もしあの時、あれに飲み込まれていたらと思うと今だに背筋に電流が走る。
あれは俺が高校に入ってしばらくしてから体験した。
当時俺は霊感などまったくなく、見ることも感じることすらもない普通の高校生だった。
高校にはいってから仲良くなった友人がいる。仮にTと呼ぼう。
5月の連休にTの家に泊まりにいくことになった。Tの家は山の麓にあるお寺で、結構大きいんだ。
俺は霊感こそないものの、怖い話をきいたり、霊がでそうな場所にいったりするのが好きなため、変にテンションが上がっていたのを覚えてる。
夕方くらいにTの家につくとTが出迎えてくれた。
彼の横にはもう一人いて、Tが紹介してくれた。
彼の名前はD。
Tの親友で遊びにきてたらしい。
Dはかなりの人見知りらしく、はじめはほとんど喋らなかった。
Dとも大分打ち解けてきたころ、Tがこんなことを言い出した。
T[うちの後ろに山があるだろ?あそこにさ縄で囲まれた穴?洞窟?みたいなのがあんだよ。お札とかもぶらさがってて、いかにも!って感じなんだよ。前からいってみたかったんだけどさ、一人でいくのは流石に無理だったからさ、今からちょっといってみねぇ?]
俺はすぐに食いついたがDが若干渋っている。
なんとかDを連れだし3人で山にはいっていった。
懐中電灯の明かりを頼りに暗い山道を歩いていく。
途中から足場が非常に悪く、お世話にも道とは言えない道を進んでいく。
T[そろそろ着くぞ]
山に入ってから40分くらい歩いただろうか?
目の前に冷たい空気を吐き出す洞窟のような物が姿をあらわした。
Tが言うように、縄が張ってあり、所々にお札がぶらさがっていた。
見るからにやばそうな臭いがプンプンする。
Dの方を見ると少し青ざめたような顔をしている。
大丈夫かと声をかけたら、ゆっくり頷いた。
Tは縄の近くまで行き、中を覗いていた。
T[せっかくきたんだし、ちょっと中みにいくか?]
Tの言葉にビビりながらも、ここまできて引き返すわけにもいかず頷く。Dも恐らく同じような気持ちだろう。
縄をくぐり洞窟の中にはいると、なんとも言えない冷たい空気が流れていた。
その洞窟は思っていたよりも長く、10分ほど歩いただろうか…
目の前に社みたいな物が姿を表した。
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社を照らすと尋常じゃない数のお札が貼られている。
Tは社の近くに立ちまじまじと見ている。
T[なんか鍵かかってるわ。どーにかして開かないかな]
社の扉は頑丈な鍵で閉ざされており、開けるの無理そうだった。
(まぁ恐らく俺とDはホッとしていた)
するとTがおもむろに扉に手をかけ、力でこじ開けようとしていた。
[こら!T!やめろ!!]
Dが今日一番の声をあげる。
するとTは舌打ちをしながら渋々俺達のほうに向かい歩いてきた。
そのとき………
カラーン……という音が洞窟内に響いた。
Dの顔が見る見る青ざめていく。
Dの視線の先に目をやると、先ほど掛かっていた頑丈な鍵がへしまがり、地面に転がっていた。
俺は今まで感じたことのないような悪寒を感じ無意識のうちに声を出していた。
逃げろ!!
TとDはいわれなくともわかってると言う表情で、三人揃って洞窟の出口にに向かい走りだした。
そのとき、バン!と言う強烈な音と共に、社の扉が開いた。
俺達は全力で走った。走ってる間も後ろは絶対にみないように。
俺達の足音を追うように後ろからズルズルという音が聞こえてくる。
[何なんだよあれは!?]
Dがパニクりながら叫ぶ
やがて洞窟の出口がみえた。
俺達はそのまま山を下り走り抜けた。その間もズルズルと言うおとが聞こえくる。しかも、さっきより音が近い。
ヤバい……まじでヤバい…半泣きになりながらTがヤバいを繰り返す。
そのとき、Dが木に躓き、派手にこけた。
一瞬とまる空気。
[うわーーー!!]
Dが絶叫する。
あれはすぐ傍まできていた。
D!逃げろ!!
Tが叫びながら、ポケットに入れていた塩をあれに目掛けてぶん投げる。
一瞬怯んだようにみえた。
その隙にDをひっぱり起こし、山を全力でくだっていった。
なんとか寺に着くと入口にTのじいちゃんがたっていた。
Tはやく!こっちにこい!
じいちゃんは物凄い剣幕で声をだす。言われるがまま俺達は本堂に駆け込んだ。
本堂の中にはTの親父がいた。
[バカタレ!!お前ら何した!]
物凄い形相で俺達を怒鳴りつける親父。
もぉみんな半泣きだよね。
そうこうしてるうちにじいちゃんがはいってきた。
(ここからはじいちゃんの話)
[お前ら、あれをみたのか??]
みんな一斉に頷く。
[そうか。見てしもたんか…あれは鼠雀というてな。昔このあたりが飢饉になったとき死んだ者たちの怨念の塊じゃ。恐ろしいほどの力をもっとる。今もまだ本堂の外におるわ。いまからわしら二人であれを払いにいく。お前らはここでじっとしとれ。わかったな?払いきれる気はしないんじゃがな…]
じいちゃんはそういうと親父と一緒にでていった。
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じいちゃんと親父が出ていって暫くたつ。
外からはお経が聞こえ、時折激しい音が響く。
俺とDは完全にビビって声もでなくなっていた。
そんな中何を考えてるのだろう、Tが入口の戸を開け外を覗いている。
俺はこの時、こいつはバカなんだと改めて思い知らされた。
T!!
Dが慌てて叫ぶ
その声にあれが反応したらしく、Tは尻餅をつき、あとずさりしている。
[はよ閉めんかバカタレ!]
じいちゃんの声が聞こえる。Tがあたふたしてるうちにそいつがどんどん近づいてくる。
慌てて戸を閉めるT。
その瞬間、ドン!ドン!とあいつが戸に体当たりしてくる。
そしてついに戸が破られ、そいつが姿をあらわす。
この時初めてそいつを凝視しちまったんだ。凄い形相でTのほうをみてた。
慌ててTの親父が入ってきて、手に持っていた数珠をそいつに投げつけた。
[#$%&:%$###!!!!!]
なんとも言えない奇声をあげる化け物。
じいちゃんも入ってきて、二人で囲みお経を唱えつづけている。
そいつは奇声を上げながら激しくのたうちまわっていた。
どれくらい時間がたっただろう?じいちゃんがお経を唱えながら、その化け物の前にたつと、右腕を前に出した。
その瞬間化け物がじいちゃんの腕を切り落とし、のみこみやがった。
じいちゃんがその場にしゃがみこむと、化け物は背を向け山にもどっていった。
じいちゃん…
Tがじいちゃんに駆け寄る。
[バカタレ!!]
親父におもいっきり頭を殴られたT。
そのあと暫く説教されたよ。まぁあまりの出来事で全然頭に入ってこなかったけど。
説教のあと親父は鼠雀について詳しく話してくれた。[あれがどうやって生まれたかはじいちゃんから聞いたな?あれは化け物だが、神仏ぐらいの力を持っとる。うちは代々あれを鎮めるためにここに寺をもっとんじゃ。もしわしとじいちゃんがおらんかったらお前らあれに飲み込まれとるわ。山から嫌な気配がして、本堂に結界張ってお前らをみえんように隠したのに、このバカたれ!
じいちゃんが腕くわせとらんかったらどんなことになっとったか。あれは常に腹減らしとんじゃ、本来腕一本くらいで帰ってくれるようなもんじゃないで。
これに懲りたら二度とあほなことはするな。
じいちゃんおらんかったらみんな死んでたわ。]
俺達は流石に反省したよ。じいちゃんは腕食われたけど、不思議と血はでてなかったね。
長くなったけど最後まで読んでくれた方ありがとう。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話