誰も幸せにならない 続き

中編3
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誰も幸せにならない 続き

間が空いて申し訳ありませんでした。続きです。

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夫婦の経営するアパートに20代後半の女性が引っ越してきたのは、

初夏の頃だった。

「夜の仕事してる人だったんです。

最初は生活リズムが違って、

他の住民とトラブルになるかもしれないから、って反対したんですけど、

旦那が、「地方のお嬢様で、身元もしっかりしてるから大丈夫だろう」って。」

旦那の後押しで入居が決まった。

「実際住みだすと、挨拶はちゃんとするし、ゴミの日も守る。

若者にしてはしっかりしてるなぁと思ったんです。

私の心配は取り越し苦労だったなって。

一度旅行のお土産を持ってきてくれたことがあって、

それ以来よくおかずを分けたりしていたんだけど」

それが浮気相手だと気付いたのは、

偶然、旦那がその女の部屋に入るのを見たからだと言う。

時刻は夜中の1時。

大家であっても、女性の部屋に入って行くには不自然な時間だった。

「問い詰めたらあっさり認めたんです。

アパートはやるから、別れてくれって。」

離婚に応じるつもりはなかったが、

その1週間後、旦那は離婚届けを置いて、

女性と出て行ってしまった。

「私の何がいけなかったんでしょうか。」

女性はハンカチを握りしめて、泣いた。

とにかく見てみましょうと、タロットカードを取り出す。

すると

「なんか一瞬、変なにおいがしたんだ。

生臭いような、動物みたいな。

店の生ごみなのかと思って、

その時は“あとで片づけなきゃ”ってくらいしか思わなかったんだけど」

占いの結果は、前回同様最悪だった。

「自分を責めてはいけない。

現状を受け入れ、別れて新しい自分の人生を初めた方がいいですよ。」

女性は、魔術師のカードを見つめ、

「諦めろ。そういうことですよね」とつぶやいた。

占い師は逆さになった“魔術師”のカードを見つめていた。

帰り際、とっさに連絡先を交換した。

何かあったらまた来てくださいと付け加えて。

外は雨が降り出していた。

女性にまたあの傘を貸し、店を閉めた。

女性が帰ったあとも、

店には先ほどのにおいがかすかに残っていたという。

それから数年後。

占い師は偶然、その女性が住む街へでかけることになる。

妹夫婦の引っ越し先が、あの女性住んでいる近くだった。

「妹から来たメールに住所が書いてあって、

珍しい地名だったからすぐ思い出した。」

妹夫婦の自宅へ訪問した帰り、

あの女性の家を探してみようと思い立った。

「会って話そうなんて気はなかったけど、

自分のアドバイスが役に立ったか知りたかった。

普通の毎日を送っていればいいなって」

探し当てたアパート。

そこはゴミ屋敷だった。

元は白かっただろう壁も、染みのようなもので汚れ、

洋風の門の外にも内にも、ゴミ袋が積み上げられている。

「ゴミ袋の隙間に、あの貸した傘の柄が見えたんだ。」

ここからは、占い師がアパートの近所の人に聞いた話。

<相談にきた女性のその後>

・旦那が出て行ってから、旦那のものが捨てられなくなり、

旦那が触ったものを全部とっておいたらゴミ屋敷のようになってしまった

・今でも、旦那が出て行ったときと同じ服装で生活している

・アパートの住民はもちろん全員退去し、

今は10部屋あるアパートのどこかの部屋で生活している

<旦那>

・浮気相手と暮らし出してから間もなく、目も見えず耳も聞こえなった

・浮気相手に犬小屋で寝起きさせられていた

・消息不明

<浮気相手の女性その後>

・目も見えず耳も聞こえなくなった男性との生活の中で、

原因はわからないが発狂

・男性にドッグフードを与え、犬小屋で寝起きさせていた。

・今は介護施設にいる。

「あの時自分に見えてたのは、

旦那の未来だったんじゃないかって思うときがある。

あの生臭いような臭い。

あれは旦那が生活していた犬小屋の臭いなんじゃないかって。

でも結局、誰の未来が見えていたとしても、

誰一人として

幸せにはなれなかったんだけどね。」

怖い話投稿:ホラーテラー 合法さん  

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