけられました。ラン!母が叫びました、ランは母が呼んだ声に一生懸命起き上がろうとしました。だけど、ダメでした。ランはその真っ白な体を己の血で染めながら短い生涯を終えました。後には母のラーーーーンと叫ぶ絶叫だけが残りました。

俺はランが死んでからの一週間ろくに口も利けず、ずっと下を向いていました。母も気丈に振舞っていましたが、その顔はどこか切なげでした。

ランはちゃんとした場所で供養をしてもらいました。俺はランの肉体が骨になり骨壷に入れられるまでの間、ずっと目をつぶり下を向いていました。小学三年生の俺にはまだ家族と別れなければならないという自覚がたりていませんでした。

ランを火葬した後のその日の夜。俺はある夢を見ました。

俺は家の裏口扉の前に立っていました。しかもそこにはランがいました。ランはトイレのときのように戸をがりがりとかいていました。だけど俺にはその戸を開けることがどうしても嫌でした。開けたらもう二度とランと会えないような気がしたからです。ランは戸をかきながらしきりにクーンクーンとなきました。

俺はランとの思い出を頭の中に浮かべながら、いいかげんランとの死と向き合わなければならない。ランを自由にしてあげなければならないと思いました。それがランのためであり、自分のためでもありました。

俺は覚悟を決めて戸を開け放ちました。ランは待ってましたとばかりに飛び出していきましたが、ふと足を止めると、俺の方を向いて、一声ワンとなきました。俺もランに精一杯の感謝をこめて「ありがとう」といいました。ランはそれを聞いて満足したのか、今度は一度も止まらずに走り去って行きました。

俺はそこで目を覚ましました。多分あれは、夢だった。夢だったけど俺はこれでランの死に向き合うことができたと、強く実感しました。ふと、自分のほおに手をやるとたくさんの汗と涙でぐっしょりとぬれていました。

皆さんも買っている動物は大切にして下さい。つたない文章なのにここまで付き合って下さった方、またちょっとでも興味をもってページを開いてくれた方ありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー メアさん  

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