本当にこんな事あるんだな、と感動した話。
ある日、夜中に無性にラーメンが食べたくなった。
『コンビニにカップ麺でも買いに行くか』と支度をしている時、大学の先輩が、俺が住んでいるマンションの近くに美味いラーメン屋があるといっていた事を思い出した。
一応、場所も聞いていたので、記憶を頼りに自転車をこいだ。
教えてもらった場所周辺を彷徨っていると、それらしきラーメン屋を発見した。
薄汚れた暖簾、塗装が剥げて下手をすれば「ラーノン」と読めそうな看板、はっきりいって自ら進んで入ろうとは思えない外観だった。
とりあえず店に入る。
内装は、テーブルカウンターのごく一般的な作りで、厨房には愛想の良さそうなおじいさんが、「いらっしゃい」と、笑顔で迎えてくれた。
席について、醤油ラーメンを注文した。
店内をぼーっと見渡していると、調理中のおじいさんと目が合った。しかし、すぐに視線をそらされる。また目が合う、そらされる。どうやらチラチラと俺の様子をうかがっているようだった。
『俺が食い逃げしそうに見えるのかな?』と思っていると、「お待ち」と、ラーメンが出て来た。
見た目は、味付け玉子、メンマ、少し厚めのチャーシュー、刻み葱ののった普通の醤油ラーメン。
正直、『本当にうまいのかよ』と不安を覚えながら、一口食べてみた。
衝撃だった。
美味い‼
本当に美味しかった。
今まで食べてきたラーメンと比べ物にならない程に美味かった。
思わず、「うまっ‼」と声に出してしまった。
夢中で麺を啜り、普段は残してしまうスープさえも飲み干してしまった。
『これは良い店おしえてもらったな』と大満足で会計を終えて、店を出ようとした時だった。
「ちょっと」
店主であるおじいさんに呼び止められた。
「つかぬ事を聞くけど、お客さんどうやって来たの?」
俺はこの店で酒は飲んでいないし、飲酒運転の確認はないはず。
何故そんな事を尋ねられるのか不思議思った。
「自転車で来ましたけど」
すると、おじいさんは考え込む様に腕を組み、首を捻っていたが、「まあいいや。呼び止めて悪かったね。ありがとう」と、笑顔で見送ってくれた。
帰り道。早速先輩に電話をかけた。
「先輩に教えてもらったラーメン屋、行って来ましたよ」
「おお。どうだった?美味かっただろ?」
「はい。あんな美味い醤油ラーメン、はじめて食べましたよ」
「醤油?俺が教えた店は豚骨しかないぞ」
「え?先輩が教えてくれた店っておじいさん1人でやってる……」
「違うよ。おばさんと息子さん、二人でやってる店だよ」
どうも話が噛み合わない。
まさか間違えた?
そう思い、確認のため、その店の外観を写真に写してメールで送ろうと来た道を引き返した。
唖然とした。
これ程まで唖然としたのは、初めてかもしれない。
さっきまでラーメン屋だった場所は駐車場になっていた。
店を出てからまだ数分しか経っていない。場所を間違えるわけもない。でも、確かにラーメン屋があった場所は駐車場になっていた。俺はその場に立ち尽くす事しか出来なかった。
のちに分かった事だか、その駐車場があった場所は昔ラーメン屋がおり、おじいさんが1人で切り盛りしていたそうだ。しかし、そのおじいさんが亡くなり、後を継ぐ者もおらず、潰れてしまった。
そして、そのラーメン屋は醤油ラーメンが美味いと評判だったそうな。
あの時、おじいさんがなんで、「どうやって来たの?」と尋ねたのか分かったような気がした。
因みに、先輩オススメのラーメン屋にも行ってみたが、あの醤油ラーメンの味を超える事はなかった。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話