私が幼稚園の頃の話です。
幼稚園に入りたての私は、毎日とても楽しく過ごしていました。
ある日の通園時のことです。
いつもの道を通っていました。その道は住宅に挟まれるようにある一本道で、車一台通るのがやっと・・・といった道でした。
いつもの道 いつもの時間
私がそれに気づいたのは、その道を半分ほど通ったあとでした。
真っ黒のシャツに真っ黒のズボン。背は軽く曲がり、足は裸足。
見たことのないおじいさんが、遠くを見つめる感じで立っていました。
私は一瞬足をとめたものの、特に気にせずそのおじいさんの横をすり抜けました。
瞬間
「おーい、坊や」
機械のような、無機質な声がおじいさんの方から聞こえました。
あまりに唐突だったため、私は思わず振り向いてしまいました。
すると、すぐそこにおじいさんの顔がありました。
目はくぼんでいて 顔中シワだらけで、歯は一本もなく口元はありえないほどつり上がり、気持ち悪い笑顔をしていました。
私は 叫ぶことも泣くことも忘れ、すぐに逃げ出しました。
恐いー……恐い恐い!!
本当にそれだけしか考えられず、また、その感情が私の足を動かせていました。 後ろからは「かかかかかかか!」という笑い声が聞こえてきました。
追いかけられてるー!!
そう直感しました。
幼稚園につく前の長い坂道を必死に走る頃には、笑い声は消えていました。
私はそこで初めて後ろを振り返りました。
坂の下の方におじいさんがいました。
おじいさんは手招きをしながら「おーい…おーい…」と呼んでいました。
私は恐くなり、走って幼稚園へ向かいました。
多分その時には泣いていたと思います。
幼稚園に着いて、私はすぐ先生にその話をしました。
先生達は、泣きながら訴える私を見て信用したらしく、すぐに、注意を払うよう近隣の小学校などに連絡をしていました。
それでも私は、安心できませんでした。先生方はそのおじいさんを不審者として扱っていましたが、私は、あれを確実に人間ではないと思っていました。
私は、その日の帰りは母親に迎えに来てもらいました。
帰るときにもその道を通りましたが、何もなく、普段通りお風呂に入り食事をし、眠りにつきました。
ですが、深夜一時ほどかなりの寝苦しさに目をさましました。汗をかなりかいていました。
当時は部屋にクーラーがなかったので、少し窓を開けようと思いました。
カーテンに手をかけた時、外から声が聞こえました。
「おーい…おーい…………坊や、坊や………」
私はビクッとして、すぐさま母の布団に潜り込みました。
アパートの二階のベランダから聞こえる声ー…その時には、私の考えは確信に変わりました。
「絶対人間じゃない…!」
外では、まだ声がしてます。
「坊やー…坊やー…いるんだろ?坊やー…おーい…おーい…」
もう恐くて耐えられなくなり、何度も「やめろ!やめろ!」と泣きながらつぶやいていました。
朝になるころには声も聞こえなくなり、私は急に来た安心感から小便をもらしていました。
それを未だに父親は笑い話にしてからかいますが………
その日以来私は一本道を通るのをやめ、かなり遠くなる回り道で幼稚園に通っていました。
小学校あがるころには親戚の事情で別の町へ引越し、完全におじいさんを見ることはなくなりました。
あとから聞いた話ですが、私の家のベランダに現れた次の夜、他の友達の家にも現れたそうです。
多分、手当たり次第に私を探していたのだと思います。
それから20年近くして、免許をとった私は、卒園まで過ごしてたその町の懐かしさに誘われ行ってみました。
最初、恐々と一本道を歩いてみましたが、何もおこりませんでした。
結局、あのおじいさんがなんだったのかわかりません。
その後その頃の友達と会い、通ってた幼稚園を見たり、遊んだ公園を見たりしていました。
友達がふと、「お前が小さい頃はなしてたジジイって……黒シャツか?」と聞いてきました。
一瞬びっくりしましたが、咄嗟に「そうだけど…なんで?」と聞きました。
友達はボソッと言いました。「一週間くらい前にお前が昔住んでた部屋のベランダにいた…まだお前を探してるかも…」
その話を聞いて、最後に行こうとしていたアパートは断念しました。今は見つからないことを祈っています
怖い話投稿:ホラーテラー ころんさん
作者怖話