長文の実話です。
これは15年程前に私の若い友人達に起こった出来事です。
友人と言っても一回りも下なので当時彼等は、はたちになったばかりだったと思います。
私はある特殊な装飾品を創作する仕事をしているのですが、当時から妙に落ち着いてしまっている同級生達とは価値観が合わず、休み前にはいつも若い連中4、5人が工房に遊びに来ては毎夜酒盛りをしていました。
学生の頃、金縛りに遇いたくない一心で大酒を飲み始めた私。
彼等も、必要以上に気の若いオヤジを面白がって、いつも遅くまで飲んでは楽器をひいたり、たまには真面目に夢を語ったり、他愛ないない話で毎晩盛り上がっていました。
しかし、そんなある夏の夜。
その時留学していた友人が2人含まれているので夏休み中だと思います。
確か夜11時頃だったと思いますが、彼等の一人、Sから切羽詰まった様子で、私の工房に電話がかかってきました。
S
「Cさん(私)!M子の様子がちょっと変なんだけど、今から連れて行くから見てやってくれない?」
私
「変って?…どんなに?何してたん?」
S
「実はTとOと俺とM子の4人で隣町の紫陽花の咲くお寺が夜行くと凄く怖いと聞いたから、怖いもの見たさで行ったんだけど…M子が変で…このまま帰す訳には…えぇと…行ってから話すから取り敢えず行くから!行くから!」
私
「解った。気をつけて。だからそういう場所には行くなといつも言ってるのに…」
と言っている途中にもう電話は切れていました。
色々な霊体験があった自分を頼りにしての事だと思いますが、自分は霊能者でも神主や僧侶でもないので正直困りましたが、友人ですし、この状態で家に帰らせるのは不安と言うので、工房に来るように言いました。
ただ霊媒体質の祖母から、霊的に昂った状態の鎮め方を教わっていたので、応急処置だけでも出来ればと思いましたが、正直気が進むものではありませんでした。
30分程して、やっとの事で工房に来た目の虚ろなM子と、興奮しつつまだ顔色の悪い3人の話を聞いていくとこのような事でした。
その日、S、T、Oの男3人とM子の4人で集まって中華料理屋で夕食を食べていました。
その時Tが、何人もの友達から「隣町のあるお寺に夜行くと色々怖い事が起きる」と聞いたので、俺達も行ってみようという話になったというのです。
(最初から工房で飲んでいればいいものを…はたちになったばかりの好奇心旺盛な若者が、怖いもの見たさで行きたくなるのも無理はないですが…)
食事を終え店を出た4人はM子のメタリックグリーンの軽四に乗って、30km程離れた山の中腹にあるその大きなお寺に向かいました。
舗装された山道を上って境内下の広い駐車場に車を停めました。
照明は所々に有るくらいでかなり薄暗く舗装されていない駐車場。
見るからに何かが起こりそうな雰囲気に夏の湿っぽい空気も手伝って、怖いもの見たさで来たものの、その不気味さに圧倒されて誰も外に出られずにいました。
暫く躊躇していると、運転席のM子の様子が何かおかしい事に気付いた助手席のTが「M子!M子!」と声をかけ、怖くなった後部座席の二人も肩を揺すったりして様子のおかしいM子に話し掛けていました。
皆の問いかけには返事もせず、M子は窓の外を見ながら「あの子。あの女の子が遊ぼうって。遊んでって。」と一点を見詰めながら何かに憑かれたようにドアを開けようとしています。
外を見ても男3人には薄暗い駐車場には何も見えません。
ただならぬ状況に男3人は、3人のうちの誰よりも身長が高くがっちりしたM子が有り得ない馬鹿力で外に出ようとするのを止めるのに必死でした。
得体の知れない恐怖の中、「そんな女の子どこにもいないから!」と言い聞かせ ながら3人の男が必死で外に出ようとするM子を止め、直ぐに助手席のTが一度後部座席に移って、何とかM子を助手席に押し込め、Tが後から運転席に移りました。
M子はまだ「寂しいって言ってるから遊んであげないとぉ~!」と言い続けていましたが、慌ててTがエンジンをかけ駐車場から出ようとした途端…
ドンッ!!
と大きな音が!
「うぁ~あ~」
恐怖の絶頂に達した3人は叫び声をあげながら、まだ女の子の話をするM子を連れて、必死で暗い山道を下りてきたのでした。
山道を下りてくる間に訳が解らず不満そうなM子に、何があったのかOが聞くと、白いシャツに紺色のスカートをはいたおかっぱの女の子がいたでしょ?と逆にM子に聞かれ…
Oがそんな女の子居なかったし、夜中そんな子いたらおかしいと思わなかった?と聞いてもM子はなんで?とまた聞き返されて。
もうその最初の段階で魅入られたというか憑かれかけていたのかも知れません。
何とか車通りのある県道に降りてから公衆電話を見つけて車を停め、後部座席にいたSが私に電話をかけたと言うのがそのお寺での一部始終です。
皆の話を聞いている間も虚ろな目でぼんやりしているM子はまだ「あの女の子可哀想…」と呟いているので、先ずとにかく祖母に教わった気付け薬(本当の薬ではなく本人の意識をしっかり戻す業)を試してみました。
M子は10秒程のそれが終わった瞬間「ハッ」と短く息を吸い込み…いつもの目付きに戻りました。
(ばあちゃん凄い…)
それから落ち着いたM子本人に聞いた話では、お寺の駐車場に着いて直ぐに遠くからおかっぱに白シャツ、紺スカートの女の子が歩いてきて、車の運転席の外からM子に「遊ぼう。遊ぼう。寂しいから遊んで。」って話し掛けてきたというのです。
近づいてくる時からそんな夜中に女の子が一人で居る事も全く不思議にも思わず、怖さも全く感じなかったらしいのです。
ただ凄く可哀想になってきて、とにかく遊んであげなければいけない…遊んであげなければいけない…と、そればかりがどんどん強くなってきたというのです。
M子は根が子供のように純粋な子だったのでその小さな女の子の霊に波長が合い気に入られてしまったのかも知れません。
M子も自分が取り憑かれたような状態になっていたのを自覚したようで、何とかいつもの彼女に戻ったし、一通り皆の話を聞いて落ち着いたので、M子を送って行こうと4人で表に出ました。
その当時私が借りていた駐車場には水銀灯があり、夜でもかなり明るい駐車場でした。
まだまだ興奮覚めやらぬ5人が、駐車場の水銀灯の下にあるM子の車に近づいた時…
「うぉ~お~!!!」
と叫んでしまった私が夜中と気付いて慌てて自分の口を手で塞ぎました。
その声と私の指差すM子の車を見て全員口を押さえたまま同時に
「んん~んぁ゙~」
とこもった絶叫をしていました。
M子の少し砂埃をかぶったメタリックグリーンの軽四の表面に…
ホイールカバー…バンパー…ドア…ボンネット…
何と…ルーフまで
小さな手形がびっしりと隙間無くついていたのです!
その時Tが
「あの音は……」と呟いて皆に視線を送りました。
帰りの公衆電話も薄暗かったし、私の駐車場に停めた時はとにかく早く工房に行こうと焦っていたので、手形には全く気付かなかったそうです。
不思議な事にガラスやタイヤの部分にはついて無かったので、霊現象には静電気とか関係あるのか?でも塗装してるし…等と皆、分析しながらもそんな事が判るはずもなく…
それから…
余りの怖さに結局M子も含め5人で朝まで工房で飲み明かし、すっかり明るくなってから彼等は帰って行きました。
更にそれから15年…
皆それぞれ浮き沈みもありましたが、それなりに元気にやっていますので、大きな影響は無かったのかも知れません。
しかし実際この目で…小さな子供が届くはずもないルーフまで、びっしりと隙間無くついた小さな手形を見てしまった時には、本当に総毛立ったのを覚えています。
今回も微妙に重苦しい空気の中、焦って書いたので、誤字脱字ありましたらお許し下さい。
怖い話投稿:ホラーテラー 宮大工さん
作者怖話