『ジリジリィ』
目覚ましがなった。いつも通りの朝。時刻は6時30分。手早く朝食を済ませ、スーツに着替え出勤する。…ハズだった。
僕は都内のマンションに住む、いたって普通のサラリーマン。今日も、使い古した愛車に乗り込んで、見慣れた道を通って会社へ通う。ラジオをつけると丁度、時刻のお知らせをしていた。『只今の時刻7時40分です。』その瞬間、僕の目の前が眩い光に包まれた。
「何だったんだ?」まいっか、会社に急ぎ、車を飛ばす。今日は同じ部で働く真希に、この指輪を渡す。言ってみればプロポーズだ。
…あれ、おかしい。確かこの道は、曲がり角なハズ。ふと辺りを見回すと、見たことのない街並みだった。「何なんだ?一体。」僕は何年も同じ道を通って会社に通っていた。道を間違えるハズはない。
「弱ったなぁ。」車から降りて、腕時計を見ると7時40分…あれから一分一秒もたってない。僕はだんだん怖くなって来た。「とにかく、人に聞いてみよう。」そう思った僕は、街行く人に話しかけようとして、愕然とした。
「かっ顔が!?」そこを歩く人々には顔が無かった。聞き慣れない言葉で喋りながら、行ったり来たりする亡霊のような人達。僕は本格的に頭がおかしくなったのだろうか。
すると、僕の目の前に見覚えのある道が見えた。「この道だ。この道を行けばココから抜け出せる。」何故だか分からないけど、その時僕はそう思った。
その道に向かって歩こうとした瞬間、「ダメ。ダメよ、そこにいっちゃダメ。戻って来て。」真希の声が遠くから聞こえた。「真希?どこだ、ドコにいるんだ?」「こっちよ。こっち。」気が付くと、いつの間にか、道が光を放ちながら、閉じ始めていた。「あっ、道がっ!」そこで、僕の記憶が途切れた。
目が覚めると、真希が心配そうに僕を覗き込んでいた。「目が覚めた?」「ココは…。」「病院よ。アナタ交通事故にあって、この病院に運ばれたの。一時は、奇特状態だったのよ?」
そう、あの時僕は、この世とあの世の狭間にいたのだ。もし、あの時真希の声がしなかったら…。僕はこの世にいなかったかもしれない。
皆さんも見知らぬ街に迷い込まないように、ご注意下さい。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話